おヒメ様☆勘違いハッザァード!

低迷アクション

第1話

(おヒメ様☆勘違いハッザァード!)


始まりは我らが魔王“ハーグリーブズ”の一言だった。


「何かこう、家庭の味…っていうか、庶民の味?人間とかエルフの食べ物が食べたいな…」


魔王城の食堂風広間に集った異形の側近全員が顔を見合わせ、一番端に座ってる俺事、

元ゴブリン突撃団長。現魔族&怪物混成軍団近衛団長(肩書長くて大変失礼)

通称“ゴブ軍曹”の方を向きやがる。


“団長”なんて聞こえはいいが、ただの“使いっぱしり”と大差ない。


およそ“悪い奴”に見えねぇ、涼し気な顔立ちの魔王がこちらに視線を移す。困った事に

なりやがった…と、とりあえずの返答を返そう。


「魔王、そう言いますけど、今日用意した食事も部下が一生懸命揃えて、

料理長の“サラマンダさん”が自身の炎でイイ感じに焦がした“焦がし料理”の数々でっせ?

そりゃ、確かに見た目は黒いですけどよ…結構おいしいっすよ。ホラ!」


目の前の真っ黒鶏肉を頬張ってみせる。うん、言い焼け具合。骨もパリッとして最高やね!

後でサラマンダさんにお礼を言っておこう。


そんな俺を見て、魔王は悲しそうに目を伏せた。あれっ?逆効果か?これ?


「そうじゃなくて、こう何ていうかな。我々の食感じゃなくて、もっと人間っぽい、

流行りの“異世界ジャンルの食堂系”に出てきそうな奴がいいな。商店ギルドのまかない丼

とか、ドワーフの石窯焼き肉とか、エルフの作ったハチミツパン的なね。そういうのがいい。」


「えっ?異世界ジャンル?飯って何すか?てか異世界って何の話?別世界?…」


「確かにハーグリーブズ様の言う事も正しい。戦が終わり、平和な時代になって、早数年…

ある程度の交流があるとは言え、それも最低限レベルのみ。ここらで多岐に渡る

一大文化交流を促してみてはどうかな?ゴブ軍曹?」


俺の疑問をよそに、魔王の宰相である“邪神ガタノゾンア”が魚介類剥き出し軟体特徴の

触手を震わせながら意見を出し、


加えて隣にいた財政管理大臣の怪獣“ファーブニ”が補足する。


「聞くところによると人間側の世界ではエルフやドワーフ、天界の勢力といった

様々な文化が交流していると聞いておる。


戦争が終わり、ワシらは、ある程度の領地を取り戻した…といっても、元々ワシらが

住んでいた所に、勝手に住み始めたり、冒険したりする奴等との衝突が

争いの原因でもある訳じゃが…


人間達には侵略した領地をキチンと返したし、双方共、満足の行く形で終わった戦争と

いえる。今更、我々が人間の地に赴いた所で、何も謂れはないじゃろう。“ラノベ”でも

魔族と人間の交流、共闘モノは多いからの。問題なかろうて。頼んだぞ。ゴブ軍曹」


ファーブニ大臣の言葉に、魔王が健やかな笑顔を見せ“最終決定”を告げた。

笑顔は素敵だけど、ちょっと待って、待てってオイ!?


「じゃっ!軍曹、よろしく!」


「わかりました。だけど一つ良いですか?異世界?ラノベって何すか?

何で全員頷いてるの?えっ?何なの?俺だけなの?わかってないのはゴブリンだけなの?無知は俺達だけなの?」


「これにて解散~」


俺の疑問を無情に無視し、ガタノゾンアが話し合いの終了を宣言し、

とりあえず人間側の領土に


“文化交流(美味しい料理を教えてもらう)のための使節団”を送る事が決まった…



「オイッ?何でこの人“お姫様風の恰好していて”今じゃ何処の土地でも“死語”に近い

“奴隷”の証である“鉄の輪”を首に付けてるんだ?」

 

使節団は“俺”が行くべきだった…


目の前の泣きそうプルプルなお嬢さんを見て、心底、俺は思った…


「軍曹、話は上手くまとまりやした。3日後には魔王城へ来るそうです。」


そう言って、歴戦の傷に笑顔を綻ばせたのは、俺の腹心の部下、ゴブリンの“ガンス”だ。

戦役時代から共に戦ってきた。顔つきは凄いが、仲間や敵の捕虜に優しい配慮が

出来る奴である。だからこそ使節団の代表として抜擢した。


人選、いや獣選(じゅうせん)は成功だったようだ。厄介事が一つ片付いた事に安心する。後は上の連中なり、料理長のサラマンダさんに任せればいい。ガンスにねぎらいの言葉を

かける。


「ご苦労様だ、ガンス。向こうの連中、人間達の反応はどうだった?ビビッてなかったか?」


俺の言葉にガンスではなく、隣からひょっこり顔を出した蛇型モンスター

(と言っても、頭に蛇の皮被ってるだけの半獣半人タイプ)


“ラミアン”が尖った歯を見せて笑う。


「もう、何か全然!こっちの領土と、一番近い人間達の住処に行ったっていうのも

あるのかな?


“3日だけ…時間を下さい…”


とか言って、トントン拍子で進んだよー!」


「そうか!良かった。とにかく休め!そして飲め!ガッハハー!」


ご機嫌で秘蔵の酒を取り出し、二匹に振る舞う。その日は大いに酔っぱらった俺達であった…


そして3日後…

魔王城の前で馬車が止まる。豪華というより、やけに質素なデザインだ。黒い車に黒い馬…

幌も真っ黒。最近の人間界の流行りなのか?あれではまるで“死に装束”…?


こちらも歓迎の一団を揃えていたのだが、全員が一様に首を傾げている。そして降りてきたのは…


先程の姫の様子に戻る。


「ゴブ軍曹…」


隣で控えていたガタノゾンアが、俺に冷たい…軟体類特有のぬめっとした目をむけた。


「後は任せる。」


踵を返し、ヌタヌタ触手で移動する宰相を見送り、いつの間にか(早いな!)

目の前まで接近した姫様風の恰好+奴隷っぽい、お嬢さんがこちらを見て…

(馬車はとっくの昔に走り去る、いや、逃げていた)


フルフル、プルプル“か細いけど、とっても可愛い”


声を出した。


「あの、出来るだけ乱暴にしないって、約束して下さい…」


「はいっ?…」


「私は辺境都市“アスラン”の王“ジゼル”の娘“ミーミ”です。

貴方が私の“飼い主”でしょう?」


「飼い主?えっ…ええっ!?」


「あ、違いました。す、すいません何かこーゆう“ファンタジー系かつ鬼畜系エロゲシチュ”

では“ご主人様”と呼んだ方が良かったですか?ご、ごめんさない。色々初めてです。

すまません(ちょっと噛んだ?)」


「ファンタジー?エロゲ?シチュ?えっ?何なん?魔王といい、大臣達といい、

流行ってんの?てか、何の世界の話なの?ま、まぁっ、と、とにかくちょっとタイム。

待っててくだせぇ!オイッ、野郎共ォッ!」


満面の笑みで近づいてきたガンスとラミアンの胸倉をそれぞれ掴む。


「何すか?」


という感じの表情二人に詰問する。


「オイッ、馬鹿ツヴァイ共ぉっ!お前等ぁっ、使節団の時に、

どんな“格好”と“口上”で行き、どんな間違いをおかしやがったぁ?」


「痛いですぜ?軍曹!そりゃ、人間側の領土に行きますから、完全武装に

決まってるじゃないすか?(ガンスの強面に加えて完全武装で?とツッコミたいのを

必死で我慢する)」


「そうだよぉ~!軍曹、完全武装は常識でしょ?(戦時下のな!)

ちゃんとこちらの目的も伝えたよ~


“この国で一番美味いモノを魔王城に寄越して下さい”ってね?

ちゃんと伝わってんじゃん!あのお姫様、美味しそうな足にお胸だよ~?


(確かに魔物の好物“人間”だけど、人間側もそれはわかってるけど、今回欲しいのは

人間の料理の作り方!人間そのものじゃなくて!)」


部下の魔物達も人間側も完全に“勘違い”し、


人間視点では国一番“美しく”

魔物視点で見れば一番“美味しそう”な“お姫様”が送られてきてしまったという訳だ。


この二人にもっとちゃんと話を伝えるべきだった。そりゃ、美味しいモノをと言ったら…

魔物は人間の事を考えるよな。


「あの…ご、ごすじん様?(また噛んだ)」


ミーミ姫がシズシズ、オズオズ傍に寄って来る。早く説明をしないと偉い事になるな。

だが…その前に、いかにもな鉄輪を外してもらわねば…


「自分はご主人でもないし、そういう目的じゃないんですよ。姫さん。とりあえず

それを脱ぐ。いや、取って下さいよ。」


「脱ぐ。えっ?は、ハイッ!脱ぎ取ります。(素早くボタンを外し始める。慌てる俺)」


「いや、ちげぇよ!何っ!言葉ハイブリッドしてんだよ!…って、ワアアアアーーッ!!」


彼女が服をいじるまでもなく、途中からボタンがちぎれるように弾け飛び、幼い体つきに

不釣り合いな豊満バストが露わになる。とりあえず俺達全員が絶叫、歓喜の混ざった咆哮を上げた…



 「あっ、そうだったんですかぁ~。ごめんなさい。武装した魔物の襲撃なんて、ホント

久しぶりでして。皆、ビックリしちゃって。ハイッ、わかりました。」


笑顔ニパニパな感じで、何度も頷くミーミ姫(以下、ミーミと銘記)良かった。

何とか誤解が解けたぞ。


念のため、飛行能力を持つドレイク部隊に城内と周辺を見回ってもらうが、

人間達の軍隊はいないとの報告を受けた。戦乱勃発の危険は水際で回避出来ているだろう。今の所は…しかし、わずかばかりの杞憂はあるので、一応、ミーミに尋ねる事にした。


「あの、姫さん!」


「はい~?」


「念のために聞きますが、貴方の王国では可愛いお姫様が生贄にされると聞いて、

軍隊を派遣するとか、姫を取り戻すとか、そういう動きはなかったんですか?」


「あ、ないですね。多分、大丈夫だろうっていう事で。心配ない!って言われました~」


随分と薄情な…ゴブリンの俺でさえ、ビックリな国民性と思いつつも、一安心。

これで大丈夫。ようやく本題に戻れる。


「そうですかぃ。安心しました。では当初の予定でした、料理のレシピや

作り方とか、教えてもら…あっ、姫様は料理作りませんよね!困ったなぁ~」


俺が頭を抱えると、ミーミが再びのニパニパ笑顔で答え、


「あっ、それでしたら、大丈夫です。お料理は、ハイッ、こちらに~。」


彼女が両手を前に出し、


「ハイッ!」


の掛け声と共に、ミーミの背後の影が、まるで生き物のように素早く動き、そっちに目を

とられてしまった俺達が、姫に慌てて視線を戻すと、彼女の手には


“ホッカホカ”の料理が豪華なお皿付きで載っていた。隣のガンスとラミアンが目ざとく

飛び突き、食べ始める。


「凄い!!番組でやってる。“はい、実際に完成したモノがこちら”

みたいじゃないっすかぁ!?美味しいっすよ。軍曹!」


「ウン、これいけるよ。オムレツだっけ?超美味しい~」


いや、感心するのは、そこじゃなくてさ…


俺はすっごく思っていた疑問を口にする。


「ウン、いや、番組とか…また意味不明な言葉が出てたけどさ…姫さんちょっといい?

後ろから何か出たけど、今の…何っ?」


「あ、あれは!(ニパニパ笑顔が映え渡ったー!!)私の影“オボロ”さんです。

異大陸出身の護衛さんで料理、洗濯、戦闘何でも出来ます~。」


「ウン、ウン!いや、いいからさ。その護衛さん、ちょっと出てきてもらいたいな?

何となく姫さん一人でここに来た理由がよくわかったからさ。」


俺の言葉にミーミが


「ハイッ!」


と両手を叩くと、彼女の影が“ゾロリ”と動き、黒髪を後ろにまとめた、

切れ長お眼目の女性が出てくる。両手を“パンパカ~ン”な感じに鳴らす、

ミーミが笑顔で紹介した。


「オボロさんですぅ~」


彼女の笑顔とは全く正反対の“ブスっとした表情”で、オボロが一礼した。そのまま無言で

佇む彼女。明らかに不機嫌だ。ウン、そうだね。でも誤解は解けてるだろ?ずっと後ろに

いたんだからさぁ…


そんな俺の杞憂が伝わったのか、ミーミが少し心配顔でオボロの肩に手をかける。


「オボロさん~?挨拶くらいはぁ~」


頭を傾かせて、オボロの顔を覗き込むミーミ。その柔らかそうな頬っぺたが、

オボロのほっそい両手につままれる。


「ひゃひん、ひん、ひらい~、ほぼろさん~」


「私がプレゼントした“首輪”はどうしたんですか?姫!だいたい、

魔物と打ち解けるなんてどうかしてます。人間と魔族が出会ったら、

主従関係、それも奴隷と主人のね。姫なんて、


見た目“幼め”体は“ワガママ!”…“もう好き放題にむしゃぶりつきたい”的な感じ

じゃないですか?


そこをフルに活用してですね!!魔物にグチャグチャ蹂躙されて下さいよ!

私の楽しみのために!ああもう!ホント可愛いなぁ!ちっくしょう~!!


(いつの間にか、ハァハァ言いながら、ミーミの胸に顔を埋めているオボロ)」


「ちょっと、オボロさん、ちょっとぉ~(半分悲鳴に近い声で鳴くミーミ)」


「よし、二人離れて。ちょっと離れよう。」


女性モンスターのラミアンを真ん中に入らせ、とりあえず二人を引き離す。

ガルルと獣みたいに歯ぎしりするオボロは、部下の魔物達より怖い。


(すごいよ!!この護衛。喋ったと思ったら、いきなり弓の雨みたいなトークで

とんでもない欲望暴露しやがったよ。)


思わず姫を傍に引き寄せ、いきり立つ護衛を尻目に囁く。ミーミが


「キャッ、鬼畜彼氏系ジャンルですか(男子じゃねぇ、雄だ!と心でツッコむ)」


とか何とか呟くが、気にしない。


「あの、姫さん…貴方の護衛ですが、採用に当たって王様とか、疑問点は

なかったんですか?何かヤバゲな感じがすごいじゃないすか?」


「ええっ~、でも、子供の頃から一緒ですし、食事も、買い物も入浴も、寝るのも、

トイレもピッタリ背後にいますから~。護衛ってそういうものでしょ~?」


「・・・・」


どうやら…この姫さんは生まれた時から色々“勘違い”をしながら、生きてきたようだ。

俺はため息一つ、とりあえず姫と“ちょっとヤバそうな護衛”を城の内部に案内した…


 

 「フムフム、これは美味しいですぞ。ミーミ姫!魔王城のコックを

一応は名乗らせてもらってますが、我らが食卓に新旋風を起こせますわい。ありがとう。

ありがとうです!!ガハハハーーッ!!」


料理長のサラマンダさん(全長6メートルくらい)が華奢な彼女を抱きかかえ、

厨房で笑い声を上げる。周りのドラゴン専用に用意された調理道具を見ると、

食材をミーミ(人間)と勘違いした部下の気持ちが、わからん訳でもない。


城内を案内する前に、とりあえず厨房に向かった俺達は、先程と同じようにオ・ボ・ロが

用意した料理を、実際に食べてもらっていた。


「あ、ありがとうございます。オボロも喜んでます。後は材料等の配達ですね。」


「ご安心ですわい!オイッ、ゴブ軍曹!」


「ハイハイ、ファーブニ大臣に財宝の管理を聞いて、相応の報酬を用意し、運搬は、

そちらさんが嫌じゃなければ、ドレイクなり、ゴブリン輸送隊なりを手配しますよ。」


契約が上手く進んだ事を祝福するように、炎を噴き上げるサラマンダさん。

いつも天井が黒いのは、このためか…


ミーミも一緒に喜び、巨竜の周りで、軽いステップを踏んで踊っていく。


さすが、王族。こんな赤黒い汚れがべとつき、拷問道具みたいな器具が溢れかえってる、

人間からすれば処刑場ばりの掃きだめでも、彼女の踊りには“華”がある。


そんな光景に和んだ瞬間、サラマンダさんが足元のぬめりに滑って、転び…


「ひんっ」


という、か細いひと鳴きを上げ、ミーミが下敷きになる。


「え、衛生魔女ぉぉ!」


俺の悲鳴で城内の“救護担当魔女”が、すぐさま登場し、イイ感じに薄っぺらくなっている彼女を抱えて運んでいく。狼狽MAXで後を追う俺の後ろを、


「それでも護衛かよ?」


的に、ちゃっかり逃げたオボロが追従し、呪いの言葉みたいな、低いうなり声を

聞かせてくる。


「不味い事してくれましたね~?ゴブ軍曹~、これで姫様がどうにかなってしまったら、

人間と魔物の戦争再来の予感ですよ~」


「その姫様を守るアンタが、何で助けてないんだよ。そっちの責任問題も若干あるだろ?」


「知れた事。私は姫様がドラゴンと戯れてる事をスマホで撮った画像をフォトショで

コラ改造をするつもりで忙しかったんです。勿論、エロくね!」


「スマホ?フォトショ?コラ改造ってああもう何だ?ゴブリンだけか?

時代に取り残されてるのはぁっ!?訳わかめだぞ!とにかく、姫さんの手当を急げぃ!」


治療室というより、牢獄の入口みたいな、暗く湿った木製ドアをぶち開ける!

大小様々な壺に、色怪しげな液体が鍋でグツグツ、怪しい匂い充満の部屋が、

広がる室内、その中央のベッドにミーミが横たえられていた。目を閉じているが

“たわわな胸”が上下する様子は生きている証拠だ。ん?たわわ?…首を傾げる。


先程までは薄っぺらな彼女も、元の肉感溢れる体を存分に見せ、見せつけ…て、

てか全裸ぁぁぁっ!?今、気づいた自分~!!


周りには魔女と魔物が囲んで、姫の体に手を伸ばしたり、

引っ込めたりしている。さらによくよく目をこらせば、何人かは華奢で可憐な手を

ペロペロ!…


不味い、絵面的に“これから食われるお姫様”だ。慌てて突撃!化け物共を全員蹴散らし、

怒声を上げた。


「お前等ぁ、治療をしたのはいいけど、舐め舐めは駄目だろう!!ナメナメはぁっ!!

後、早く服着せてあげて!国際問題になるから!

(言いながら、自分も意味不明の言葉が言えたと素直に嬉しい!!)

この言葉の意味は“人間と魔物”双方の、関係性って事ね。」


「どうも、すいません、軍曹!何か、人間の、しかもこんな綺麗なお姫さんが来たもんで

ちょっと味見です!辛抱たまらんです。」


衛生魔女の弁解を、俺の後ろで得心顔に聞き、


「そうでしょう、そうでしょう!姫はメチャカワですよ!」


と言いながら、ミーミの手を取り、顔に近づけるオボロの頭を軽くどつく。しかし、

その影響で…


「う~ん~、何ですかぁ~?」


と、ミーミが目を擦り、擦り、まだ服を着ていない状態で、起き上がってしまう。

ボンヤリとした眼をしばらく辺りにさ迷わせ、その視線が俺と会う。


たちまち真っ赤なリンゴばりに頬を染めたミーミが、両手を胸で覆い、周りの真っ黒、

暗暗(クラクラ)光景に合わせた台詞を叫んだ。


「ゴブ軍曹!もしかして、夜這う奴(よるはうやつ)ですかぁー、まだ早いと思いますぅ!」


「惜しい、それだとホラー映画の(って何だ?と自分で言ってて、ホラー?という

ビックリの言葉が出る!)シチュエーション!!じゃなくて、服着てぇ!」


「間違ってません!この前の夜に、目が覚めたら、オボロが私の胸に乗ってました!

理由を聞いたら!!


“これは夜這う(よるはう)と言って、綺麗でいい匂いがする者が背負う宿命です。

姫様喜んで下さい!”


って、言っていましたー!!」


「どうやら姫さんには、ちゃんとした教育係が必要のようですな。刷り込みによる“勘違い”

が半端ないですぞ!!」


「何を言いますか!私だって、メロンパンが、パンとメロンの“突然変異”じゃない事は

よくわかってますよー!!」


「“メロンパン”って、そもそも何ですか!とりあえず、わかる内容で話をしましょうや!」


などと、半分やけっぱち+半面楽しみな会話で盛り上がる俺達の後ろ…

いや、正確には俺の後ろに冷たい空気がさす。護衛のオボロ?いや、違う。


この感覚は…


「食事の件で呼んだ使節が何故か、お姫様で、色々誤解をしていたのはよくわかった。

だけど、そのお姫様が一糸まとわぬ姿で、地下の牢獄みたいに暗い場所で

魔物達に囲まれる光景は、我が勢力と人間にとって、とてもよくないモノになると思う。

わかるね。ゴブ軍曹!」


おそる、おそる振り返った俺の目は、静かな怒りを全身に表す魔王ハーグリーブズの

目とガッチリ合った…



 「大丈夫ですか?軍曹。」


「…問題ないっす……」


魔王に、しこたま怒られた俺をいたわるように、ミーミが下から覗き込む。

時々、こっちの耳を“サワサワ”触るのは、また、どこぞで仕込まれた

“勘違い”の慰めかな?少し意地悪な心が起こる。


「それも…」


「?」


小首を傾げる彼女。俺は自分の耳を指さし、尋ねた。


「誰かに教えられたモンなんすか?」


ミーミの顔に、ニパニパとは少し違う、恥ずかしそうな表情?テレテレな笑顔?が浮かぶ。


「あ、これは…」


「?」


「これは自分で考えたやつです。何となく気持ちが落ち着くかと思って。

!!(慌てたように)もしかして嫌でした?」


「いえっ、全然大丈夫です。ハイッ、ハハハッーーーアッアッ!!」


「良かったぁ~」


不意打ちマジ勘弁―――!!ヤバい、破壊力が、俺のゴブリンハートブレイクゥゥ!!


意味不明の表現ですまない読者の皆さん(皆さんって誰の事?)

要はミーミの言葉と仕草に“萌えた”って事だ。


不味い、俺はゴブリン、相手は人間!相容れない存在。襲うか、襲われるかの関係性だ。

トキメキ禁止!絶対に。


訳わからない挙動の俺を、楽しそうに肩を揺らして(同時に胸揺れ)見つめるミーミ。

この仕草もいいね!サムズアップ!?(何か、このフレーズを言うと、親指を上げたくなる。何故だ?)いや、違うよ。落ち着け!自分。


そんな、何か会話の糸口を探す俺の視界に、部下のガンスが息を切らせて、飛び込んできた。


「軍曹!!」


「この微妙な空気をぶち壊してくれて、ありがとう!ガンス!マジ魔王(神と言う訳にはいかないしぃ~なので。)と心の中で思ったー!どうした?ガンス!!」


「心の中の言葉が、台詞より先に飛び出してますぜぇ!!軍曹!

いや、今はそんな事よりぃぃ…!!」


「?」


「敵襲です…」…



 既に城内に侵入している大隊規模の鎧騎士団を見て、歓迎したい嬉しさに包まれる。

やはり、幼め巨乳姫と戯れるより、戦闘の方が、本職だな。俺の場合…


騎士の一人が剣を抜き、俺に向かってくる。恰好は一人前だが、剣の構えがまるで

なってない。あれでは敵を切り裂くのに、とうてい及ばない。突き出された刃を

片手で掴み、そのまま腋に差し込ませ、叩き折る。


出鼻を挫かれ、驚いた顔の兵士を軽く突き飛ばす。仲間がしっかり受け止めたのを見て

一安心。彼等もきっと“勘違い”している。まずは、こちらに敵意がない事を伝えねば。


「騎士団の諸君、この城にどうやって入ったのかは不明だが、我々は姫を攫った訳でない。

どうか剣を収められよ。我々は君達と文化の交流をしたいのだ。争う気は毛頭ない!」


俺の声に騎士団の中から一人の人物が進んでくる。服装的に軍団長クラス、

この部隊のリーダーだろう。目元に傷が走り、逞しいヒゲをなびかせた男だ。

そいつが俺を見て、明らかに軽蔑した笑いを浮かべた。


「ゴブリン風情もだいぶ賢くなったようだな。人間より理知的な口を聞く。

だが、一つだけ伝えるとすれば、俺達は“姫の奪還”に来た訳ではない。」


「何…?」


「姫はあくまで隠れ蓑。我々は“天使の加護”という、姿を隠せる粉を持って、

この地に侵入した。目的は一つ、貴様らが隠し、保管している財宝だ。」


財宝担当のファーブニが聞いたら喜ぶだろうな。しかし、そんな戦法が

確立されていたとは…素直に驚いた。


俺の後ろに、いつの間にか来ていた護衛のオボロが囁く。


「天使の加護とは、いわゆる魔法の粉です。人間界では天界との交流も盛んですので。

そして、彼等はわが軍の騎士団でも、人間側に登録されている、どの騎士団にも

属していません。」


「つまりは夜盗、山賊に近いモノ達か…」


なら、遠慮はいらない。ガンスとラミアン達が隣に並ぶ。配置は完璧。指示は適切に

しないとな。最も、言わなくてもわかるか…


「殺すな。手早くふんじばれ。」


「了解!(ガンス、ラミアンの声が同調して聞こえる。)」


騎士達が身構え、俺達魔物の軍勢が、城から異形の姿を見せ始める。久しぶりの戦闘。

血が騒ぐぜ。向こうも同じ気持ちのようだ。剣をギチギチ言わせ、狂暴な視線を向けてきた。


全員の神経が極度に昂り!今正に、剣と拳、その他大勢の武器が激突しようとする瞬間!


「あっれ~?皆さん、お揃い~!?壮観ですぅ~!」



ノンビリとしたミーミの声が、両者の間に響き渡った。


 軽いステップでふわり、ふわりと躍り出た彼女に、俺達も騎士も一瞬、虚をつかれたように立ち止まってしまった。


「今日は魔物も、人間も一緒に仲良くする日のようですね。とても嬉しいです。お祝いに

私が出来るのは~?ハイっ!」


姫が手を叩くと、彼女の両手にホッカホカの料理。オボロの素早い仕事は、常に健在だ。


「どうぞ!召し上がれん!」


騎士団のリーダーと、俺の両手に手早くお皿を載せた彼女は(リーダーは驚いて剣を落としていた。)次々に手を鳴らし、料理を出しては兵士、魔物に配っていく。この状況に飛び込んでくるミーミもすごいけど、影で作りまくる護衛のオボロのスキルが高すぎだろ!と

素直に感心した。


「魔物ども、この決着は料理を片付けてからだ。ゴモゴモ、モグモグ

(料理を食べる音がうるさくて聞こえない)」


ヒゲを巧みに丸めて、食事をとるリーダーの後ろでは、部下の騎士達が


「美味い!」


と料理の感想を述べている。俺の部下達も同様の様子だ。やがて、全ての料理が片付き、

何となく腹が満たされた双方は、そのまま剣や武器を置いてしまう。まぁ、腹が埋まると

気持ちが和むのは戦いの常なのか…


まさか!?それを予測して、この姫さんは?と視線を向けるが、ほんわか周りを歩き、

騎士や魔物達に


「お代わりいかがですか?」


と聞く彼女の様子からは、そんな印象を受けない。気のせいか?それとも

これすらも彼女の勘違い?いや、よくわからないな…


どっちにしても人間と魔物の戦争という危険は回避された。感謝しても、したりないな。

これは…


盗賊まがいの騎士団も、上手く話を持って行けば、魔王城までの食材調達等、役に

立ってくれるかもしれない。危険な地域にまで入ってくる連中だ。その腕は信頼できると

言っていい。


そこまで考え、少し目を閉じた俺の額に


“コツン”


と何かがぶつかる。驚き開けた目とミーミのつぶらな瞳がほぼ“ゼロ距離”の位置で

見つめ合う。勿論、すぐに後ろに飛びのき、叫ぶ。


「どうしました?ビックリするぞ?」


「ゴメンなさい。ゴブ軍曹、熱でもあるのかと思ってぇ~」


俺の狼狽に、ミーミがニパニパ3割、はにかみ7割の笑顔で答える。

全く可愛い“勘違い”もあったもんだ。できれば、この“勘違いお姫様”ともう少し

戯れていたい。


そう思い、彼女に一声かけようとする俺の目は、


「イチャついてんじゃねぇ…」


ミーミの後ろから呪いのように呟く護衛、オボロの凶悪な視線と


遥か後方、城の最上階の窓から、こちらを見ている魔王の無言かつ、冷たい視線を見て、

最早、城全体に広がりつつある“勘違い”の危機に少し…いや、かなり怯えた…(終)

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