第7話 幕間 その1

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「めでたしめでたし」


 お決まりの言葉で締められる。

 つい聞き入りすぎて、入れてもらった紅茶はすっかり冷めてしまった。


 ……でもこれはめでたしめでたしでいいのだろうか。

 実際、少女は自殺を辞めるとは一言も言っていないのだ。

 もしかしたら最後に言った言葉はそういう類のものという可能性もある。


「もう!貴方はミステリーで謎が全部解けないとスッキリしないタイプの人ですか?

謎が残っているからこそ面白いのに!」


 ぷんぷん!と擬音が聞こえるような雰囲気で言われる。

 彼女は物語を紡ぐ時はお淑やかだが、それ以外では陽気な人のようだ。


 それはともかく、確かに言われた通りのタイプだがそういう問題ではない、と抗議した。


「うーん、めでたしめでたし、は一種の常套句ですからね

それにほら、浦島太郎ってあるじゃないですか

あれって最後玉手箱でお爺さんになってしまうけどめでたしで締めてるんですよ

一説では物語が終わった!めでたい!みたいな使われ方もするんですって」


 ふむふむ、と言いつつやはり納得はいかない。


「むむ……頑固者ですね……

なら、これならどうですか!

私はこの物語、ハッピーエンドだと思っています

だって未来への期待に満ちてるじゃないですか!!

だからめでたしめでたしです!」


 うん、それなら納得できる。

 結局のところ変に理屈っぽく言うより私は主観の話がしたかっただけなのかもしれない。


「ふふっ、物語っていうのは受け取り方次第なところがありますからね

お客さんなかなか通ですね〜!」


 談笑しながらふと時計を見る。

 つい長居しすぎてしまったようだ。

 冷めた紅茶をぐっと飲み干し、お代を手渡す。


「ありがとうございました!

またお越しくださいね!」


 また来ます、と言って物語屋を後にする。



 路地裏から抜けた時に浴びた夕日はやけに眩しかった。

 

 

 

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