最終話 エスプレッソの香りにつつまれて・・・
「あら、、まぁ~」
「園長先生、御無沙汰しております。」
「懐かしいわね~元気にしてたの?
ケメコちゃんと誰だっけ?もう一人のあの~・・・
ごめんなさい名前が出てこないわ・・・」
俺は俺の事を崇拝してやまぬ元刑事の名前を、
園長先生が思い出せなかった事に対し、
奴に深い哀れみを感じたが「はい、みんな元気です!」
とだけ答えておいた。
そして園長先生は今度は女学生に向かって
「あなた達どうして?」と少し戸惑った様な表情で尋ねた。
「このオジサン変だけど無害そうだから、私が部屋に入れたのよ。」
「あら、そうなの・・・」
そう云って園長先生は女学生から再び俺に視線を移し
「今、何をしてるの?ちゃんと働いてるの?」と俺に尋ねてきた。
「はい。報道関係の仕事を少しやっていましたが、
今はエロプラッソとかいう飲み物の、
実演販売計画の特殊任務遂行中です。」
「あら、、随分と難しい仕事をしているのね。」
そう云って園長先生は俺の仕事内容の重大さに驚いたのか、
目をまん丸にして絶賛した。
するとその会話を聞いていた女学生が
「オジサン、オジサンはただの喫茶店のチラシ配りのバイトでしょ?
それにエロプラッソじゃなくてエスプレッソじゃないの?」
「あ~日本語で発音するとそうとも聞こえるかも知れぬ!
しかし私はタダの喫茶店のチラシを配っているわけではないのだ。」
「あ、そう、、そうなんだよね。」
と云って女学生は俺の仕事に対する責任感と、
俺の迫力に圧倒されたのか話を濁してしまった。
その様子を見ていた園長先生は少し戸惑った様な表情で
「いいのよ、どんな事でも一生懸命やっているって云う事が大事なの。
でも安心したわ・・アナタ昔からちょっと個性的だったから、
社会に馴染めるか心配していたのよ。」
「先生。私は社会に馴染む為に、この世に生まれて来たのですか?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
今となっては何故にあんな質問を俺はしたのか不明だが、
園長先生も女学生も俺の質問に黙り込んでしまった。
俺はとっさに自分の口から出た言葉の意味が、
サッパリ自分でも理解出来なかったが、
きっと気まずい事を云ってしまったのであろうと二人に気を配り、
「先生!有り難う御座いました。また今度はみんなで遊びに来ます。」
そう云って女学生の部屋から帰ろうとした。
すると園長先生は
「ちょっと待って!」
と云い
「そのまま・・・そのまま・・・
アナタはそのまま綺麗に純粋に生きて行けばいいの・・・」
と云って俺を抱き締めた。
「はい!園長先生!汚くなるのはいつでも出来ますから、
現状維持で精進して邁進します!」
俺はそう云って、そっと園長先生の手を肩から離し玄関へと向かった。
帰り際に玄関で女学生から借りた服を脱ごうとしたら
「それ結構オジサンに似合っているからあげるよ。」
そう云ってくれた女学生と横で微笑む園長先生に俺は一礼をし、
白いシルクのナイトガウンをその上から羽織り施設を後にした。
それにしてもどうして無意識とは云え、
俺は施設に辿り着いたのだろう?
実に不思議である。
しかし俺は園長先生と女学生から大切なものを貰った気がした。
珍しく帰り道にハプニングは存在せず、
俺は無事にマンションへと辿りつく事が出来た。
俺は深呼吸をしながらマンションの下から24階を見上げた。
きっと俺はこれからもエレベーターを使わず、
あの24階の部屋までの階段をストイックに、
何の意味も無く上がり下りする事を続けるだろう。
今頃、部屋の中ではケメコと俺の事を崇拝してやまぬ元刑事が、
酔っぱらいながら何やらふざけ合っている事だろう。
「よぉ~~~し!!いくぞぉ~~~~」
俺はその掛け声とともに全力ダッシュで一気に階段を駆け上がった。
部屋の前に着くと玄関の隙間から女学生曰く、
エスプレッソとやらの香りが微かに漂ってくる。
俺は玄関の鍵をあけ一歩中に入ろうとした。
その時・・・
まさに・・・
その時である!
ちゃりぃ~~ん、、ちゃりちゃりぃ~ん~
鍵が俺の足元に・・・・
鍵・・・
が・・・
おちた・・・
これは!!!
イカン!!!!
実にイカン!!!!
やり直さなければ・・・・
俺は即座に24階の階段をまた1階に向かって全力で駆け下りて行った。
(完)
エスプレッソの香りにつつまれて・・・ 浮世離れ @namesuke
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