第2話職業

目の前には甲冑を来た兵士達と、玉座に座る王様らしき人がいた。

一瞬の出来事で驚きを隠せず皆ただただその場に立っているだけだった。俺はと言うと興奮を抑えきれず、頬をつねってこれが夢でないことを確認し建物の内装や周りの兵士らしき人に目を向けていた。


「よくぞ来てくれた勇者諸君。急に呼び出してしまってすまないが、君たちに魔王を倒して欲しい。」


玉座に座っている王様らしき人が頭を下げながら言った。

テンプレな展開で興奮を抑えられない俺とは真逆でクラスメイト達は唖然としていた。


「あの……これはなんなんですか?」


と、そんなクラスメイト中から1人手を上げながら王様に対して質問する人がいた。彼の名は龍崎辰巳(りゅうざきたつみ)。うちのクラスの学級委員長でバスケ部の運動神経抜群なイケメンだ。


「これは申し訳ない。ここは私、ダルスリア王国騎士長のグリアから説明させていただきます。」


丁寧な口調で話してきたのは王様の隣に居る1人だけ甲冑を被ってない男の人だった。

その人曰く、ここは世界四大大陸のうちの一つを占める大国、ダルスリアという所で数百年前に封印した魔王が復活しここ数十年で魔物の活動が活発になり、世界の半分を占領してしまったらしい。魔王が復活する前までは六国あったが、今では四国しかなく古の書物を元に異世界から魔王を討伐する勇者を召喚したとの事だった。


「なるほどね………お前はどう思う、勇?」


と、辰巳はうちのクラスの副委員長の本田勇介(ほんだゆうすけ)に話をふった。勇介は辰巳とは幼稚園の頃からの親友で部活はサッカー部。成績優秀でイケメンなので本当は委員長に推薦されたのは勇介だったが、勇介は自分は裏方の方が好きとのことで辰巳と交換したらしい。


「もし、俺達が魔王を倒したら元の世界に戻してくれるんですか?」


「もちろん。ちゃんと無事にお返しすることを約束致しましょう」


それを聞くと2人はお互いに頷きあって、


「分かりました。その以来、引き受けましょう」


そういうとクラスのみんなは張り詰めていた空気が溶けたかのような安心感のある感じになり、同時に相手の王国側もほっとしたような感じだった。


「それでは先ず、皆様の職業を覚醒させましょう」


先程の騎士長さんが俺たちのところに来て話し始めた。付き添いの人が水晶の周りを歯車が回っている不思議な装置を持ってきた。


「この水晶に手をかざしてください。そうすれば職業を覚醒させることが出来ます」


遂に来た!職業覚醒イベント!

このイベントによって今後の自分の立場が大きく変わってくる。勇者とか強そうな職業になれば最前線で戦えるし、そこそこの職業でもサポートとして立ち回れる。

まぁ、断然最前線で戦う方が俺の好みではある。


「じゃあ先に俺が行きます!」


楽しみは最後に取っておきたい派なので俺は手を挙げず、他の人が先に行くのを待っていると委員長の辰巳が手を挙げた。

辰巳が恐る恐る水晶に手をかざす水晶が青白く輝いてホログラムのようなものが空中に表示された。


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龍崎辰巳 男 17歳

職業:【竜騎士】

固有スキル:【戦場の友】

スキル:【気配感知】【竜爪撃】【火属性魔法lv2】

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辰巳の職業は竜騎士か。ゲームでも小説でも竜騎士なんて言う職業はトップレベルで強い。委員長ってこともあるだろうし何より職業があれなので最前線間違いなしだな。

俺は学校では陰キャなので殆どの人と話したことはないので、自分も前線で戦う職業なら話しやすい人がいいと思っていたので辰巳があの職業で正直安心している。


「じゃあ次は俺が行くよ」


と、次に手を挙げたのは辰巳の大親友、勇介だ。


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本田勇介 男 17歳

職業:【勇者】

固有スキル:【英雄の加護】

スキル:【魔導障壁lv2】【光魔法lv3】【自然治癒能力lv1】

EXスキル:【妖精の癒し】

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勇介の職業が表示された瞬間、周りの人達の顔が驚きで埋め尽くされていた。先程の辰巳おも上回るスキルの強そうな感じに加え、職業名が勇者であることが原因だろう。

正直俺も驚いた。勇者が称号とかではなく一つの職業として存在していることに。

それから2人に続いて色々な人が職業を開花させて行った。やはり、クラスの人気者のほとんどが強そうな職業でそうでない人はやっぱり普通の職業だった。

そして、順番は最後になり遂に俺の番が来た。今までの人達の職業を見て最前線でもサポートでもどれも面白そうな職業が多かったのでどっちでもいいが、最初から右手に溜めていた念を一気に目の前の水晶に送る。


「じゃあ最後に俺が……」


カッと目を見開き、水晶に手をかざす。水晶は青白く輝きそして俺の職業が表示される。


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寺橋廻斗 男 17歳

職業:

固有スキル:

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「…………あれ?」


読み込みが悪かったのかと思って今度はゆっくり慎重にてをかざすが結果は変わらなかった。


「あの……これって…………」


騎士長に目を向けると騎士長は申し訳そうな顔で言った。


「すみませんが、それは故障でもなんでもなく貴方の職業が『無職』なだけで………」


その言葉を聞いてクラス全員が笑い出す。

え?無職?え?


「この世界の職業はその人の才能に基づいて覚醒されます。ですが!安心してください!まだ、職業が覚醒する可能性はあるので………」


次第に周りの笑い声が大きくなっていく。玉座の方を見ると王様の威厳のある強面も少し笑いを堪えていた。


「う、嘘だろォォォォ!!」


俺は異世界にきての初めの一歩で躓くどころか大コケしてしまった………。

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