第3話覚醒
無職という現実を突きつけられてから一ヶ月。まだ、開花する可能性があるかもしれないとのことで一応訓練は受けていた。
と言っても簡単なもので鉄製の案山子に木刀を打ち付けるだけの近接訓練。他の人はそれぞれの職業に合った訓練を受けている。
「よぉ!無職、調子はどうだ?」
と、もはや作業と化していた俺の訓練を茶化しに来たのはクラスではそこそこの問題児である田中圭(たなかけい)。彼の職業は盗賊だ。B級職業が調子に乗りおって………。まぁ、俺はそのB級にすら及ばないけど。
「別に……。毎日木刀を鉄の塊に打ち付けてるだけでも案外楽しいものだぞ」
「ま、精々明日の実践訓練では足を引っ張らないように頑張れよ無職」
そう言うと田中はいつもつるんでるメンバーの元に向かった。
そう、田中の言う通り明日はここから一番近い迷宮での実践訓練なのだ。一応俺も行くことになっているのだ。正直俺は必要ないと思うのだが、そのために俺はこの一ヶ月の訓練を毎日頑張ってきたのだ。無職に教えることはないとの事で誰一人として俺に戦い方を教えてくれなかったので初日は若干病み気味だったが、見返してやろうと思い今では作業となっているが何もしてこなかった訳では無い。
他の職業の奴らが教えて貰っている剣術を盗み聞きしたり見て覚えたりもしたし、何より一番の成果はファイターという職業のスキル【カウンター】を見様見真似ではあるがほとんど完成系に近いほどまでに鍛錬して習得したのだ。職業のスキルとしては習得してないのだけれど。
ちなみにステータスは水晶に手をかざした後なら、念じればいつでも確認でき、他人からは見ることが出来ないようだ。
「よし、では今日の訓練はここまでにして明日に備えましょう。解散!」
騎士長の言葉を合図に俺は案山子と木刀を倉庫に片付け、そのまま自室に戻りベットに飛び込む。
明日こそ今までの努力の成果を発揮させることを誓い、俺はそのまま柔らかいベッドの誘惑に負け寝てしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お城から馬車を使って一時間弱、森の中の大きな洞窟の前に来た。
「それでは今朝言った通りの少数部隊に別れてください」
騎士長が言うとみんなは駄弁りながら今朝言われた五人の部隊に別れた。部隊は全部で八つで最前線部隊には竜騎士の辰巳、勇者の勇介、守護者の杜(もり)、賢者の水野(みずの)さん、聖職者の和田(わだ)さんの五人だ。ちなみに俺の部隊は盗賊の田中、預言者の世音(よね)さん、付与術師の町田(まちだ)、侍の宮本と俺の五人だ。
「それでは迷宮に入ります。くれぐれも油断だけはしないように」
騎士長の声に返事をして、迷宮に潜った。
中は暗くそれぞれの部隊の1人が松明をもつ係で勿論俺は松明係。最初の方は小さいネズミのモンスターやミミズみたいなモンスターしかいなく、殆どの敵を最前線部隊が殲滅して言ってしまったので後方の俺達はワイワイ話していた。
「んだよ、迷宮って聞いてたから戦えるかと思ってたけど辰巳たちが倒してくれるからつまんねーな!」
「まぁ、楽に越したことはないからいいんじゃね?前線部隊がいれば楽勝でしょ」
と田中と宮本が話している。やめろ宮本、それは死亡フラグだぞ。
ある程度進むと大きくて広い空間にでた。騎士長曰く休憩ポイントらしい。それぞれ持ってきた水筒や軽食をつまみ休憩していた。
何だか嫌な予感がする。事前調査ではゴブリンやコボルトも出ると聞いているので深さ的にはそろそろ出てきてもおかしくないぐらいなのだが、未だに出会っているのはネズミやミミズみたいなモンスターしか会っていない。
背中に寒気が走った。それに気づいたものは俺だけではなく、前線部隊の辰巳や騎士団の人たちも俺たちと同じほうを見ている。
何かくる。
そう思った途端、先に進む道の方から全長2メートル弱あるゴブリンのようなモンスターが現れた。その巨体は現れてくるのと同時に俺に物凄い眼光を向けてきた。
「?!あれは、ゴブリンチャンピオン?!」
ゴブリンチャンピオンが出てくるのと同時に退路にも大量のゴブリンが現れた。
完全に囲まれてしまった。
「ゴブリンチャンピオンは我々騎士団と第一部隊で対応します!他のゴブリンたちの対処をお願いします!」
いきなりの事態に焦りながらも俺たちの部隊も剣を抜きゴブリンたちと交戦する。
「はっはは!余裕だな!雑魚すぎるぜぇ!!」
宮本と田中は虫を潰すかのような感じでゴブリンを狩る。続く町田も上手い具合にサポートしている。俺はと言うと先程のゴブリンチャンピオンに向けられた眼光で身体が動かない。と言うよりかは動かせない。まるで金縛りにあったかのように固まってしまった。
「クソっ!なんだこれ?!」
俺があれこれして身体を動かそうとしているとゴブリンチャンピオンのいる方向からもう一体、身体のでかいゴブリンが現れた。
「嘘だろ………ゴブリンパラディンまで………」
すると誰にもマークされてないゴブリンパラディンは俺たちの方に向き、俺から少し離れているところにいる世音さんを見てニヤリと笑うと勢いよく突進してきた。
「キャァァァァ!!」
ドスッ!
何を思ったのだろう。世音さんが悲鳴をあげた瞬間に動けるようになり、真っ先に世音さんを突き飛ばして身代わりになった。痛い。
槍が突き刺さっている所から暖かい液体がすごい勢いで流れる。
俺は左手で突き刺さっている槍を抑え、右手で強く握っている短剣を勢いよくゴブリンパラディンの首に突き刺す。
「ぐぎゃぁぁぁ!!」
ゴブリンパラディンは槍を持つ手を話して後方に下がる。それを待っていたかのように後ろから田中が首を跳ねる。
「ぐっ、」
その場に倒れる。槍を抜いてとりあえず止血をと思うが手が震えて力が入らない。傷口からは夥しい量の血が流れている。
「おい!大丈夫か!なんでこんな馬鹿なことをしたんだよ!」
田中がよってくる。分からない。自分でもなんで飛び出したのか。
「さぁ……ね…ただ、じ……ぶんに……も何か……出来るんじゃないかっ………て………」
だんだん視界がぼやけてくる。もう全身の力はなく、動くことも喋る気力もなくなってきた。あとから駆けつけた宮本と町田が俺に声を掛けてくるが、何を言っているか聞き取れなかった。意識が遠のいていく。
毎日が憂鬱だと言っていたのは自分に才能がないことを否定したかっただけなのかもしれない。
せめて、異世界では才能に恵まれたかった。
そう思いながら俺は目を閉じた……………。
《職業が覚醒しました》
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