第10話 魔法少女会議
「まほーしょーじょかいぎー!」
埼玉県、新都心のマンションの一室。
3LDKのリビングで、コタツに足を突っ込んだ三人のブレザー姿の少女。
その中央に位置するポニーテールの少女が声高らかに宣言したのを受けて、栗色の髪を背中まで伸ばしたロングヘアの少女がため息をついてホットココアを一口。
「一体、何の会議なのかしら」
ボブカットに事務的な眼鏡を掛けた少女も、ミカンを剥きながらポツリと呟く。
「毎回、アカネちゃんが開く会議って、何の脈絡もない事が多いよね」
ポニーテールの少女、
「何でやる気ないのよ二人とも! 先日の新しい怪人の対策を考えないとでしょ! 違いますか、
「「あーはいはい」」
二人の気のない返事にめげる事なく、アカネはコタツの真ん中のザルからミカンを一つ掴み上げると、豪快に指を突っ込んで真っ二つに割って皮も剥かずに器用に中身にかぶりつく。
ムシャムシャと咀嚼しながら言った。
「そもそもだよ! ウオツリザネやレッドエビテンダーみたいな怪人の討伐もままならないこの時にだよ! あんな強そうな怪人、野放しにできんでしょうがよ!」
「最近の怪人の戦闘力が上がっている原因は、私達も含めて魔法少女が怪人に敗北するケースが増えているのが問題だと思うけれど」
木更津輝ことキラリがため息混じりにミカンを一粒口に放り込む。
「魔法少女の数も増えているみたいだし」
「そうね。負けてすぐ廃業しているような魔法少女が多すぎるわ。お陰で私達の負担も増えてきているし、由々しき事態ではあるわね」
義永芽依こと、メイもココアの入ったマグカップを両手で握りしめて言う。
アカネは、中身だけ器用に食べた後のミカンの皮をティッシュで包むと部屋の隅に置かれたゴミ箱に放り込んで言った。
「それも大問題だけど、肝心な魔法生物たるレプラコーンのマエダッチがいない以上棚上げします!」
「そもそも、あのレプラコーンが手当たり次第に魔法少女増やそうと勧誘しまくってるのが問題なのだけれど」
「はい、キラリちゃんたしかにそのとーり! ですがまず、最近の怪人に関する報告をお願いします!」
「はぁ・・・。まず、川辺で人間を襲って水中を引き摺り回して恐怖を振りまいていたウオツリザネだけど、これの討伐を完了した事を報告するわね」
「なんと! あの水中から出てこない卑怯者を!? 私も一撃喰らわせたかったあのエロ怪人! え? 倒したのね?」
「そうだけど?」
「へ、へえー」
「アカネちゃんのお尻の仇は打っておいたから安心して?」
「へえ、へええー。じゃあ、次に、メイちゃん!」
メイは、コトリとマグカップを置くとコタツの上のミカンを一つ取って言った。
「神出鬼没のロリコン怪人レッドエビテンダーだけれど、先日、これの討伐を完了させましたわ」
「あの変態怪人! アイツも結構強かったけど、本当に一人で倒したの?」
「一人、ではありませんけれど・・・」
「他の魔法少女の援護があったのね!?」
目を輝かせて聞いてくるアカネに、メイは目も合わせずにミカンを剥きながら言った。
「まぁ、苦戦はしたけれどもね」
「そっかそっかー! 強敵が二匹ともいなくなったなら、あの新しい怪人に専念できるね!」
アカネの言葉に、メイが不機嫌そうにミカンの皮を剥きながら言った。
「あの怪人、装甲が硬いだけじゃなくて相当な怪力の持ち主よ。私達全員の力を合わせなくてはダメ。一人で立ち向かうなんて無謀すぎますわ」
「うんうん。メイちゃんの言う通りだね。それで、キラリちゃんはアイツの巣は発見出来たの?」
キラリは後ろの鞄から箱菓子のチョコバー、バッキーを取り出して開けながら言った。
「発見出来なかったわ。怪人の巣なんて。もう一度遭遇出来れば、魔法発信器を弓で撃ち込めると思うけれど」
「オッケー、オッケー。なら仕方ない。次の機会を待ちましょう!」
『ただいまコーン』
窓の外から妙に男らしいが奇妙な語尾の声が聞こえる。
少女達が振り向くと、そこそこイケメンの白い長い髭を蓄えた小人がリビングを覗き込んでいた。
『今、帰ったコーン。今日も五人の魔法少女の勧誘に成功コーン! アカネ、窓を開けてくれコーン』
あからさまにゴミを見るような視線を送るアカネ。
キラリはすっくと立ち上がると、窓に近付いて徐にカーテンを閉めた。
『ちょ!? キラリ、開けてくれコーン! 仕事に疲れた妖精さんを、外に置き去りにするものじゃないコーン!』
「なんか獣の声がします。アカネちゃん、管理人さんに言って調べてもらったほうがいいんじゃないかしら」
「そうだね! うん! ベランダにネット張ってもらったほうがいいよね!」
『何を言っているコーン! 妖精さんがいなかったら、魔法少女として覚醒出来て無かったんだコーンよ!?』
「音漏れも酷いのではなくて? 防音もしっかりやってもらったほうがいいかも知れませんわね」
「そうだね! サッシも良いのに変えてもらおう!」
『お、お嬢様方〜? 老人はいたわらねばなりませぬぞ〜?』
「ところで、ちょっとお腹すかない!? ロイヤルネストにハンバーグ食べに行こうよ!」
「シャンゼリアならいいよ。安いし」
「私はパス。この後、恋人と予定がありますの」
「え! メイちゃんいつの間に!?」
「ほんの一瞬で、恋に落ちてしまいましたわ」
「病気ですね、前もそんなような事ほざいてましたよね」
「男っ気のないキラリさんには、分からない苦悩ですわ」
「じゃあ、牛丼の的屋に行こう!」
「的屋はパスで。何が悲しくて女の子だけで牛丼を食べなくてはいけないんですか?」
「いいじゃん、牛丼! あったまる!」
「そもそも、牛丼なら古野屋派なので」
「うっそ、キラリちゃん古野屋派!? メイちゃんは何派!?」
「ちゅき屋ね。あそこは自動会計だし、豚汁が美味しいわ」
「半自動会計だよね、あれなら的屋の券売機の方が堅実だよね!」
「「的屋っておっさんくさくない?」」
「メニューの豊富さとカレーの美味しさはどこにも負けないよ!?」
「でも、元祖は古野屋だと思うのですけれど」
「牛丼は元祖で選びませんし」
「的屋だよ! マトゥーしようよ!?」
「それじゃあ、今日は解散でよろしいかしら」
「うん、それじゃあ、また明日。学校で」
「ご機嫌よう」
「さよなら。また明日」
「ちょー! マトゥーしようよー!」
『お、お嬢様方・・・。不詳マエダッチに愛の手をコーン・・・。マスコットキャラを忘れちゃダメコーン・・・』
きゃっきゃうふふと少女達の会話が遠のき、バタンっと扉が閉まる音が響く。
ガチャンっと鍵が閉められ、ベランダに沈黙が訪れた。
室内から、カーテンに仕切られた窓の外は窺い知る事が出来ない。
イケメン妖精爺小人の叫びが響き渡った。
『ビーッチ、くそッ、ビーッチ! お前らな! 怪人から助ける為に魔法少女に変身するアイテムくれてやったの俺だぞ! ビーッチ! お前らふざけんのも大概にしろよ、俺がいなかったらとっくに怪人どもの餌食になってたんだぞ、クソビーッチ!』
ドンドンドンっと、壁ドンの音が響き渡り、隣に住む住人らしき男の怒鳴り声が響き渡った。
『うるせえ! 喧嘩なら外でやれ! 黙れクズが!』
レプラコーンのマエダッチは、男の剣幕にびびってエアコンの室外機の影に隠れた。
そして、ベランダに真の静寂が訪れた。
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