耳かき
「今日、だよね」
私は神妙な面持ちで母に言った。
「ええ。きっと希好も気に入ると思うわ」
と母。ずっと普通ちゃんと呼ばれていて忘れられがちだが、私の下の名前は
普通家では、しかし家庭環境は些か普通ではない。父が早く亡くなってしまい、母子家庭であった。そして今日。母は新たなる相手を私に紹介する日なのだ。
「じゃあ、行ってくるね」
私は玄関にて母に言った。相手との初コンタクトに備えて、私は美容院へ行く予定であった。
「ええ、行ってらっしゃい」
母は満面の笑みで言った。
*
向かう先は家の近くだ。その道中、私は母の新しい恋人について考える。
どんな話をすれば良いだろう。相手はどんな話を切り出すかな。まあ、無難に学校のことだろうか。
「学校……」
私は思わず呟いて、そしてゲンナリした。学校のことと言えば、ロリ先生を中心としたオギャリアンたち。
先日の体育は本当に酷かった。体育教師が休みだったのでロリ先生が代役を務めたのだが、何と生徒たちにハイハイをさせたのだ。
『はい、あんよが上手♪ あんよが上手♪』
『おぎゃあ!』
『おぎゃあ!』
『ばぶぅ!』
『ばぶぅ!』
クラスメイトのほとんどがオギャライゼーションされてしまっていたので、この世の地獄みたいな光景であった。
……。
オギャリアンとかオギャライゼーションってなんだよ。こんな言葉が自然と浮かんでしまうあたり、私も結構、毒されてしまっているらしい。
そんな思考をしていると、美容院に辿り着いた。中に入ると、美容院特有のオシャレな雰囲気と、石鹸の香りを感じる。
予約をしていた私は、すぐに席に案内された。
「ああー! 普通ちゃん!」
聞き慣れた、可愛らしい声が響く。私の席にやってきた美容師の声だ。私は鏡越しにその相手を確認し、驚愕した。
「ろ、ロリ先生……」
まさに担任のロリ先生であった。この人、本当に暇なのかな。教師が副業なんてしていいのか?
「うふふ普通ちゃん。今日はどうする?」
ロリ先生は相手が教え子であっても担当する気満々のようだ。
「じゃあ、ええっと、こんな感じで……」
私は諦めて、希望の髪型を言った。
*
「こんな感じでどうかな?」
ロリ先生はそう言って、鏡を用いて後ろ髪の部分も見せた。
驚いた。ボブカットにしてもらったのだが、かなり良い感じだ。
「じゃあ、サービスで耳かきしますね」
とロリ先生。え? 耳かき? そんなのサービスにあったっけ。
「はい。じゃあ、動かないでくださいねー」
「え、ちょっと……ふぇっ!?」
有無も言わさずにロリ先生が私の耳に棒を差し込む。その瞬間、ぞわぞわっと妙な感覚が耳から全身に巡ってきた。
「え、ちょっと、何これぇ……」
こそばゆいような、その妙な感覚はすぐに私を虜にした。気持ちが良い。あまりの気持ちよさに、脳が麻痺して、何も考えられなくなる。
「どう、普通ちゃん。私、結構、上手いでしょ?」
ヒソヒソ声で私の耳元に囁くものだから、さらにゾクゾクが駆け巡る。
「せ、んせい……ああぅ……」
脳が痺れて、言葉にならない。
「ほら、普通ちゃん。ギューッ。良い子、良い子」
ロリ先生は器用に耳かきを継続しながら、そっと抱き寄せ、そして空いていた手で私の頭を撫でる。
もう、ダメだった。
「ま、ママぁ……」
私は呟く。すると、とてつもない多幸感が全身を包み込む。
ああそうか、これがそうだったのだ。バブみでオギャるって、こういうことなんだ。
私は、堕ちた。
*
帰宅後。母の新しい相手が既に来ていた。相手の苗字は
つまり私は
みみかきすき。なんて私に相応しい名前なのだろう。
翌日から、私のあだ名は耳かきとなった。もう、普通ではないのだ。
バブみでオギャれロリ先生! violet @violet_kk
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