第9話 怪人会埼玉支部

 埼玉県某所、古民家。

 武家屋敷さながらの大きな屋敷は、門構えも物々しく近付きがたい雰囲気に溢れていた。

 周りは竹林に囲まれて、ここだけ時代に取り残されているかのような錯覚を覚える、ともすれば不気味と言えなくも無い佇まいだが、漆喰の外壁は立派で外壁から顔を覗かせる瓦屋根からして相当に裕福な地主の家なのだと一眼で分かる。

 そんな屋敷の地下に、荘厳とした神殿を彷彿とさせる広い座敷が造られており、等間隔に並べられた丸柱に支えられ、柱という柱には光の屈折を利用した炎のイミテーションが幻想的に揺らめくLED松明が輝いて、座敷内を淡く照らし出している。

 その、座敷の中には三十を超える姿も様々な怪人達が身動ぎしながらゴソゴソと雑談にふけっていた。

 座敷の奥には、一段高い畳の舞台が設えられており、豪華な西洋椅子がまるで玉座のように鎮座している。

 そして、その背後には所々光が反射する紫のカーテンが一杯に掛けられており、その更に奥から女の声が高らかに上がった。


「怪人王、ダイボッキ様、御成!」


「「「「「ダイボッキー! ダイボッキー!」」」」」


 怪人達が片腕を振り上げて歓声を上げる。

 紫のカーテンが開かれて、奥から骸骨のように痩せ細った鎧武者が黒いビキニに股間部分の大きく開いた赤いラインの入った黒いスカートを纏った、コウモリの翼が禍々しい浅黒い肌に真紅の目をした美女に手を引かれて入場するなり、西洋椅子に腰を掛けて右手を上げて歓声を鎮めて言った。


「よくぞ集まった、我が兵達よ」


 怪人達の最前列、中央に立つ赤い鬼の姿でありながら銀色に輝く西洋甲冑に身を包んだ大男が、左手の拳を握りしめて胸をドンと叩いて首を垂れる。


「ダイボッキ様に置かれましても、ご健勝にあられるようで喜ばしく存じ上げます! この鬼騎士ガストラン、ダイボッキ様の命があれば街の一つや二つ、灰燼に期してきましょぞ」


「うむ。苦しゅうない」


 ガストランの左隣の、黒い虎の毛皮に覆われた怪人が鼻で笑った。


「格好つけおって! 今時の街など境界も分からぬでは無いか、そのような街を貴様一人で滅ぼせると本気で思っているのかガストラン!」


「何が言いたい、ブラックトラジ」


「格好つけのマヌケ騎士が」


「喧嘩を売っているのなら、受けて立つぞ」


「いい度胸だ。どちらが最強の怪人か、勝負をするなら受けて立つぞ!」


「やめよ」


 ガストランとブラックトラジの喧嘩を、ダイボッキは一言で諫めると右に控えたコウモリの翼が禍々しい美女に向かって言った。


「サキュバス怪人ブラッドリリーよ、用件を伝えよ」


「はい、ダイボッキ様」


 一歩踏み出し、色香の漂う美しい肢体をくねらせ、右手を腰に当ててブラッドリリーが可憐な口を開いた。


「先刻、使い魔のグレムリンが、新たな怪人を作り出すのに失敗して魔界に送還されてしまった。稀に見る事故だが、怪人自体は完成している」


 ブラッドリリーは、一同を舐め回すように見回すとガストランに目が合う。

 ガストランが苛立たしげに言った。


「使い魔のグレムリンを失って、何故、怪人が完成したと分かるのだブラッドリリー」


 ガストランに便乗するようにブラックトラジが身を乗り出す。


「確かに! 完成した怪人がいるなら、何故このダイボッキ城に挨拶の一つよこさんのだ!」


 ブラッドリリーは、汚い物でも見るようにブラックトラジを見下ろして言った。


「魔法少女がこの数日で、慌しい動きがあった。件のはぐれ怪人と戦闘したと思われるのだ」


「思われるとな! そんな不確かな事で、俺達を集めたのか! 調査は貴様の役目だろうが淫乱女め!」


 ブラックトラジが視姦するように卑しい視線をブラッドリリーに向けると、ダイボッキが窪んだ眼孔の奥に赤い輝きを称えて言った。


「やめぬか。はぐれ怪人など町中に溢れておるわ。非力なグレムリンを再召喚すれば事足りようが、件の怪人は高い戦闘力を持っていると考えられる。早期に見つけ出さねば、他の支部に取られるやもしれぬし、魔法少女に討伐されれば彼奴らの経験値を上げることにもなりかねん。ブラッドリリーの手勢だけでは足りぬ。各々の配下にも、捜索を命ずるものとする」


「「「「「ははー!」」」」」


 ダイボッキの一声に、いがみ合っていた怪人達は一斉に首を垂れる。

 ダイボッキは満足げに頷くと、ブラッドリリーに促すように顎をしゃくって見せた。

 ブラッドリリーは、一つ頷いて声高らかに言う。


「はぐれ怪人のウオツリザネとレッドエビテンダーが討伐された。荒川沿いだ。ここから行動半径は絞る事が出来るだろう。魔法少女との偶発的な戦闘も考えられる、三人一組で捜索にあたれ!」





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