生配信
『普通ちゃん普通ちゃん! これ見てください!』
休日。私はザコとボイチャをしていた。ザコが嬉々としてチャットに貼ったのは、URLだった。
「ちゅぱ……うん? なんて読むんだこれ」
そのURLには見覚えがあったのだが、微妙に違った。
私はとりあえずそのURLをクリックする。すると見慣れた某動画配信サイトの動画ページに飛んだ。
「ちゅぱチューブ……? そんな名前じゃなかったよね」
『あれ知らないんですか? ロリ先生が投稿した動画に触発された社長が、サービス名を変えたんですよ』
「ロリ先生の影響力やば過ぎない?」
『あとはチャットアプリのBOINとか』
「何よそれ」
『普通ちゃんも使ってるじゃないですか』
もしやと思い、私はスマホの画面を立ち上げた。陳列するアプリの中には確かに、BOINという名前のアプリがあった。それは名前こそ違えど、間違いなく普段使用しているチャットアプリだ。
ザコによると他にも、写真投稿型SNS『ママスタミリグラム』、呟き系SNS『オギャったー』などなど。私の知らぬ間にロリ先生によって有名ITサービスが侵食されていっていた。
『ミリグラムがロリ先生を良く表していますよね』
「喧しいわ」
ともかく私は肝心の生配信を見た。
「あ、この子……」
配信主は私たちのクラスメイトだった。
『少し前にちゅぱチューバーやってるって聞いたんですよ。普通ちゃんと一緒に見ようと思って』
「ちゅぱチューバーって……」
まあ一緒に見るのは満更でもない。むしろクラスメイトがどのような配信をしているのか興味もあった。
『えー、という訳でー、今日のゲストでーす。じゃじゃーん』
『どうもこんにちは。私がロリ先生だ。えっへん』
言葉とは裏腹に辿々しく現れたのは、なんとロリ先生だった。この人暇なのかな。
『えと、生配信ちゃん。これ皆に見られているんだよね。わわわ! 何だか緊張するなあ』
『大丈夫だよロリ先生。ほら見てみなって。皆可愛い可愛い鳴いてるから』
鳴いてるって……。口悪いなあ生配信ちゃん。
『ウェッヒッヒ。よーわからんけどロリ先生のお陰でたんまり稼げるぞお』
厭らしい表情を浮かべる生配信ちゃん。ちゅぱチューバーの闇をモロ出ししないで欲しい。
『ああ、生配信ちゃんはまだオギャライズされてないんですね』
「また変な言葉が」
『あれれ知らないんですか普通ちゃん。オギャることのなかった子が、オギャるようになることをオギャライゼーションと言うんですよ』
知る訳ないだろ。
『ああロリ先生。あれやってよ。良い子良い子って奴。なんか知らないけど、あれをされたクラスメイトの子が揃ってオギャっちゃってさあ』
『え? ふふん。そんなに私に良い子良い子されたいんだぁ~。生配信ちゃん、可愛いなあ』
機嫌が良くなるロリ先生。
『可愛いのはロリ先生ですよね』
「可愛いというより、私は悲しい」
簡単に利用される女教師。そのうち生徒たちにエッチなことされちゃうんじゃないか。
『そうだなあ。たしかに生配信ちゃん、こうやって自分でお小遣い稼いでいるんだよね。凄いなあ。立派だなあ』
『え、えへへ。何だか照れるなあ』
生配信ちゃん、こうやって直接褒められることなさそうだもんなあ。
『良いよ。しっかり良い子良い子してあげる。私、せんせえ、だからっ!』
『わーい。やったー。さすがピーブイ先生。じゃなかった、ロリ先生!』
その間違いは無いでしょ。もうロリ先生のこと再生数としか見てないんだな。
そして生配信ちゃんは、ロリ先生に頭を向けた。
『ふふ。生配信ちゃん。ほーら、良い子良い子』
『ふぇ……何、これ……』
『生配信ちゃん可愛いなあ。もっとしてあげるね。よしよーし、良い子良い子』
『ふぁ……や、やばぁ……これ、ちょーやばぁ……』
『ふふ。すっかり赤ちゃんだなあ。皆見てるのに』
『あぁ……オギャってるとこ見られちゃってる……見られちゃってるよぉ』
『ほーら、ぎゅぅー』
『あわわ、広告単価が高騰しちゃう、おぎゃあ!』
哀れ生配信ちゃん。オギャライズされてしまうところを生配信してしまった。
『ニューオギャりあんの誕生ですね』
もういいわ。
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