第11話 フル・フラム・フラン、ああ、青春のレッドポジション
全くもって、今日は最低の一日だ。
折角の快晴に恵まれていたのに、まさかあの三人組のブルーポジションのクールビューティに怪人討伐押し付けられるわ、変身が解けるまで河川敷の茂みに隠れなきゃいけないわ。
予定していた撮影など全く手がつかず、撮れた写真といえばあの変態怪人の顔のアップ。
何が悲しくてエビ人間のグロテスクな顔のアップを持ち帰らにゃならんのだ。
変身が解けて、友人から二十万で買った総走行距離二十万キロ超えのエンジンから異音がする黒い軽バンに乗って帰る頃には、日は落ちて辺りは暗くなっており、帰りの
今日は帰ったら何を食べよう、酒は残っていただろうかと無意味な思考を巡らせながら狭い十字路に差し掛かる所でカーナビで音楽をかけようとチラリと視線を落とした瞬間、サッと車の前を黒い影が通り過ぎた気がして一瞬のブレーキ操作でわずかに減速する。
気のせいかと思い、徐行から少しずつ加速して交差点に差し掛かると、
「え!?」
赤いパレオを腰に巻いた真紅のスクール水着(何故か旧型だ。昭和かっ!)の少女が物凄い勢いで空から降って来て・・・。
どーんっ!!
思いっきり俺の車のボンネットに激突して来やがった!?
フロントガラス割れなくてよかったっ、じゃなくて!
「・・・えー・・・」
どさっと、豪快に夜の交差点のど真ん中にすっ倒れる赤い水着の彼女。その右手には刃の波状に湾曲した真紅の刀剣が握られており、俺は目を見張った。
そう、あれは確か・・・。
「フランベルジュって言う剣だな。どこの国の剣だったっけ」
赤い水着に赤いレースのパレオを巻いた少女は飛び跳ねるように起き上がると運転席の隣にビョーンと飛んで来て窓に張り付いて来て言いやがりました。
「ここ、そう言う場面じゃないよね!? 普通は車降りて来て私の事心配すんじゃないの!?」
えーだって、魔法少女って車に跳ねられたくらいじゃ死なないでしょ。勝手な思い込みだけど。
「あー、うんー。だいじょうぶかー?」
ヤバイ、すっごく棒読みだ。自覚はあるよ。でもねぇ・・・。
「うきー! アンタのせいで怪人見失っちゃったじゃない! 飛び出し禁止って教習所で習わなかった!?」
この交差点は、俺の車線は止まれ無いんだが・・・。止まれは脇道の方だぞ。
さらに言えば、俺は徐行していたし左右も見ていた。
斜め上から降ってくるやつのことなんか知るかっ、バカ!!
仕方がないので一旦窓を下げて、
『ウィィィー・・・』
「やっと謝る気になったようね。私も悪魔じゃないわ。素直に謝るなら、」
『ウィィィー』
閉めてやった。
「ざけんなっ、おいっ! 降りてこいこのゲス野郎!」
誰が降りるかバカ。エロさもなりを潜めるような血気盛んな魔法少女なんか相手にしてられるか。
帰れっ!
俺はちょっと強めにアクセルを踏んで急加速気味に逃げてやった。
「ふざけんなっ、ちょっとっ! 責任とんなさいよっ! ここはそう言う場面でしょうがっ!」
断じて違います。
日本の法律は交通弱者有利ですが、魔法少女なんて空から降ってくるようなやつは交通弱者じゃありません。
よし、帰ろう。
「ふざけんなーっ! まてっこのっ⁂∞◯♂Å♀□ゞ」
お下劣な言葉が浴びせられているようですが、密閉性の高い車内には聞こえませんなぁ。
さらば、赤い魔法少女よ。
どうせお前も、エロいこと怪人にされたい症候群の変態魔法少女なんだろう?
俺は一切、関わるつもりはないからなっ。
と、関わるつもりはなかったんだが・・・。
アパート百々目鬼荘戻ってキラリちゃんあたりが待ち伏せしてないかと心配しながら階段を上がっていくと、7号室の宇佐美聖薇さんとバッタリ出会した。
彼女はスッピンで、寝巻きがわりなのだろうグレーのジャージ姿で玄関を出て来て、丁度彼女の部屋の前を通りかかった俺にぶつかりそうになって言う。
「なんだ。イッセーじゃん」
流石、聖薇さん。スッピンでも美人だな。
「あ、ども」
軽く挨拶を交わして通り過ぎると、彼女の方も興味なさそうに階段を降りて行った。
買い物にでも行くのかな?
ともかく、俺は日常に戻ろうと部屋に向かい鍵を開けて・・・。あれ、開いてるぞ・・・嫌な予感が・・・。
玄関を抜けると、
「お帰りなさい。鍵、変えましたよね?」
魔法少女でしたっ。どうやって入った
「鍵っ。変えましたよね?」
「えっ、いやっ、調子悪くてね?」
「そうなんですか?」
「・・・そうなんですよ?」
「そうですか。今日は会議があったので牛丼ですが、朝はちゃんと作りますから、」
「ええと、あの、ちょっと待って?」
「はい」
「えっとね?」
「見つけたわよっ!!」
誰だ、俺の話に被せるように叫んでくる乙女は。
見ると、階段を駆け上がって来たらしい息を切らせた赤いスクール水着が肩で息をしており、
ガチャン、と、部屋に入って扉を閉める。
『ちょっとっ、待ちなさいよ!?』
「お客さんですか?」
「いいや、全然知らない魔法少女だ」
「また追いかけられてるんですか?」
「俺の車に空から飛び込んできただけだよ。と言うか追いかけて来てるのは君だよね?」
「その通りです。さっさと私に欲情して下さい」
「寝首をかく理由を作りたい発言ありがとうゼッテーしないよ?」
「っくっ、なんなんでしょう。ちょっとムカつきました。明日の朝ごはんは頑張っちゃいますからね」
「いや、まず、魔法少女が敵役の怪人の家に来ちゃダメだろうと思おうな?」
「
「良くないよ公序良俗的にっ」
「ちなみに年齢的にオッケーですから」
「学生の時点でアウトーだよお家帰んなさいよ」
「あと、お風呂いただきますね」
「徐に男の前でセーラー服のスカーフ脱ぎ出すんじゃないよ。淫乱かっ」
「ビール、出しておきましたから。先に召し上がってて下さい」
「あ、うん。ありがとう?」
「出たら私もいただいちゃって、」
「嫌だよ? 人生終わりたくないからね? お風呂出たら帰ってね?」
「っチッ。意気地なしですね」
「うーむ。まずは恥じらうことから始めようかワンエメちゃん」
「クソ真面目ですか怪人のくせに」
バンっと玄関の扉が開け放たれた。
しまった鍵かけるの忘れた。と言うか、魔法少女遠慮ねぇなオイ。
「無視しないでって言うか責任取れコノヤロウ!!」
赤いスクール水着にレースのパレオを巻いた魔法少女がセーラー服を半脱ぎし始めたキラリちゃんと目が合い。
「え、フランちゃん?」
「えっ!? なんでキラリちゃんが!? て言うか何故セーラー服っ!?」
いそいそと居住まいを正す
こほんと咳払いして、俺の右腕に絡みついて来て言った。
「紹介します。正義怪人で旦那のイッセーくんです」
「ちょっとまてーい、いつから旦那になった赤の他人だからね!?」
「あられもない私の魔法少女姿を見ておいて、」
「発言っ、誤解のある発言っ!」
「欲情しておいてよく言いますね」
「してないだろっ、状況悪くなるだろっ!」
「さあ、今すぐ抱いてくれていいんですよ?」
「しねーよ、怖いよっ!?」
グイグイとキラリちゃんの頭を押して引き剥がそうとするが、流石魔法少女すごい力でしがみついて来やがる。チョンと当たる胸は悔しいが気持ちいいが。
そうじゃなくて、俺はこんな所で人生終わりたくないからっ!
グイグイされて何故かちょっと嬉しそうなキラリちゃんにちょっと引いていると、赤いスクール水着魔法少女が地団駄踏んで言った。
「セーラー服はうちの制服じゃないでしょっなんでセーラー服なのよっ!」
「ああ、コレは中学時代の制服よ?」
中学時代かよ!
「そもそも、知らない大人の家に転がり込んでるってどう言うことかな!?」
「人には知らなくて良い方が幸せな事もあるのよ、フルフラムフランちゃん」
また無意味かつナゲー名前ですね。
「ちなみにフルフラムフランちゃん。イッセーくんの事ストーカーした?」
ストーカーは君だよね。
「私の事轢き逃げして、責任取らない方がおかしいのっ! 男なら美少女轢いたら連れさんなさいよっ!」
まてまて、おかしいだろう。魔法少女はどいつもこいつも変態か?
なんで俺をそんなにも犯罪者にさせたがる?
むしろ負癖ついてるドM娘なの?
「とにかくフランちゃん。彼は私のだから諦めてね?」
「そうは行くかっ、折角の男女ズボズボシチュエーションだったのにっ! いくら相手がワンダーエメラディアだとしても、コレは譲れない!」
「いやっ、もう、ね! 君らね! 俺的にはどっちもないからっ!」
もう限界と、俺は二人を外に力づくで追い出す。
怪人で良かった。魔法少女に力負けしないよ素晴らしい。
ガチャンと鍵を閉め、数分。外が大人しい事に安堵して靴を脱いで部屋に上がると、ガチャンと音がして何食わぬ顔でキラリちゃんことワンエメちゃんがフツーに入ってくる。
「イッセーくん。無駄な抵抗はやめて下さい」
「マジで怖えよ、どうやって合鍵作った!?」
「大家さんに彼氏の部屋の鍵くださいって言ったらすんなり作ってくれました」
「大家さんの倫理観どうなってんだ!!」
「あ、ちなみに私、一人暮らしなので。問題ないので今日は泊まって行きますね?」
「ダメだからね!?」
もう嫌だ・・・。
魔法少女コワイ。
敵かもしれないけど敵じゃないから見逃して! 拉田九郎 @Radaklaw
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