第44話 公爵令嬢はリレー大会でポップコーンを売る
新しい教科が実施されて、私は大変な事を知ってしまった。
ひとつは、私には音楽の才能が少しもなかった。
私のクラスが音楽の時、一緒に授業を受けてるのだけど、どの楽器もちっとも上手く演奏できないだけじゃなく、歌もめちゃくちゃ下手だった。
楽譜は読めるのに、音程とリズム感が死んでいた。
クラスで一番歌の上手いレナちゃんという子に、「フランちゃん先生のうた声ってじゃまだね」と言われてしまった。
子供とは時に残酷である。
もうひとつは、私は運動神経も全然なかった。
私のクラスの時や、他のクラスで人数が足りない時、メンバーとして私が入る事になるんだけど、致命的に鈍足だった。
バトンパスも、バトンを受け取れず落とす、後ろを見ながら走ると転ける、走りながら相手の手にバトンを置けない、と言う醜態を何度も晒す羽目になった。
足の速い男子グループから、「うごきはメッチャ全力なのに、ぜんぜん前にすすんでない」「フランちゃん先生の入ったチームはぜったいビリになる」と言われ、「リレーの死神」と言う不名誉なあだ名を付けられた。
体育指導の先生なのに、このザマである。
つまり私は音痴で運痴だった。
音楽と体育を斡旋したのは私なのに、私自身は目も当てられない結果になってしまった。
…俺、もう少し音楽も体育も出来たはずなんだけどなあ。
そんなこんなで、他2校にも出向き、リレーのやり方を教えた。
他校の体育指導の先生は、二人とも運動神経がめちゃくちゃ良かった。
元々はハンターで、年齢が高くなってきてそろそろ転職を考えていたところに、教師、しかも勉強でなく体の動かし方を教える先生という理想の職業を見つけて、すぐさま応募して超高倍率の仕事を勝ち取ったそうだ。
そんなに応募があったのなら、うちの方にももう一人雇って欲しい。
さて、リレーを教えてもうすぐ1ヶ月。
皆んなずいぶんと上達してきた。
今では、クラスで選抜メンバーを決めて、クラス対抗リレーもしている。
そこで、遂に私が前から提案していたイベントを実行する事になった。
それは、運動会。
といっても、綱引きや玉入れ等リレー以外の競技はないので、厳密にはリレー大会なんだけど。
そして私は、久しぶりにジャンクフード作りに取り掛かった。
まず食材なんだけど、小豆の時の様に野草だから取り寄せられないと言った事はなかったので、入手は比較的簡単に出来た。
ただ、俺の予想していた通り材料は家畜の餌として栽培されていて、私が料理に使うと行った時、お母様はかなり渋い顔をしていた。
今回はジャンクフードを作る以外に、魔法の実験もしたいと思っている。
用意したのはトウモロコシ、それも皮の分厚い爆発種という物。
このトウモロコシを魔法で乾燥させようと思っている。
火属性魔法の特徴は「熱を操る」
つまり、「炎を出したり何かを燃やす」だけじゃないのだと気付いた。
そこで、このトウモロコシを燃やす事なく乾燥できるのか試してみる事にした。
生憎、今日の天気は雨。
しかし、だからこそ実験の成果を目で見やすい。
まずは、トウモロコシの周りの空気の温度を上げながら風を送る。
私は風属性魔法は使えないので、風は手動。
空気が徐々に乾燥していき、トウモロコシの水分がなくなっていった。
上手くいったようだ。
次に、トウモロコシ本体を温めて水分を蒸発させて乾燥。
これも上手に出来た。
つまり、火属性魔法は火を出さずとも、物を温める程度の加熱が出来ることが分かった。
…逆に、私も含めて何で今まで誰も気付かなかったんだろう。
トウモロコシが乾燥できたら、あとはもうカンタン。
乾燥したトウモロコシから種を取り出して、油を敷いたフライパンに種を入れたら、蓋を閉めて暫く待つだけ。
入れすぎたら大変なことになるから、量には気をつけて。
ポンポンと弾ける音がしてきて、それが止むまで加熱。
塩やカラメルソースで味付けすれば、はい、ポップコーンの出来上がり。
リレー大会当日。
事前に宣伝をしていたわけなんだけど、子供の家族を筆頭にかなり多くの見物客がやってきた。
その量は予想を大きく超え、グランドの隅の方まで人でいっぱいになり、先生達と協力してお客さんを整理した。
校舎沿いには、ブリキッド商会の屋台がいくつもある。
代表作ともいえるポテチを始め、ハンバーガー、フライドポテト、アイスクリーム、炭酸飲料、唐揚げ、ドーナツ、そしてポップコーン。
私が予想していた通り、競技の合間や昼食時間は屋台がかなり混み合っていた。
そこで用意していたのが、歩き売りのお姉さん方。
野球場のビアガールみたいなものだ。
「本日新発売のポップコーンはいかがですかー?」
「サクッと軽い食感がクセになりますよー!」
「塩味とキャラメル味の2種類用意してありまーす、お好みの味をお選びくださーい!」
「おう姉ちゃん、その白いのと茶色いのが新作か?」
「そうです、試しに一粒いかがですか?」
「いいのか?
悪いな、じゃあ頂くぜ。
な、こりゃ美味い!
コーラと塩味のポップコーンを売ってくれ!」
「こっちにもキャラメル味2つちょうだーい!」
「おーい、こっちもだー!」
中々良い反応のようだ。
ポップコーンを食べながらリレー観戦、しかもその場まで売り子が食べ物を売りに来てくれるというスタイルが、かなり受けた。
リレーの方も、1ヶ月間練習した成果を見てもらうために頑張る子供達と、普段こういった娯楽がなかったお客さんにとって、とても良い刺激になった。
来週には、3校合同の選抜リレー大会が決定されている。
今日のリレー大会が大成功に終わり、皆んな今から楽しみにしていた。
因みに私は、先生同士でのリレーに出場させられた。
結果は聞くな、コノヤロー。
公爵令嬢はジャンクフードが食べたい 菜花村 @Neichon
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