第5話蘇り
目が覚めると、この一ヶ月間毎朝見てきた自室の天井が目に入った。訓練でもしているのだろうか、窓の外からは金属同士がぶつかり合う音が聞こえてくる。
ゆっくりと身体を起こして自分の身を確かめる。何せ最後に見た自分の”記憶”が死ぬ所だったからだ。
服を脱いで貫かれた所を見るがいつもの自分の身体と何一つ変わっていなかった。
「あっ、目覚めたようですね」
そんなことをしていると入口から騎士長が入ってきた。
「えっと………俺死んだんじゃ………」
騎士長は近くにあった椅子に深く座って爽やかな笑顔で答えた。
「大変でしたよ。もし、あの場に聖職者がいなければあなたは確実に死んでいたでしょうね」
聖職者、ということは和田さんが助けてくれたという事だろうか。
「そうだったんですか………ははっ、死に損なってしまったみたいな感じで何だが変な気持ちです」
そう言うと騎士長はやだなぁ、冗談はよしてくださいよと軽く笑いながら言う。冗談でもなんでもないのだが。
「っとまぁ、公ではそんな感じにしてあります」
と先程まで爽やかな笑顔で笑っていた騎士長は真逆の真剣な顔で迫ってくる。
「実はあなたの傷はたった一ヶ月訓練しただけの大した治療スキルのない聖職者じゃ治せないものだったんです」
「え?」
騎士長の言葉に愕然とする。S級回復職の聖職者でも治せない傷を負ったのに何故自分は生きているのか。
「そこで二つの可能性が生まれたんです。一つ目はあなたがアンデットになったという事です」
この世界のアンデット、つまりゾンビというのは魔王が作り出したモンスターとは違く人間が作り出したものである。正確には生前に強い怨念や後悔のあるものが死んでも尚それを欲してしまうというものだと迷宮に入る前に教わった。
「まぁ、これに関しては殆どゼロに近いですね。アンデットって言うのは陽の光に滅法弱いので現に朝のこの時間帯に起き上がれるほどの力があるということは多分ないですね」
もし自分がアンデットだったらどうしようと考えていたがそんな心配も直ぐに無くなってくれたので良かった。
「そして一番可能性の高い二つ目。それは、あなたが”死んでも生き返る”というスキルを持った職業を覚醒させたという事です」
確かにアンデットの可能性がなかったらそれしかないが、俺の知っているゲームにも小説にも死んでも生き返るなんて言う職業なんてなかった。
だが、遂に職業が覚醒したと思うと何だが嬉しいものがある。確かめるには自身のステータスを確認する他ない。
俺は心の中で強く念じる。すると目の前にホログラムが展開された。
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寺橋廻斗 男 17歳
職業:【転生者】
固有スキル:【輪廻還り】
EXスキル:【転生の刃】
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「え?」
そこに表示されたのは職業はやっぱり知らない職業だった。
「なんだったんですか?」
騎士長が迫ってくる。興味津々な目をしていた。てか、顔が近い。
「て、転生者っていう職業です」
そう言うと騎士長は椅子に戻り何やら一人でブツブツと話し始めた。何この人怖い。
俺も自身の職業について少し調べてみる。気になる項目に注目するとそれに関する詳細が知れるのだ。
調べてみると凄いことが分かった。先ず、固有スキルの【輪廻還り】だが、これは何度死んでも生き返ることが出来るらしい。だから治せないはずなのに俺は生きているということなんだろう。一回死んだけど。
たが俺にはペナルティもある。まぁ、これ程強力なスキルとなるとペナルティがあるのも当然である。そのペナルティというのが、”記憶を失う”という事だ。今のところ両親のことや現世で暮らしていた地名、クラスメイトのことなど全部覚えているので大したことではないと思うが、死ぬ回数によって失う記憶の量が大きくなる可能性もある。
次に【転生の刃】というスキルだ。これは魔力を消費して短剣を生成し、その短剣を使って殺したモンスターや人のスキルを習得することが出来るらしい。これに関しては強力な割にはペナルティはないらしい。
「えっと………大丈夫ですか?」
スキルの詳細を確認し終わってもまだ独り言を言っている騎士長に声をかける。
「え?……あぁ、これは失礼私の悪いくせでね。気になることがあると直ぐに考え込んでしまうのだ」
「そ、そうですか」
何この人めっちゃキャラ濃いやんけ。
「それで、一体どのような能力なんですか?」
「えっとまぁ、簡単に言えば自分の記憶を使う代わりに何度でも生き返れるって感じですかね。あと倒したモンスターとかのスキルを習得できるみたいです」
「なるほど…………結構な訓練が必要ですね。動けますか?」
騎士長は少し考えながら言った。
「えぇ、まぁ」
「なら、寺橋さんには模型を使った訓練よりもスキルを行使した実践的な訓練が必要のようですね。直ぐに準備をします。三十分後に中庭に集合してください」
そう言うと騎士長は直ぐに部屋を出ていった。俺に有無はねぇのかよ……。
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部屋での話から三十分後、騎士長に連れられ王宮外の草原にやって来ていた。騎士長曰く、ここにはスライムがよく湧くらしくスキルを試すのにはちょうどいいらしい。
「死ぬというのはリスクが高すぎるので、そのEXスキルを使ってみましょう」
騎士長は片手にペンと紙を持ちながら言う。
草原には岩があり、その岩陰からこちらをチラチラと狙っている数匹のスライムたち。俺はとりあえず【転生の刃】を使ってみる。
すると右手が光だし、迷宮に持っていったものと同じ形の薄緑色の短剣が現れた。重量は迷宮のやつよりも軽くむしろ空気に近いぐらいだが、迷宮のよりも斬れ味は良い。
岩陰にいるスライムに向かって走り、短剣を刺す。スライムの体は短剣の中に吸い込まれていきそのまま右手に流れて行った。
何だか癖になるな。
すると目の前に【スキル獲得】という文字が表示された。
「何を手に入れましたかー?」
遠くから騎士長がこちらに言ってきた。
手に入れたのは【捕食】というスキルだ。スライム専用のスキルであらゆるものを捕食することが出来るらしい。正直使えるかわからん。
「えっと、【捕食】っていうスキルです!」
俺が言うと騎士長は真剣に紙に何かを書き始めた。
俺はそのまま次の岩陰に行き、先ほどよりも二回りくらい大きいスライムに短剣を刺す。先ほどと同じようになり新しいスキルを獲得した。
獲得したのは【貯蓄】とう言うスキルだ。これは【捕食】したものを一時的に体内ストレージに貯蓄することができ、いつでも取り出せるというものだ。なかなか便利なものだな。
俺はそれから小一時間くらいスライムを狩っては騎士長に報告した。
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俺は自身のステータスを確認しながら騎士長と共に王宮に帰っていた。
「そう言えばさっきから何を書いているんですか?」
「あ、これですか?実はあなたの職業はどの文献にも乗っていなくて。私は知らないものがあると調べたくなる性格でして、その職業について色々メモを取っていたんです」
俺が聞くと騎士長は少し照れくさそうに話した。
何だか羨ましかった。現世の俺では絶対にない充実した感じが。
「羨ましいです。そうやって何かに熱中できるなんて。」
「そうですか?」
「はい。俺には何かに夢中になれるものなんてなかったんで」
「私だってもとからこういうものに欲があった訳ではありませんよ。ただ、他の人よりも何かに熱中出来るものが欲しかっただけです。そのうち寺橋さんにも見つかりますよ」
と、騎士長はまた恥ずかしがりながら言う。
この人の話し方は結構好きだ。何だかとても懐かしい感じがするのだ。誰かに似ているような気がするが、それが誰だか分からない。だが、不思議なことについ最近話したような気がする。
まぁ、気がするだけなので気の所為って事にして俺はそれに深く考えないようにした。
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寺橋廻斗 男 17歳
職業:【転生者】
固有スキル:【輪廻還り】
スキル:【捕食lv2】【貯蓄lv2】
EXスキル:【転生の刃】
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【輪廻還り】
致死量の身体的外傷または薬物や状態異常を受けた場合、一時的に仮死状態に入り傷、及び状態異常を正常に修復する。これは自動的に発動し使用者の記憶を消費する。
【転生の刃】
魔力を消費して短剣を生成する。この短剣によって殺害されたモンスター及び人物のスキルを一つ獲得することが可能。スキルが重複された場合そのスキルのレベルを上げる。
【捕食】
ありとあらゆるも物体を食べることが可能。レベルによって食べられるものの体積が変わってくる。スライム専用。
【貯蓄】
捕食したものを体内ストレージに貯蓄することが可能。レベルにより貯蓄できる量が変わってくる。スライム専用。
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