戦場オギャリアン
「今日は金曜日ですね」
放課後。ザコが私に話しかけてきた。
「嬉しそうだね。明日は土曜日だしね」
「土曜日? チッチッチ。分かってないなあ、普通ちゃんは」
とザコ。ぶんなぐってやりたい。
「今日は金曜日。今月最後の金曜日なんです」
「今月最後? ああ、プレミアムフライデーね。私たちには関係ないじゃん」
「違いますよ。プレミアムママエエデーです」
なーにがプレミアムママエエデーだ。
「今夜の金曜ホイクショーは、戦場オギャリアン特集なんだそうです!」
金曜ホイクショーに、戦場オギャリアンだって? いよいよツッコみが追いつかないぞ。
「普通ちゃん。私の部屋で一緒に見ませんか?」
「ええ……。まあ、遊びに行くってことなら良いけど」
ホイクショーは見たくないなあ。
*
そしてザコの部屋。私たちはベッドに腰掛けて、テレビを付けた。
『あなたはファントム・ボインを知っていますか』
テレビには戦場オギャリアンと思しき人物が映っていて、そんな切り出して語り始めた。ファントム・ペインじゃないの……?
『私は見ての通り成人しています。もう乳離れをして何年も経っているのです。しかし
真剣な表情で、そんな下らないことを言い出した戦場オギャリアン。
『もう何年もオギャレスですか……それは、お辛いでしょうね』
キャスターが神妙な面持ちで言った。
「何よオギャレスって」
「え、知らないんですか普通ちゃん。長い期間オギャってないことですよ」
「じゃあ私、オギャレスだわ」
どうでも良い言葉がまた一つ増えてしまった。
『ええ。とても辛い。あまりに辛くて、何度も死のうとしました』
『……おギャりたいですか?』
『えっ……』
『おギャりたいかおギャりたくないか。あなたのご意志をお聞かせ下さい』
『そりゃあ、オギャれるものならおギャりたい。でも、そんなの叶わないじゃないですか!』
ダンッと台を叩く戦場オギャリアン。一体、何を見せられているのだろう。
『それでは登場して頂きましょう。路利野 真間さーんっ!』
『はーい!』
キャスターが言うと、聞き覚えのある声がした。片手を上げて登場してくるその様は、まるで横断歩道を渡る小学生の様だ。
「えっ!? ロリ先生!?」
私は思わず声を挙げた。
「凄いですね! テレビに出ちゃってますよ」
ザコも嬉しそうだ。
『そ、そんな……まさか……』
狼狽る戦場オギャリアン。
『戦場オギャリアンさん』
『……はい』
『おギャれますよ!』
『……はいっ!』
はっきりと返事をした戦場オギャリアンの目には涙が流れていた。
『えっと、あなたが、せんじょう、おぎゃりあん、さん?』
呂律の回っていない感じでロリ先生は言った。
『そうです。私が戦場オギャリアンです』
『そっかー。色々大変だったって聞いてるよ』
『そうなんです。ファントムボインが、ファントムボインが……』
それ言いたいだけだろ。
『そっかー。辛かったねえ。今日はね、お小遣いたっぷり貰ったからね。たーくさんっ、甘えていいんだよ!』
ロリ先生は両手を広げて、花のような笑みで、戦場おギャリアンを迎えた。お小遣いって給料のことだよね。
『ま、ママぁーっ!』
戦場オギャリアンはロリ先生に抱きついた。
『よしよーし。いっぱい辛かったねえ。良い子良い子』
ロリ先生は戦場オギャリアンの頭を撫でる。
『おぎゃあ! おぎゃあ!』
みっともなくオギャる戦場オギャリアン。
『もう何年もオギャレスであった成人男性。ご覧下さい。今は赤子のように、おぎゃあ、おぎゃあと鳴き喚いています』
キャスターがまるで感動的な場面のような声色で説明する。スタジオにいる何人かは泣いているようだ。
「ふえぇん。良かった。良かったねえ」
「え、あんたも泣いているの?」
「だって、ようやくオギャれたんですよ。感動的じゃないですか」
感性が違い過ぎる。ザコが、どんどん遠くなっていく。
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