第8話 天気は晴れ、時々爆死。一撃で倒せない系魔法少女エクスタシアクリスタリアちゃん登場

「鍵の取り換えはこれで終わりです。こちらがマスターキーになりますが、早めに大家さんに渡しておいた方がいいですよ」


「どうもありがとうございます。お世話になりました」


 木更津輝きさらずきらりが登校して早速、鍵屋を呼んで玄関の鍵を交換して代金を支払う。

 これで、あのが勝手に作った合鍵は用をなさなくなったというわけだ。


 さようなら美少女!

 こんにちは平和!

 一人暮らし最高!


 そもそも、美少女なら何でも許されると思ったら大間違いなんだよ。何が魔法少女だ馬鹿野郎。

 それにしても天気が良い今日というこの日、空が青く輝く快晴の元!

 絶好の写真日和である。

 気持ちも新たに、カメラセットの入ったカバンを肩にかけ、ジーンズにロンティ、グレーのパーカーを着てお出かけ用のポーマのスニーカーに足を突っ込んで意気揚々と街へと繰り出す。

 目的地は荒川の河川敷。

 目的は動物の写真を撮ることだが、動物といっても大して探すスキルも無い以上、ハトにカラスにネコくらいしか被写体は無いのだが、身近な動物にしても日常の行動には新しい発見があるものだ。

 河川敷の運動公園になっている芝生のグラウンドを見下ろして、堤防から下るコンクリートの階段に腰を下ろしてカバンからカメラを取り出し、レンズを装着する。

 SDカードとバッテリーを確認して、さて、被写体を探そうと辺りを見渡した時、グラウンドの方から悲鳴が上がった。

 見ると、サッカーをして遊んでいたらしい男の子と女の子の六人組が赤い何者かに追い回されているのが目に入って来た。


「怪人だー!」

「逃げろ逃げろ!」

「早く早く!」


「ブボエハハハハハッ! 俺は怪人レッドエビテンダー! 子供達よ、大人しく俺のハサミで鼻をつまませるビッチ!」


「キャアー! キモい、臭い、ブサい!」


「おのれそこの女の子! ビッチはビッチらしくオムネハサムビッチ!」


「「「変態怪人だー!?」」」


 うむ・・・。よくもまぁ、変態なセリフが吐けるものだ。感心するよね怪人レッドエビテンダー。

 つーか、その名前もかなりハズカシイなおい。

 あ、子供達と目が合った。こっち走ってくるぞ・・・。


「そこのおじさん助けて!」

「変態怪人です!」

「ケーサツ呼んで!!」


 えー、めんどくさーい・・・。

 おっと、怪人とも目が合ってしまった。


「ブボエハハハハハッ! 子供達をよこビッチ!」


 仕方なく立ち上がって、ベルトのバックルに貼り付けた紫のコウモリバッヂに右手を触れた時、背後の堤防の上、サイクリングロードから女の子の声が高らかに上がった。


「見つけたわ、怪人レッドエビテンダー! 今日こそお前の最後だと思いなさい!」


「「「魔法少女エクスタシアクリスタリアちゃんだ!! 怪人なんかやっつけろー!!」」」


「任せなさい。とう!!」


 青いビキニにパレオを纏った青い宝石のサークレットを頭にはめた、煌びやかな槍を装備した魔法少女が地面を蹴って堤防から颯爽と飛翔して、河川敷に軽やかに降り立つと切っ先をレッドエビテンダーに向けて宣言した。


「レッドエビテンダー、今日こそ決着をつけてあげるわ」


「ブボエハハハハハッ! またぞろ我がハサミでチクチクチョミチョミと挟み尽くしてやるビッチ! ビッチはビッチらしく喘ぐがいビッチ!!」


 ビッチビッチうるせぇな。あの怪人。

 ていうか、魔法少女って何気に怪人に負け越してるのか?

 よくわからんが、巻き添えを食らってカメラが破壊されたら目も当てられない。さっさとこんな所から離れなければ・・・。


「行くわよ! 必殺、クールプリズムタイラント!!」


 うーん・・・その意味不明な必殺技叫ぶの恥ずかしくないのかね・・・。

 どう見ても、ただ槍を小脇に構えて全速で突進していくだけなのだが、あれ、威力あるのか?

 案の定、エクスタシアクリスタリア、面倒だ、エクタリア、まだ長いな。エタリアちゃんでいいや。の槍は、レッドエビテンダーの右手のハサミで掴まれて動きを封じられてしまう。


「くっ、やるわねレッドエビテンダー!」


「ブボエハハハハハ。今日も今日とて貴様の魔力を頂ビッチ、快楽に溺れてチョミチョビッチ!!」


 シャキーン、と、レッドエビテンダーが左手のハサミを頭上に掲げてチョキチョキしている。

 どんな仕打ちをされてしまうのか興味があるが、「いけー」「やっつけろー」「がんばってー」っと魔法少女を応援する子供達がいるし仕方がない。ちょろっと手助けしてやるか・・・。

 カメラに夜間撮影用の強化フラッシュを装着して階段を歩いて降りて行く。

 あ、怪人が気付きやがった。


「ブボエハハハハハ! 記念撮影か! いいだろう、魔法少女のあられもない姿をそのレンズに収めるがいい!」


 エタリアちゃんが物凄い目で睨みつけてきた。


「くっ、この恥知らず! 魔法少女が負ける姿をカメラに収めようというの!?」


 ・・・えー?

 この負ける気でいるのか?

 ドエムか?

 なんとも相手にする気も失せたので、徐にカメラを(主に怪人の顔に向かって)構えてやった。


「はい、チーズ」


 パシャリ。


「ぎゃー! 目が、目がーーーーー!!」


 ふ、どこぞの悪役みたいな・・・。


「きゃー! 目が、目がーーーーー!!」


 お前もかよ!!

 ちょっとは空気読めよ!!

 もうね。もう、なんだろう。すごく、こう、ね。


「とーう!」


 怪人の背後から腰の付け根目掛けて、思いっきり横蹴りを喰らわしてやった。


「ブボエハぁ!?」


 堅そうな外骨格に身体が守られていると言っても、やっぱり関節部分は強くはないらしく、背骨を痛めてその場にくずおれるレッドエビテンダー。

 エタリアちゃんは自由になった槍をすかさず構えて、


「流石ね、レッドエビテンダー。今日のところはこれで勘弁してあげるわ!!」


 と、地面を蹴って堤防の上に、


「逃げるんかーい! 止めさしていけよ!!」


「通りすがりのカメラマンに助けられたとあっては、魔法少女の名折れ! 今日はこれで引いてあげる!」


「馬鹿なのか!? ワンエメちゃんの方がナンボかマシだわ!」


「ワンエメちゃん?」


「ワンダーエメラディア!」


「ふ、あんな偵察っ子と一緒にして欲しくないわ。初撃で倒せなくては意味がないの」


「ブボエハハハハハ! ふっかーつ! おのれただの通行人め。懲らしめてやビッチ!」


「やかましいわ、ガンガーイカ、セチャー、ウゾナ!!」


 なんだかもう、凄く面倒くさくなったので、腰のバックルに貼り付けたコウモリバッヂに手を触れて、俺は変身した!


「とーう!!」


 そして、秘面レイダーの必殺技よろしくレッドエビテンダーに飛び蹴りを喰らわす。

 どかっと、レッドエビテンダーの腰に深々と飛び蹴りが炸裂し、


「ブボエ!? はあああああっ!!」


 腰が横にくの字に折れ曲がり、なんと真っ二つに折れて内臓が飛び散りやがった・・・。


「「「ぎゃー、キモーい!」」」


 驚いた子供達が一目散に逃げていく。

 そして、やや遅れて、レッドエビテンダーが轟音を上げて爆発した!?

 怪人って、やられると爆発するの!?

 俺の最期も爆死!?

 えええ、っと、ドン引きしてその爆発を眺めていると、エタリアちゃん、槍の切先をこっちに向けて宣言しやがりました。


「何という! あなた、あの時のアーマークラスゼロ怪人!?」


 あ、やべ。

 とんでもな形で戦闘になるかと思いきや、エタリアちゃんは地面を蹴って大きく距離を開けて言った。


「いいわ。今度はあなたを打ち負かせてあげる。次の機会に!!」


「次なのかよ!?」


「次にあったら、覚えておきなさい! あなたのそんなヘナチョコキック、軽く受け止めてあげるわ!?」


「よくわかんないけどお前はドエムか!?」


「さらば!!」


 ぴょーん、と、宙に飛び、エタリアちゃんは民家の影に姿を消した。

 えーっと・・・。

 もう、何を突っ込んだものかわからないが。

 魔法少女・・・大丈夫か?

 というか、何しに現れたのか、もう、全然わかりません。

 良い子のみなさん、変態な怪人もそうだけど、変態な魔法少女にも関わっちゃダメですよ。絶対。怪人のお兄さんとの約束だ。





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