第6話 自殺少女 エピローグ

 ここはどこだろう。

 重い瞼を持ち上げると、視界いっぱいに白が映る。


 ……本当に天国にでも来てしまったのだろうか。

 一瞬そう思ったが、辺りを見渡してここが病院の中だと理解した。


「そっか、私死ねなかったんだ」


 ほっとしたような声が出る。

 ……確かにあの時の私は生きたいわけではなかったけれども、死にたくはなかった。


「お前……目、覚ましたのか!?」


 ふと、扉の方から声が聞こえる。


「どうして……ここに?」

 

 そこには死ぬ間際に思い出したアイツがいた。

 彼は急いでベッドサイドへ駆け寄り、言葉を紡ぐ。


「だってお前……火事で病院に運ばれた人もう皆退院したってのに……お前だけ1週間も寝たまんまで……」


「1週間も……いやそうじゃなくって

なんで縁もゆかりも無い私の見舞いなんて来てるの……」


 私がそう言うと、きょとんとした顔で答える。


「縁ならあるだろ?

1度でも話したらそれは立派な縁だって!」


 当たり前のことのように言う彼に、つい笑いを漏らしてしまう。


「ふっ、ふふふっ、アンタ馬鹿みたい……ふふっ」


「なっ、そんなに笑うことないだろ!」


「正真正銘の馬鹿よ!

とっとと見捨てれば良かったのに!」


「それは……」


 一呼吸置いて告げる。


「うん、実を言うと駅で会った時からお前が気になって気になって仕方がなかったから」


 そう、真面目な顔で。


「は?ってうえぇ……?

なにそれ私のこと好きってこと?」


 拍子抜けして変な声が出てしまう。

 顔は赤くなっていないだろうか、鏡がないのがもどかしい。


「好き……?うーんそれはちょっとよく分からないけど」


「……ば、ばっかじゃないの!!最低!なんか損した!!」


「損って何が!?」


 布団の中に潜り込み、戸惑う彼を視界からシャットアウトする。

 ……でも、なんか分かる気がする。

 なんだかこの人は好きとか嫌いとかそういうの気にせず、誰にでもこういう風に接してくれそうな人だ。


「……ねえ」


 布団から少し顔を出して声を掛ける。


「どうした?」


「私ね、死にたくて死にたくて仕方なかった

でもアンタは何度も止めたし、なんか見舞いまで来てるじゃない

だから……」


 一呼吸置いて、いたずらっぽく言ってやる。


「……生かそうとするならさ、責任取ってよ」


「責任って?」


 呆けた顔の彼に寄り、その耳にそっと告げる。



「───────」



 この世なんて地獄だけれど、もしかしたら───


 コイツなら私を生かして殺してくれるかもしれない。


 うん、そういうのも悪くないかも。



 彼の表情を見ながら、私はそう思った。



 

 

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