第116話 村づくりを始めたい。

 宴も終わり、日常が帰って来た。オークたち及び人族、獣人たちはそれぞれの住居へと戻っていく。とはいっても、結界により村の安全圏は一気に広がっている。まだ村の皆さんには説明してないけれども。この村はもともと草原エリアに隣接した林の中になるわけで、現在はその林だけではなく、草原エリアを中心とした直径10kmもの広さが安全エリアとなっている。このあたりはおいおい説明していこう。


 村長さんに『また明日~』と軽くあいさつだけして、トレーラーハウスに戻る。結界の動力源兼発生源である魔石はまだ持ったまま。なにげに僕が移動しても結界範囲がいちいち移動しないのは優秀なんだよね。あとでトレーラーハウスに設置しておく。


「う~ん、標高は2500mくらいか。」


 スマホのアプリ画面を見ながら独り言ちる。普通に住めなくもない標高だけど、夏だというのにけっこう冷えるな。結界の中の気圧を指定して制御しなければ、ある程度標高もスマホで分かるのは便利。あまりにも高高度だと気圧維持とか指定してしまうので、おおよそしかわからんけども。


 今後トレーラーハウスの近くに百葉箱でも設置したいところ。本来は計画的に元魔物の島とかスベトーラ地区の家なんかに設置して記録を取るつもりだったわけだけど、結局おざなりにしてしまっている。まあそれもこれも、初期じっくり練ったはずの傾向と対策通りに何も進んでいない結果なんだけども。しかも地球で購入した文明の利器ってほとんど魔法で代替えできているもんな。科学文明が進歩しないわけだ。


 とにもかくにも、いろいろと考えて魔法の実験をしたり、対人対策を練っていたのに、物事は思い通りに進まないものだよね。これも長年ひとりだけで過ごしていた弊害かも知れない。とはいってもやはり積極的に誰かにかかわるつもりはないのだけれども、ファガ王国の皆さんやエレナと知り合って、僕の対人キャパはいっぱいいっぱいなのかなぁ。日本というか地球側では新規の知り合いはキャサリンさんとその会社の方々くらいなんだけども。


 とにかくこの魔物の山の中の拠点で今後の行動指針でものんびり考えるとしよう。


 トレーラーハウスでノートパソコンを起動して、過去のメモやtodoリストを見ながらいろいろ考察する。転移以降目まぐるしく周辺環境や交友関係が変化してるから、方向修正も必要なのだ。


「この『Rエルフ村』はしばらく秘密基地にするとして……」


 ペットボトルのお茶を飲み独り言ちながら、ひとまずの方向性を考察する。


 この村のオークさん達と同じように、いわゆる魔物のオークも言語を話すことができるのだろうか。考えてみると目前でこれまで対峙したことのある魔物って、モンスター・ボアだけしかいない。もちろんインベントリにはドラゴンとかワイバーンとか他にも多くの種類のモンスターが入ってはいるけれども、それぞれ順に出してコミュニケーションしてみるべきだろうか。


 もし意思の疎通ができた上で敵対しないのならば……いや、意思の疎通ができなくても、なんというか地球の人間とペットや家畜のような関係が構築できるならば、特に討伐する必要がない気がする。ギルドの魔物図鑑を鵜呑みにしないで、ちゃんと調べた方が良いかもしれない。


 その上で、再度魔物の山をちゃんと調べてみよう。人間の国ももちろんいろいろ巡りたいけれども、精神的に魔物と対峙する方が僕にとってはかなり楽だし。もちろん僕の魔法が通用しない魔物さんもいらっしゃるかもしれないので、慎重に事は進めるつもりだけど、いまのところドラゴンレベルまでは大丈夫だろうと考えてる。インベントリの中のドラゴンさんとコミュニケーションがとれれば、魔物の山の事とかもっとわかるんだろうな。


 今までおざなりにしていた、大陸の地図も大雑把でいいから作成することを心に誓う。いや、大陸というよりも、できればこの異世界の球儀を作ってしまいたいところだ。大まかな星の直径なんかも計測したい。まだ僕の知っている範囲はファガ王国の一部とその他ほんの少しのエリアだけだし、今後移動するにもまずは白地図レベルで良いから位置関係だけでも把握しておきたいし。


 うん、秘密基地の構築とともに、この異世界の把握を優先しよう。茜さんやエレナには、まあおいおい知らせればいいだろう。今のところは秘密基地だ。だいたい今までいろいろ計画しても、いきなりイレギュラーが発生してその後は流れのままに行動してしまっているので、ここはおひとり様で行動した方が、イレギュラーの発生時案は減らせるだろう。たぶん……。


 でも、いろいろ便利な魔法が使えるようになったとはいえ、ひとりでできる範囲はおのずと決まってくるよね。個人的には頭脳や筋力などの能力自体はぜんぜん成長してないわけだし。地球のインターネットみたいに、検索するだけで各種の情報が得られるわけではないからなぁ。考察を深めていくたびにいろいろと壁にぶち当たりそうだ。


「とりあえずは、秘密基地の設備充足と各種調査かな。あ、それとエルフさん探し……。」


 考察という妄想はとどまるところを知らない。結局のところ過去のメモもtodoリストもあまり見てなかったりする。


 床に就く前に、サーバの確認。相変わらずPVは伸び放題で、動画サイトのほうも順調のようだ。『Rエルフ村』の写真や動画も上げてみようかと思ったけれども、なんというかファッション的にあまりにも未開地の蛮族っぽいので、今後衣装なんかを着てもらってから撮り直すことにした。異世界人(オークを含む)に地球デザインのコスプレしていただく感じだろうか。うむ。


 う、風呂にも入らず、どうやら寝落ちしたまま朝を迎えたようだ。机に突っ伏して寝ていたせいか体中が痛い。でも自己<ヒール>で一瞬で気分爽快になるんだけどね。朝食は久しぶりにクッキータイプの完全栄養食とミルク。やっぱちゃんとした朝食もいいけど、こういう簡素なものの方が僕には向いているかもしれない。まあひとりで食べる場合だけだけども。


 今日は朝から秘密基地というか、『Rエルフ村』づくりを行う。まあ1日かけるわけではなく、午前中を村づくり、午後を異世界調査に泣てるつもりだけども。


 コミュニケーションが面倒とはいっても、オークさん達、人族さん、獣人さんなどの亜人さんたちとの共生を行う村なわけだから、今日はオークさん達に話しを通しに行く。昨日の反応からすれば、けっこう自由にできると思うし。


 洗顔と歯磨きの後、早速オークさん達の村に向かう。向かうとはいっても転移だから一瞬だけども。皆さんを驚かさないよう、透明化しているので、村長の屋敷の近くの物陰で透明化を解除して村長の小屋を訪ねる。


「おはようございます。村長さんいますか?」


 もともと玄関の扉なども無いような小屋なので、入り口から顔をのぞかせて声をかけると、村長さんと数名のオークさんが奥からものすごい勢いで飛んできた。まあ走ってきたわけだけど。小屋がめっちゃ揺れてるんだけど……。


「アタール様、ようこそいらっしゃいました。」


「村長さん、人族の代表の方も交えてちょっとお話があるんですが、いいですか?」


 村長さんはお付きっぽいオークさんにすぐに声をかけて、人族エリアに使いを出してくれた。


「ひとまずは、小屋の前にテーブルを出しますから、そこでお話ししましょう。」


 とはいっても、オークさんは大きいので地べたに直接座り、僕は椅子を出して座るという感じで円卓に就いて、あとは人族の代表が来るまではお茶でも飲んで待つことにする。村長さんにさすがにペットボトルを出しても上手く飲めなそうなので、オークさん用の多くなカップを用意していただき、そこにペットボトルの微糖紅茶を注いでお渡ししてみたら、ものすごい勢いで飲んでくれたので、お代わりをまた注いでみた。


「美味いですなぁ。」


 顔はブタなので表情は分かり難いけど、喜んでいるようなので調子の乗ってどんどんお代わりを注いでいると、他のオークさんもカップを持って並んだので、そのカップにもどんどん微糖紅茶を注いでいると、人族の代表さんもやってきたので、ひとまず挨拶をする。


「アルテムさん、おはようございます。」


「アタール様、おはようございます。」


 なんだか恭しくあいさつしてくれたけど、まあ今はスルー。椅子と微糖紅茶を用意してアルテムさんに着席を促す。


「さて、早速ですが皆さんが揃ったところで、僕から提案がありますので聞いて頂けますか?」


 村長やアルテムさん、そのほか周りに集まってきたオークさんや人族の方々、獣人の方々も頷いたので、早速プレゼンテーションを開始した。

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田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。 けむし @kemshi

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