第4話夢
目の前に広がるのはとても懐かしい光景。俺が生まれ育った田舎によく似た場所だった。俺は中学二年生までこの田舎で暮らしていて、親の仕事の関係で東京に引っ越して今の高校にいるわけだ。
草木を優しく撫でる涼しい風に吹かれていると突然後ろから声をかけられた。
『久しぶり、かいちゃん。元気にしてた?』
その声はとても懐かしく、二年前と変わっていない優しい声だった。その声のせいか、突然話しかけられたのに驚くことはなく自然と相槌を返せた。
「久しぶり、雛。まぁ、元気っちゃあ元気かな。死んじゃったけど」
彼女の名は奥沼雛(おくぬまひな)。幼馴染で俺の初恋の子だ。雛は俺の言っていることが理解出来てないのか首を傾げたが、直ぐに自己完結したのか俺の隣に座ってきた。
『色々大変だったみたいだね。学校はどう?友達できた?』
雛は俺と同じ方を向きながら聞いてきた。
「まぁ、ぼちぼちって所かな」
風が吹き抜ける。
彼女は気持ちいいねと言うが俺にはこの夢のような時間の終わりを告げているように感じた。
『何か辛いことでもあった?』
「なんでそう思うの?」
『だってかいちゃん、泣いてるんだもん』
そう言われて気づく。今まで気にしていなかったが俺のズボンには涙でシミができていた。今もずっと流れている。
「………………俺さ、死んじゃったんだ。クラスメイト庇って」
『………うん』
彼女はそっと包み込むような感じの声で応える。
「………何も出来なかった。異世界に来て何も出来なかった」
『………うん』
「悔しかった。才能がないって言われて、みんなに笑われて」
『………うん』
普通はこんなこと話すようなことじゃないのに、彼女の前では自然と出てきてしまう。強がっていても意地を張っていても昔から自然と彼女の前では本音が出てしまう。
「だから……だから見返してやろうと思って、無駄だって分かってたけどそれしか俺にはないから一ヶ月、頑張ったんだ」
『………うん』
先ほどよりも涙の量は多くなりそこに鼻水も混ざってぐちゃぐちゃになり、とても人に見せられるような顔ではなかった。
「けど………ダメだった………。無駄な努力をしただけだった………」
俺は膝の上で強く拳を握り声が出そうなのを必死で我慢する。涙のせいで今まで見えていた田舎の景色はぼやけてしまっている。
彼女はそっと涙でびちょびちょな俺の手に自分の手を重ねて俺の耳元で囁く。
『そんなことないよ。だってかいちゃんはクラスメイトの子を助けたんじゃん、自分の身を犠牲にしてまでも。それってすごいことだと思うよ?』
「そんなの……誰だってできるよ……。無職で才能なんかない俺が行かなくても誰かが行ってたよ」
彼女は俺の手を握りしめ、立ち上がる。
『そんなことない!それは立派なかいちゃんの才能だよ!だからさ、ね?立ち上がって』
「……え?」
『かいちゃんは自分を犠牲にしてまでも誰かを助けようとする才能がある!だから戻ろう?あの世界へ』
彼女の顔が見えなかった。光のせいで見えない訳では無いのに何故かそこだけモヤがかかって見えなくなっていて。
「……俺なんか足でまといなだけだよ………」
『かいちゃんには何度も壁に阻まれても、何度倒されても立ち上がる勇気と力があるって私は知ってる。だから立って!世界が、皆が君の事を必要としているから!』
そう言うと彼女は俺の手を思いっきり引っ張りあげた。すると先っまで俺の手を握っていたその手は無くなってしまっていて、懐かしたかった田舎も消えていて、ただ一人取り残されてしまって。
「……え?あれ?」
目の前には茶色い木製のドアがあった。
さっきの彼女の言葉が頭の中で再生される。
俺は吸い込まれるようにそのドアのもとへ行き、そしてドアノブをひねって………。
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