結話 珊瑚礁の海にさよなら……そして
派手な水飛沫をあげて、海に落ちる。
身体がバラバラになりそうな衝撃に一瞬意識が飛び、ゴボリッと息を吐きだして、深くふかく沈んで行った。
どっちが上か下かもわからないくらい沈んで、慌ててo(><;)(;><)oと手足を動かしてもがく。
息が苦しい。こりゃ溺れるなって、嫌な予感が胸をよぎった時だ。背後から温かい腕に抱きしめられて、ぐんぐんと水中を運ばれ、海面に浮かび上がった。
ぶはぁーと大きく息を吐き、はぁーはぁーと呼吸すれば耳元で、
「じっとしていてっ……」
ヨーコの声に、動きを止めてぷかぷか浮かべば、そのまま浜辺まで緊急搬送だ。
情けねぇ……(TДT)
浜辺に仰向けに横たわり、飲んだ水をぷぅーと吹き出せば、目に涙を浮かべたヨーコの顔が間近にあらわれた。
「海斗、大丈夫ですかっ?」
ほんとうは大丈夫じゃないけど、強がって笑ってみせれば、涙がぽろぽろと溢れ落ちて「ごめんなさい……」と繰り返して両手で顔を覆ってしまう。
その横にオズムが顔を出し、フッと笑って肩を叩き、親指を立てた。
何かを伝えようと話すが、やっぱりわからない。('_'?) すると、一語づつ区切って話した。
「……トゥモロー、モーニング、ツリー、ヨーコ……」
それが英語の単語だとわかり、頭の中で組み立てる。
どうやら、「明日の朝、ヨーコが行く。いつもの場所にいろ」と言っているらしい。
ウンッとうなずけば、もう一度肩を叩き、ヨーコを助け起こして連れていった。
さて、こちらも帰ろうと身体を起こせば、目の前に手が差し出された。顔を上げて見れば、最初に凄んだモブ野郎だ。
ボソボソと言う言葉は、どうやら謝罪の言葉らしい。
その手をがっちり握り、肩を借りて、その日は帰った。
* * Last day * *
明け方のスコールに洗われた坂道を、不安を胸に抱えてゆっくりと降りる。
オズムの言葉を勝手に解釈したけど、待ちぼうけだったら大笑いだ――その実、笑えやしないと思うけど……( ̄~ ̄;)
小道の曲がり角、フレームツリーの木立に恐る恐る顔を覗かせると、そこには赤に近いオレンジ色の花が咲いていた。
ノースリーブの膝丈のワンピース。足には白い編み上げのヒールが付いたサンダル。
お洒落したヨーコを見るのは初めてだ。
呆然として目を見張ると、気が付いたヨーコがはにかんで笑う。
「似合いませんか……?」
ぶるぶると首を振る。
きれいだ、きれいだった……恥ずかしくって、何も言えないほど。・゜・(つД`)・゜・
あわあわと言葉を探し、それでも何も言えずにいると、ヨーコがウフッと笑い、腕を絡めるように手を握った。
「行きましょ!」
ヨーコの声に、緊張して手と足が一緒に出てしまいそうだ。
だけど、どこに……?
ヨーコがお洒落してくるとは思わず、いつも通りのTシャツに海パンで来てしまったが。
不安そうに歩きだすと、クスッと笑って教えてくれた。
「わたしの秘密の場所。パパに会いたくなると、いつもは一人で行くの。
でも、今日は海斗と一緒です」
砂浜の横のごつごつとした岩場を手を繋いで渡り、岩山の影の海水に濡れた小さなトンネルを腰を屈めてくぐる。
そこはぽっかりと開いた、岩に囲まれた丸い広場だった。その真ん中に、澄んだ水を湛えた泉ような入江が広がっている。
ヨーコが反対側の岩の破れ目から見える、煌めく海を指差す。
「普段の出入り口はあそこだけ。でも、潮が引いた数時間だけなら、島からでも歩いて来れるの。
パパが教えてくれた、わたしだけの秘密の場所」
神々しく輝く水面を覗き込めば、珊瑚礁に囲まれた白砂の水底が深く遠くに見える。
ヨーコが岸の岩に座り、サンダルを脱いだ素足を水面に入れてピチャピチャと水を蹴った。その隣に座ると、温かい手がそっと重なる。
「今日はパパに報告です。
わたしに大切な人が出来ましたって」
驚いて顔を向けると、ヨーコがにこっと笑った。
「昨日、オズムが言ったこと、ほんとうにわかってなかったのね」
そして、重ねた手をギュッと握る。
「あの崖からの飛び込みは、この島の男が何事にも立ち向かえる勇気と強い意思を女に見せる、永遠の愛を誓う儀式なの。
海斗はオズムを指差してから飛び込んだでしょ。だから、あいつは俺にプロポーズしたのかって、オズムが笑ってました」
しまったΣ(×_×;)!
それならそうと、わかるまで説明してくれよ……。
慌てて言い訳しようとしたら、ヨーコがくすくすと笑った。
「だけど何も知らないのに、わたしのために飛び込めるのは凄いって……あんな奴がいるのに、結婚できないってフラれちゃった」
「でも、それじゃ……!」
嬉しい反面、ヨーコの生活を思うと心配になってしまう。
だけど、ヨーコは首を振った。
「もともとわたしたちは、隣り合った家に生まれただけで、そこにいるのが当然過ぎて意識したことなんてなかったもの。けれど、パパがあんなことになって、あれよあれよという間に、周りが勝手に決めてしまったの。
オズムは、わたしが困っているのなんて見てられないから、それでいいって言ってくれただけ」
「あいつ、いかつい顔なのにいい奴なんだね……」
ヨーコがフフッと笑い声を漏らした。
「顔は怖いけど、わたしの大切なお友達。わたしもオズムなら、いいやって。
この島に生まれた他の女たちのように、島の外のことも知らずに結婚して、子供を生んで、この島で死んでゆくのだと思ってたから……けれど、わたしは海斗と出会ってしまった」
ヨーコの澄んだ瞳に見詰められて、胸が高鳴る。
「わたしは海斗が好きっ」
チュッと触れた柔らかい感触に、頬をおさえてコテッと海に転げ落ちた。(@_@)
バシャッと水を飛ばし、ブクブク沈んで「やったーー!!d(⌒ー⌒)!」と喜びを爆発させ、いそいで水を蹴って海面に浮かぶ。
「僕は初めて会ったとき、人魚姫みたいだって思ったんだ――その時から、ヨーコが大好きだった!」。゚(゚^∀^゚)゚。
ヨーコが輝くように笑う。
「海斗、受け止めてっ」
岩から飛んだヨーコを全身で受け止めて、その柔らかい身体を抱きしめる。
僕たちは珊瑚礁に囲まれた、煌めく水のなかで初めての口付けをした。
二人で海面に浮かび、見詰めあう。
「海斗はわたしのヒーロー。わたしの心は、ずっとずっと海斗のもの。
次に会える時には、わたしも海斗に負けないくらい、もっともっと強くなってる。
だから、今はさよなら」(*^3(*^o^*)
柔らかい感触をチュッと唇に残して、僕の人魚姫はすぃぃーと海を泳いで去って行った。
* * 1year after * *
海斗は水底の白い砂に横たわり、キラキラ煌めく海面を見詰める。
この春に開業したリゾートホテルのおかげで、すっかり日本からの観光客に埋められてしまった砂浜とは違い、ここの静けさは一年前と同じだ。
ヨーコと呟けば、ゴボリッと吐き出された息がゆらゆらと揺れ、シルバーリングとなって水の中を上がってゆく。
にこっと笑みを浮かべて水底の砂を蹴り、そのぐんぐんと広がるシルバーリングを追いかけた。
水を手でかいてリングをくぐり抜け、バシャッと水面に浮かぶと――
「お客さん、そろそろランチの時間ですよ」
水面に浮かぶカヌーの上で、リゾートホテルに雇われた日本人用の新人観光ガイドが輝くように笑う。
去年は一度だって、時間なんか気にしなかったのに……( ̄ー ̄)
あの夏の日、ヨーコの秘密の場所から帰って帰国の用意をしていたら、息を切らした父さんがノックも無しに入ってきた。
「おまえ、あの崖から飛び込んだのか?」
その顔にウンっとうなずけば、父さんはドサッとベッドに座った。
「それで、彼女は何て言った?」
「今日、フラれてきたよ」
笑顔で答えて、ヨーコの言った言葉を教えると、ベッドに倒れてゲラゲラ笑う。
「あの崖から飛び込んだ、バカな日本人はおまえが二人目だ」
「最初の奴って、誰さ?」
ふと気になって訊けば、
「おまえの目の前にいるだろ」
にぃっと笑って立ち上げると、大股で部屋を横切り、ドアに手を掛けて振り返った。
「この島の女はなよやかに見えて、芯は鋼よりも強いからな。
後悔するなよっ!」
そう言い残して、また出掛けて行った。そのままホテルへ直行して、どうやらヨーコを推薦してくれたらしい。
父さんにはすっかり面倒を掛けてしまった。でも――
「ヨーコも一緒に泳ごうよぉ!」
「びしょ濡れじゃ、お客さんの前に出られないもの」
仕方ないとカヌーに泳ぐ。
「触らないでよ、濡れちゃうからっ」
「もう冷たいなぁ……」
カヌーに手を掛けて、バシャッと身体を上げると、チュッと柔らかい感触が唇に触れた。
「海斗のパパや、いろいろな人に応援してもらっているの。だから頑張らなくっちゃ!」
輝くような眩しい笑顔でヨーコは笑った。その笑顔に、新たに決意する。
僕も、もっともっと頑張るっ! 大好きな人の笑顔を、いつまでも守れるような強い男になるんだ!( ̄- ̄)ゞ
fln
海が太陽のきらり 穂乃華 総持 @honoka-souji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます