第115話 エルフはいないけどRエルフ村。

 説明しながら振り向くと、村長さんやアルテムさんを始め、数十匹のオークさん達がうつ伏せに倒れている。いや、寝そべっている?あ、これ知ってる。いわゆる五体投地というやつだ。土下座風のやつじゃなく、うつ伏せに寝そべっているやつ。というか、これって仏教関係の礼拝方法じゃないの?


「人間の雄、アタール様。我らの村はあなたに絶対敵対しませんので、何卒お許しを。」


 いやいや、許すも何も最初から敵対してないし、どちらかというと僕の方が勝手に近所に家を作った方なので、お許し頂く感じなんですけども。しかも敵対している相手に対して無防備に五体投地とかすれば、すぐに殺されてしまうのではないだろうか。


「村長さんも皆さんも、そんな風にしないで立ってくださいよ。僕は最初からあなた方と敵対するつもりはないですし、どちらかというと仲良くしたいくらいですよ。」


 目の前で五体投地のオークたちプラス人間1名。後ろでは雄たけびを上げるモンスター・ボアとワイバーン。鬱陶しくてしょうがないので、結界の外に出て魔物は拘束してインベントリに収納しておこう。


 日々というか時間を経るごとに、僕の対人耐性は向上している気がする。今の場合は対人というよりも対オークなんだんけども。


 オークたちを立たせて、ここではなんなので、再び村の中心部である村長の家に帰還してお話合いをすることにした。


 まあ言語を操るオークとはいっても、歴史を一族で紡ぐほどの知能はないし、文字もないので余り深い歴史を知ることもない。人間も柵の中から数名が参加していたけれどもこちらも同じようなもので、エレナのお婆さんのように新世代を教育するほどの方々はいなかったようだ。まあ、こんな魔物の闊歩する地で、生き残る以外の能力は必要ないもんな。


 なんだか外では宴の準備がなされている。聞いてみると、集落が安全になったという理由での宴会だそうだ。人間たちも総出で準備しているという。でも、この方々いきなり信用しすぎではないだろうか。


 そして気になるのが、この集落の統治。村長の指示に逆らう人が誰もいない。魔物なんだから、実力主義というか武力主義だと思っていたんだけど、どうやらそうでもなく、血統主義に近い統治のようだ。まるで人間の王国と同じ。オーク500匹・・・いやもう人でいいか。オーク500人、人間50人の合計550人程度の集落だから国というほどでもないけれど、まあ村長を頂点とした専制君主制の統治がなされている。文字が無いから法も特に無く、不文律を基にした統治だけれど。


 次に語彙の問題。オークも人間も言語はあるけれど長年使っている言語以外の語彙が少なすぎるので、僕の話す内容を理解するまで時間がかかり過ぎる。人間はけっこう理解が早いが、村長さんを除くオークさん達はなかなか理解が追いつかないようなので、今後教育が必要だろうな。できれば文字も覚えて欲しい。せっかく慣れてきたコミュニケーションなのに、語彙という壁で思うようにいかないのはちょっと困る。


 あと、今後魔物との闘いで命を落とすオークさんが居なくなることを考えると、人口が爆発的に増加するのではないかとの懸念があったが、なんとオークさん達は自由に生む数を調整できるという。これは強い敵が現れたときに、一気に戦力を増強するという魔物の特性らしく、生まれたオークの子供は1年足らずで青年レベルまで成長するという。それで言語まで話せるようになるとか、実はものすごく知能レベル高いんじゃないのか・・・。ちょっと認識を改めよう。


 宴会の突入するまえに、この集落・・・もう村でいいか。この村の現状を再確認。人口はいいとして、男女比はほぼ1対1、生まれて数十日で人間の子供程度に成長するオークは、すぐに戦闘訓練を行い、1年後には立派な戦士になるという。一族の危機がある場合はなぜか成長速度が速まり、数か月で戦士に成長するという。すごいな。


 そして人間は先住の人間はオークとともに山の麓に下りて、棄民探索を行い、人間人口を少しずつ増やしているという。もちろん新たに生まれる子供もいるけれども、オークほど子だくさんではないし、食糧も乏しいので人口を減らさない程度だそうだ。まあ、麓までやってくる棄民の数もそんなに多くはないだろう。なんせ人の国には奴隷制度があるんだから、働けそうな棄民なら自ら奴隷になるか、攫われて奴隷にされるかするのだろう。だからエレナがいた集落だって隠れ里のような場所で生き抜いていたんだろうし。


 ん?ということは今も山の麓に下りているオークと人間がいるのだろうか?村長に聞いてみると、1グループ、オーク6名人間4名が現在麓に行っているという。行ったからといいて必ず棄民を連れてくるとは限らないそうで、あくまで運が良くて、さらにオークの村であっても行きたいと望む人間のみ連れてくるということなので、年に数名程度居ればいいほうだそうだ。


 まあ、こんな気のいいオークさん達だけど、本来は敵対というか討伐対象の魔物であるわけで、同行している人間の説得があったとしても早々信じることのできる人間はいないだろうな。言わせてもらうと、ついてくる人間はよほどの世間知らずかバカだとは思う。ここの人間が文字の読み書きできないのもなんとなく納得できたわ。


 しかし僕にとってはいい場所ではある。人間界とは隔絶した魔物と人間の共存ワールド。ある意味異世界オブ異世界かつ田舎オブ田舎。異世界であっても下手な人間関係を構築してなくてもいい場所ではないだろうか。そして何より、この地の人間はもちろん普通の人族も居るのだけれど、ケモミミ率がとても高い。そう今日から僕はこの村を心の中で『Rエルフ村』と呼ぶことにしよう。Rはリアルの略ね。


 そうと決まれば、村長さんたちと詰める内容も変わってくる。そして僕の野望のためにはこの村の方々とはさらに良い関係を構築するべきだろう。『ちょっと一緒についてきてください』と村長たちに声をかけて、小屋の外に出た僕は、インベントリからモンスター・ボアのみを取り出して、サクッとモンスター・ボアから魔石を取り出し〆る。モンスター・ボアは宴に提供する肉としても優秀だからね。


 周りで見ていたオークさん達は心臓のあたりを手で抑えておののいているけど、あなたたちの魔石は抜かないから安心して。


「村長さん、僕は解体ができませんので、よろしくお願いします。」


「はい、モンスター・ボアを10匹も・・・。これならば住民全てに行きわたってなお余ります。アタール様ありがとうございます。」


 村長は僕に対して人間の雄呼ばわりがなくなり、さらに言葉遣いが丁寧になっているね。いい傾向だ。あとは果物とか野菜や穀物なんかを複製で大量生産して並べていくと、また周りの方々がうつ伏せに寝そべっていた。


 〆てすぐの魔物の肉が美味しいかどうかは知らないけれど、僕の提供した食材はそのまま宴に投入され、オークと人間が交じり合った盛大な宴が催されることとなった。ほんとこの村では人間とオークさんが仲良しだ。


 宴の最中、僕は透明化したコンデジを片手に人々の間を歩き回りにこやかに挨拶をする。粗末な衣装ともいえない程度の布切れ動物の毛皮をまとった女性たちがメイン。僕の後ろにはぞろぞろと若いオークが付いて歩いているけど、そこはなるべく視界に入らないにしておく。今日はかなりレアな写真と動画が撮れたと思う。最初に予定していた周辺調査とか魔物の山の調査なんかはまあ、今後じっくり行えばいいだろう。まずはこの村、『Rエルフ村』の再開発からかな。ここを理想の村にしてしまおう。

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