第5話 自殺少女 その4

 ───パチパチと音が聞こえる。

 息が苦しい、それとなんだか熱い。


 微睡みから覚醒する。

 眠たい目を擦り、辺りを見渡す。


 海だ。


 私は今、炎の海の中にいる。


「なに……これ……?」


 微かに外で騒ぎの声が聞こえる。

 ああ、今火事が起きているんだな、と納得した。


「……これでやっと死ねる」


 そう言った声は、有り得ないくらい震えていた。


 とても死にたくて仕方なかった筈なのに。

 死ぬのなんて何も怖くなかったのに。


 自ら選択する死と、突然襲ってくる死の違いなのか。

 それとも、時間が経って決意が揺らいでしまったのか。

 ふと脳裏に幾度と私の死を阻止した男の顔が浮かぶ。


「誰かが死ぬのを見たくない……ね」


 ……馬鹿馬鹿しい。

 アイツの言葉も、今日会ったばかりの他人が助けに来てくれたりしないか少し期待してしまう私も。


 ……息ができなくなってきた。

 これで本当に日常地獄とはさよならなんだな、と実感が湧いてきた。

 そう考えると揺らいでいた心が落ち着くような気がしてくる。


 もう、眠ろう。

 自己評価だけれども、私は結構頑張った方だと思う。


「……つか、れたなぁ…………」


 さようなら、私。



 ───意識を手放す瞬間に、誰かの声が聞こえたような気がした。


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