人生にサヨナラ 〜トラック事故で人生逆転!?〜

朱紀侍音

人生にサヨナラ 〜はじまりとおわり〜


「ちっ、リア充が。爆ぜて死ね」


 俺の名前は比嘉イヅラ。46歳。童貞。ニート。そして親のスネを齧りまくった引きこもりだ。


 といっても、今は外に出ている。コンビニに酒とポテチを買いに行っていたからだ。ババアにあれだけ言ったのに買ってこなかったから仕方なく俺が直々に出てやった。

 それにしてもあいつももう定年過ぎている。今は年金とパートで稼いだ端金はしたがねのみだが、あいつが死んだら俺はどう過ごせばいいんだろうか。


 とりあえず俺はコンビニ前で酒をもう開けて飲む。


 はぁぁうめぇぇ……


 ……今日はバレンタインデーか。リア充たちは自分たちの恋に浮かれて街中を徘徊してる。


 ん? 目の前には信号待ちしている女子高生が一人立っている。いや、誰か待ってんのか? 青信号になっても渡ろうとはしなかった。なんかオシャレな袋持ってやがるし、待ち人は男か? あの中にはチョコでも入ってるっぽい。

 俺は道路沿いに申し訳ない程度にある花壇に座っており、今は視線が低い。もう少ししたらパンツが見えそうなんだが……チッ、こいつスカートの下になんか履いてやがる。なに防寒対策してんだよ。


 ……ま、そういや今日は雪でもあったな。俺もこのままでは凍え死にそうだ。重い腰を上げて帰ろうとした時だった。

 交差点の向こうから走ってくるトラックが左折しようとしていたが、雪でスリップしているように見えた。

 このままでは目の前の女子高生が轢死してしまう。俺は急いで走り出し、女子高生を横に突き飛ばした。

 俺はその勢いのまま道路へと飛び出し、トラックに撥ねられてしまった。


「きゃあああああ!」


 微かに聴こえる女子高生の悲鳴。

 悲鳴をあげてるってことは無事な証拠だ。


 でも俺の意識が遠のいていく。これってもしかして、ネット小説で見た異世界転生か……? チート能力でも身につけて、女をはべりハーレム生活……!

 なら、ここで死んでもいいか。そう考えるとラッキーじゃねぇか……!


 こんな人生にサヨナラだ!



   ◇ ◇ ◇



「被告、前へ」


 私はいつ道を間違っただろうか。


 あぁ、あの時だ。2月14日の夜。あの日は雪だった。

 私は仕事で配達をしている途中、ある交差点を曲がろうとした時だ。急に男が飛び出してきたんだ。予想もしていなかったことだった。

 急には止まれずそのまま轢いてしまった。辺りには女子高生の悲鳴が鳴り響き、地面に薄く積もった雪には、泥と混じった汚い血色が染みついていた。

 相手は運悪く頭を強く打ったみたいで、救急車で病院に運ばれた時は既に死亡していたとのちに報告を聞いた。


 あの日も安全運転を心がけていた。私には妻子がいる。まだ娘は3歳だ。これからも仕事をたくさんしなければいけないのに。

 当然事故後、すぐに失職した。昔からの友人にも見限られてしまった。

 私に非は何一つとしてないはずなのに。


 そして、懲役2年、執行猶予4年の判決が言い渡された。


 結局、人を一人轢き殺していることに罪は変わりなかった。

 逃げもせず、周りの証言から過失があったわけでもないから、ある程度譲歩はしてくれてるのか。新人弁護士にしてはよくこの判決にしてくれた。

 まぁ、法律に詳しいわけではないから、軽いのか重いのかも分からないが。四年という数字は次のオリンピックが開催されるのだと思えば長い。いや、もうこの年になったら短く思えたりもするのだろうか。



 その後、妻に離婚を宣告された。当然のことか。


 しばらくして、一人誰もいない部屋に帰ってきた。

 真っ直ぐに生きてきたつもりだ。犯罪など犯したことはない。



「死のうか」


 つい呟いてしまった。

 死んだ先は何が待っているのだろうか。天国か地獄か。今の私なら間違いなく地獄に落とされてしまうのだろう。いや、次の世界があると考えるなんて馬鹿らしい。何も残らないんじゃないか。


「死ぬなんて、ただの逃げでしかないか」


 死ぬ勇気なんてあるわけもないし、しぶとく静かに生きることにした。


 とりあえず田舎の実家に戻ろう。都市の忙しさから離れたい。

 母に連絡すると、いつもの優しい声で「帰ってきなさい」と受け入れてくれた。

 良かった……私にはまだ味方がいる。


 だが、実家に戻ろうと駅に向かっている途中、私は車に撥ねられてしまった。


 これは逃げられない運命なのだろうか。

 撥ねられた時に見たのは、ながらスマホをしていた運転手の姿。なんだ、こちら側の立場になっても私に非はないじゃないか。



『──可哀想な人。あなたに力を与えましょう。しかしその前に一つ頼みたいことが。あなたの復讐を果たすことにも役立つ話です──』


 その声が脳内に聴こえている時には、私は地面に横たわっていた。赤い血を流しながら。



   ◇ ◇ ◇



「いやぁ〜、今日は誰と遊ぼうかなぁー」

「──君だよな。比嘉イヅラってのは」

「ん? 誰だお前?」


 勇者の姿をしているが、酷く醜い見た目の比嘉の前に現れたのは、なんの変哲もないただの村人Aの格好の男。


「私は君を殺した男だ」

「は?」

「まぁ、覚えてないよな。でも私は君のことを覚えている。この世界の神様に聞いたよ。冒険にろくも出ず、覚えた“魅了”のスキルで女を襲っているとか」

「襲ってるとは酷いなぁ。俺に奉仕させてあげてるんだけど。てかよ、モブがしゃしゃり出てくるなよぉ!」

「モブか。まぁモブだよな。でも君の死のせいで人生狂わされたモブもいるんだ。もし善人を轢いてしまっては私は罪を償わなければならない。だが、君の蛮行はこの世界各地に轟いている。だからこの世界の住民を救うため容赦はしない。今度はしっかりと私の意志で君を殺させてくれ。それが私の償いとなるのだから」


 男は踏み切りをつけると、真っ直ぐと比嘉に向かって走り出す。


「は、はぁ? あ、もしかしてお前って──」


 比嘉が気付いた時にはもう遅かった。彼は宙高く吹っ飛ばされ、跡形もなく肉体が散ったのだから。


「名乗ることはない。ここでサヨナラだ」

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