第5-3 エリカ

日曜日、バイト先に向かう途中にだし巻玉子の缶詰を買った。

財布とスマホしか入っていなボディバッグに缶詰を入れた。

つまらない事を考えるくらいなら、とっとと買って食べた方がいいと思ったからだ。


「お早うございます」

「おう、おはよう。今日も早いな」

店長の明るい声を聞くと、やっと気分が仕事モードに切り替わった。

缶詰の入ったボディバッグをロッカーに放り込み、ツナギに着替えてスタッフルームから出た。見渡すと、いつもの場所に窓拭き用のダスター(雑巾)がない。

「店長、ダスターは中ですか?」

「おう、勝手口に積んであるから取りに行ってくれ」

「はい」

僕の働いているガソリンスタンドはピットの隣に小さな出入り口がある。

そのドアのの向こうは店長の自宅だ。このドアの向こうに入る時、いつも別世界に繋がっているみたいだと思う。

コンクリートで固められたガススタから一転して土と緑の匂いがする静かな民家の庭に入る。すると、まずは松の木が迎えてくれる。初めて入った時は立派な松の枝にぶつかった。

今朝はちゃんと松の枝を交わして進むと勝手口が見えてくる。右手にダスター専用のパラソルハンガーが2台置いてある。

勝手口の横には換気扇がついていて、焼き魚の匂いが漂っている。

僕はパラソルハンガーの傍に置かれた大きなカゴにダスターを放り込む。


「おはよう」恵里香の声がした。

見ると膝上のミニワンピースにサンダルを履いた・・・・


「え?」


「え?って、何?」


本当に誰だか分からなかったけれど、この声は・・・恵里香だ!

いつもは僕と同じツナギを着てスタンドのロゴの入ったキャップを被っている恵里香は真っすぐの長い黒髪で、、、スカートから伸びた足は白くて長い。

そして、か、可愛い。


「ああ、おはよう。誰かわからなかったよ。髪、長いんだね」

「はぁ??」 恵梨香が困った顔をした。


僕、変なコト・・・言った?


「あ、誰か分かんなかったよ」

「・・・・。」

「あ、えーーっと、サンダル可愛いよ」


「なっ、」

恵里香はぷいと背中を向けて行ってしまった。



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恋とか君とか、あの子とか 星島 雪之助 @hosijima

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