QTEを急にさしこんでくる人生ってマジなんなの?

ちびまるフォイ

QTEは突然に…

「まさとーー。はやくおきなさーーい」


階下から母親の声が聞こえる。


「起きるよぉ……」


といいつつも布団の中で芋虫のようにもぞもぞしていると、

視界の中に見慣れない表示が出てきた。



【 視線を動かせ!! 】


     ←




「……へ?」


表示は一瞬だけ表示されてすぐ消えてしまった。

何だったんだと疑問を感じる前に母親が部屋に入ってきた。


「あんたさっきから何度も起こしてるのに、

 どうして降りてこないの!!!!」


「い、いま支度を……」


「もうお母さんご飯作らないからね!!!!」


「ええ!?」


母親の弁当ストライキが始まってしまった。

最初に俺を呼んだときの声色はむしろ機嫌いいくらいだったのに

どうして急に修羅のごとく怒ってしまったのだろう。


「まさか……あの入力を失敗したからか?」


思い当たるふしはそれしかなかった。

かばんを持って家を出ると、ふたたび表示が現れた。



【 視線を動かせ!! 】


     ↑




「え、えっ、うわわっ」


完全に虚をつかれてしまった。

入力に失敗した瞬間、横切った車に水たまりを跳ね上げられた。


「……最悪だ……」


ドロドロの服を着替えて学校につく頃には遅刻で生徒指導室でしこたま怒られた。

その日の昼休憩では友達に今朝のてん末を話して笑われた。


「ははは。なんだそれ。それじゃその入力にミスったら、

 お前の人生が悪い方向に傾くってことかよ」


「そうなんだよ。いきなり来るからアスリートばりの反射神経でもないと――」



【 視線を動かせ!! 】


     →




「今ぁ!?」


右を見ようとしたがびっくりが先行して入力失敗。

笑っていた友達は急に顔色を変えて胸ぐらを掴んできた。


「アスリートばりの反射神経だって!?

 一流のアスリートの能力を馬鹿するんじゃねぇ!!」


「キレるポイントが強引すぎるよ!!」


アスリートの能力をナメたというよくわからない理由で仲違い。

河川敷で仲直りのケンカを約束してからもQTEは容赦なく襲ってきた。



【 視線を動かせ!! 】


     ↓



「ふわわっ!」


「おい佐藤。今数学の授業じゃないぞ」


授業中にうとうとしたタイミングをはかったようにQTE。

入力をミスったことでクラス中に笑われる。好きな人にも笑われるのが辛い。




【 視線を動かせ!! 】


    ←↑



「2つ!?」


トイレで表示されたQTEに面食らう。

入力に失敗すると調節機能の壊れたウォシュレットがおしりを直撃した。


トイレを水浸しにしたことでふたたび生徒指導室で怒られると、

教室に戻ってくるなりみんなに笑われた。好きな人にも笑われた。


「QTEはクソだ……」


学校が終わる頃にはおよそ学生生活すべてを総決算しても

今日一日ほどツイてないことはなかったほどに最悪な日だった。


すべてはQTEのせい。


世界で貧困問題がなくならないのも。

地球を包むオゾン層が破壊されているのも。

俺が学校で好きな人に近寄れないのも。


「QTEなんかなくなっちまえーー!!!」




【 視線を合わせろ!! 】


   <○><○> 




「入力しないパターン!?」


予測してあてずっぽうに視線を動かして失敗。

転生トラックにひかれた通り魔のナイフが刺さった。


翌日、昨日のような日々にするわけにはいかない。


神経を集中して過ごすようになった。



【 視線を動かせ!! 】


     ←



「はい!」


【 Good!! 】


一歩歩くごとにQTEが差し込まれると思って行動すれば、

ふいに表示されるQTEにも対処しやすくなる。



【 視線を動かせ!! 】


     ↑



「はいこっち!」


【 Good!! 】




【 視線を動かせ!! 】


     →


「まだまだ!」


【 Exellent!! 】




【 視線を動かすな!! 】


     ←


「ひっかかるか!!」


【 Wonderfull!! 】




襲いかかるQTEをあれよあれよと片付けていく。


QTEに集中力が削がれるので他の作業のほとんどが手に付かないが、

入力に成功することで俺の人生はいい方向へと舵を切る。


「よし、これならうまくいくかもしれない……!!」


QTEの連続入力が成功したことでテストの成績もラッキーで加点され、

体育の授業でも奇跡的なハットトリックを決めたりと、

少女漫画のイケメンのようなことばかりが起きるようになっていた。


自信をつけたことで、奥手な自分も好きな人に告白する決心が固まった。


QTEが成功続きでいい流れができている以上、

入力成功すれば告白も成功するに決まっている。


明日を|決戦(こくはく)の日として、その日は眠らないことにした。


「寝ている間にQTEが差し込まれて、

 明日を台無しにされてたまるか……!!」


案の定、眠気が深まった深夜にQTEは意地悪く現れたがあっという間に入力成功させた。

なにせこっちは一世一代の告白を賭けているから集中力がちがう。


「負けてたまるか……QTEに負けてたまるか……!!」


夜が明け、学校に行くまでの間にも飛んでくるQTEを一度も失敗させずに進めていく。


水たまりを横切る車は、運良く俺のすぐ前で水を跳ね飛ばしてセーフ。

転生トラックは通り魔をドリフトでかわしていく。


今、俺はQTEにより最高にツイている状態だ。


「もう失敗する気がしないぜ!!」


好きな子の靴箱に手紙を書くという時代錯誤な古い方法でも、

QTEで成功しまくっている以上、彼女は放課後の体育館裏に来てくれた。


「話って、なにかな……?」


「じ……じつは……」


成功するとわかっていてもどうしても言葉が出てこない。

心臓はバクバクと破裂寸前まで膨らんでいる。


大丈夫、俺はQTEで成功しているんだから。


「じつは……俺、あなたのことが好 



【 視線を動かせ!! 】


     ↓



 しまっ……!」


告白で頭がいっぱいだった自分のもとに表示されたQTE。

普段ならあっさりクリアできるはずが驚いて入力失敗してしまった。


終わった。


ここまで積み上げてきた成功を最後の最後で壊してしまった。


彼女の答えはもちろん……。



「うん、私も好き。付き合いましょう」



「え!? い、いいの!?」


彼女はまっすぐこちらを見ていたままだった。


最初は告白に驚いたのか一瞬だけ見開いたようだったが、

今ではとろんとした目でこちらを見て、口も自然に動いている。


「やった……やったーー!!」


絶対にうまくいかないと思っていた。


いつしかQTEばかりに頼っていたけれど、

自分の人生を決めるのはQTEなんかじゃなくて、自分自身なんだ。


俺は今日という日をけして忘れないと心に刻んだ。






「さやか、佐藤と付き合ったんだって?

 どうしてあんなブサイクの告白受けたの?」




「いや、私のほうでQTE入力ミスっちゃって……」

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