第6話戦闘

俺が転生してから一週間ちょっと、毎日のようにスライムを狩っていたので【捕食】と【貯蓄】のスキルレベルがMAXまでいっていて、今では馬車程度の大きさのものも体内ストレージに収納出来る。このスキルの便利なところは手を使わずにものを運べるだけでなく、食料は腐らないというものだ。

一応職業のことはクラスメイトにも伝えておいた。と言っても俺はコミ障なので騎士長から間接的に伝えてもらったという感じだ。


「では今日の訓練では模擬戦闘を行ってもらいます。近接戦闘系職業の方達でペアを組んでもらいます」


騎士長の説明が終わると俺達はそれぞれで話し合ってペアを組んだ。クラスの七割近くが近接戦闘系職業でもちろん俺もその中の一人だ。


「よォ寺橋くん。俺と一緒に殺り合わねぇか?」


と、安定のコミ障を発症させていると迷宮の時に一緒の部隊だった田中が話し掛けてきた。


「ま、お前に拒否権はないんだけどな」


そう言うと彼はいつもつるんでる取り巻きたちと一緒に騎士長に報告しに行った。相変わらずだなぁ。


「それでは模擬戦闘を開始します。初めのペアは鳥山対岩崎です。両者持ち場についてください」


この模擬戦闘のルールは木刀又は棍棒などよ殺傷能力の低い打撃系武器を用いた戦闘で、どんなスキルでも使用可能。相手が参ったと言うか、相手の所持している武器を壊すかで勝敗を決める。

フィールドはいつも訓練をしている中庭だ。

鳥山と岩崎はいつも仲良しの二人組だ。鳥山の職業はA級の武闘家だ。正面戦闘では勇者や竜騎士の次に強いと思われる。一ヶ月の訓練で鉄の塊の案山子に何度も穴を開けているのを見たことがあるので正面から行くのは自殺行為だ。鳥山の場合は武器を使わない職業なので参ったと言うまで勝敗がつかないな。それに対して岩崎はA級の暗殺者だ。殺傷能力だけではトップクラスだが、正面から戦いを挑むこの模擬戦闘では圧倒的に不利である。


「準備はいいか?では戦闘開始!」


開始の合図と共に鳥山が岩崎に向かって勢いよく拳を前に突き出す。すると拳の先から空気が圧縮されたものが飛び出した。これは格闘家のスキル【鉄拳】だ。魔力を消費して拳から空気砲のようなものを発射させる。


「っ!………っぶな!初手からやるとはなかなかだね慧」


「ふっ、暗殺者相手だったら先手必勝正面突破が常識でしょ!」


と言いつつ鳥山はまた【鉄拳】を繰り出す。だが、はそれを全て躱して行く。あれは多分暗殺者のスキル【感知】だろう。【感知】は自分に向かってくる攻撃や罠を事前に予知するスキルだ。


「ちっ、全然当たんねぇな………」


「もう終わりか?じゃあこっちから攻めさせてもらうよ!」


すると一瞬にして岩崎が消えた。と、思ったら鳥山の後ろから姿を現し自分の足に引っ掛けて転ばし木刀を首元に突きつけた。


「ま、参った………」


おぉ!と周りから歓声が溢れる。岩崎は鳥山の手を取って持ち上げる。そのまま二人で話しながら皆の中に紛れてしまった。

今のは多分【潜伏】というスキルだな。近くの物陰に瞬時に身を隠すスキルだ。

何故俺がこんなに知っているのかと言うと、一ヶ月間木刀ぶつけるだけでなく色々な訓練を覗いたり盗み聞きしたりして多くの職業のスキル情報を収集していたのだ。その中から無職の俺でも練習すれば使えるであろうスキルを選んで訓練していたわけだ。


「それでは次、田中対寺橋の模擬戦闘を始めます。両者持ち場についてください」


結構早い順番だな。もうちょっと色々な人の戦闘スタイルを見てから田中に挑みたかったが、まぁいいだろう。

ある程度固定された戦い方がある職業相手では俺の職業は不利である。


「それでは準備はいいかよろしいですか?では開始!」


合図と共に田中は右手を前に出した。すると右手が薄紫に光だし、俺の持っていた木刀が消えた。


「へっ、どうだ!」


盗賊のスキル【強奪】か。たが、そんなのは分かり切っていたことなので対策は万全である。

俺は予備の木刀を体内ストレージから取り出した。


「さぁ、仕切り直しと行こうか」


ちょっとイキリ過ぎたかな?

田中は少し驚いた表情だった。それもそうだ。【転生者】という名前からしたら死ぬこと前提の職業の人が体から木刀を抜き出したのだから。


「ちっ、小賢しい真似をしやがって!これでも喰らえ!」


田中はまたもや右手を前に出し【強奪】スキルを使用してきた。何度やっても同じ事なのに何をしようとしてるんだと思っていると、俺の視界は歪み、そしてみぞおちを一発殴られた。


「グハッ!……かハッ……!」


「ふん、何が『仕切り直しと行こうか』だ!このイキリ陰キャ!」


何が起きたのか理解するまでに時間がかかった。多分だが、【強奪】のスキルを俺の木刀ではなく俺自身に使用したため、俺の体が田中のすぐ目の前に吸い寄せられたということか。

なかなかやるではないか。正直、こんなにガチで殴られるとは思わなかったので舐めてかかったが物凄く痛いので早々に決着をつけに行く。


「降参するなら今のうちだぜ?」


「………誰が……降参なんかするもんか………」


と言うと田中は顔を歪め、


「へっ、そんなに死にてぇか!いいぜ!殺してやるよ!!」


今度は木刀を構えながら【強奪】スキルを発動させた。同じ手を二度も食らうほど俺もバカではないし、そもそも正面から戦って

倒せるとは思っていない。だから予め体内ストレージに色々なものを入れて置いた。

引き寄せられる前にストレージから王宮内の武器庫にあった閃光玉を取り出して使う。急な光に田中もクラスの皆も驚く。その隙をついて俺はさらにストレージからスライムを狩りまくって手に入れたスライムゼリーを田中の手足にくっつけ地面に固定させる。

スライムゼリーは粘着力が凄いので直ぐに剥せるようなものでは無い。

そのまま俺は田中の上に乗っかり木刀を首元に突きつける。


「………っ!くそ!参った参った!!」


何とか勝てたようだ。勝ったはいいものの閃光玉やらスライムゼリーやらを使って姑息な手で倒したためクラスメイトからの評判は悪いようだ。

だが、そんな空気も直ぐに無くなった。なぜならその後の模擬戦闘が誰もが見たがっていた勇介対辰巳の勝負だ。

だが、なぜだか悪寒がした。戦闘とは関係なく何だか裏で良くないことが回っているようなそんな気がした…………。

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コンテニューから始める最弱勇者 翠玄の吟遊詩人 @sui-sijin

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