4th Beat「トラベリンメンのテーマ」

「ニルアドミラリ」


ぽつんと志龍がそんな単語をつぶやいた。

黒瀬さんの「へ?」という言葉が宙に浮く。

一方の僕たちは、日常茶飯事なので、作業の手は止めない。


志庵はちらりと一瞥をくれ、レポートを書き続ける。

零志は、気にも留めず数学の問題を解き続ける。

ぼくも、スマートフォンから目を離さない。


志龍が訳の分からないことを言うのは、日常過ぎて誰も気にも留めない。

思考回路がショートしている、というのは言い過ぎだが、まともにとりあうのはめんどうくさい。


「……本に出てきてさ、なんかいいたくなったんだよ。」


ニルアドミラリ、と語感を確かめるように、志龍が言う。

やっぱりとりあうだけ無駄な理由だった。

けれども。


僕の持っているスマートフォンには、検索エンジンが開かれ”ニルアドミラリ”という言葉が打ち込まれているし。

零志は心当たりがあるのか原文の教科書を捲っている。

志庵だけが意味を知っているのか退屈そうにしているだけだ。


「で、意味は?」

黒瀬さんがいう。

「しらねえ。」

と、志龍。

「意味もなくつぶやくの?」


不思議そうにつぶやく悠樹に、やっと納得がいった。

そうか。

この一連の出来事にぼくたちは慣れているけど、悠樹はなれていないのだ。


「俺は、でてきた言葉をそのまま意味もなくつぶやくんだよ。」

志龍がむっつりとした声で返す。

「子供みたい。」


黒瀬さんがくすりと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

存在しなかったモノたちの日常と幻想 城前朱夏 @ayaka_shiromae

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ