【十七文字のポエム】落語風

紫 李鳥

第1話

 



 梅雨が大幅に伸びちまって、暑っちい、暑っちい、って嘆いた夏はどこへやら。あっという間に、もう秋だ。


 やっぱ、なんてったって秋は魅力的だ。


 なー? 食欲の秋に、スポーツの秋。秋刀魚さんまは、もう食ったか?


 不漁のせいで高くて買えねぇから、食いたくても食えねぇだと?


 同感だ。団扇でパタパタしながら七輪で焼く、あの秋の風物詩が見られないのは寂しいよなぁ。


 運動会はどうだった? ビリだったか?


 昨今は、徒競走がねぇんだって? あのかけっここそが運動会の醍醐味だいごみじゃねぇか。


 一等賞を狙って全速力で走る。それこそが子どもの闘争心を育むのに役立つと思うんだがな。


 ま、ものの見方、考え方は人それぞれだ。深入りはやめとくよ。


 それから、芸術の秋に、読書の秋だ。


 絵は描いてっか? 写生の一つもしろ。


 本は読んでっか? マンガばっか読んでっと頭がパッパラピーになるぞー。


 〈灯火親しむべし〉


 なんて、いい文句があるじゃねえか。


 格好の季節だ、本をいっぺぇ読みなって意味だ。


 えー? 読書はスマホでしてるって?


 スマホもいいが、紙もなかなか味があるぜ。


紙魚しみ”なんて、乙な日本語もあるじゃねぇか。


 紙を食う虫のことだ。


 なー? なかなかいいもんだろ?


 スマホにはそんな乙なもんはねえだろ?


 えー? 乙はねえが、丙はあるって?


 なんでい、そりゃ?


 読み終わった後に、「へー」って納得するって? ……単なるダジャレじゃねえか。


 日本人は幸せもんだ。なぁ、このわび・さびは、ストレート好きな外人さんには伝わらねぇだろうな。


〈目病み女に風邪引き男〉なんて、粋なことわざがあるが、外人さんに直訳したら、「Oh no! ダイジョーブでしゅか? オダイジに~」って、同情されんのがオチだ。


 えー? こりゃあ、江戸時代の美意識を言った文句だ。


 なー、目を病んでる女は、その潤んだ目がなまめかしく見え、風邪を引いてる男は、喉に白い布を巻いた様子が小粋に見えるてぇ意味だ。


 なかなかのもんだろ? 日本語ってぇのは、奥深いやなぁ。


 おっとー、制限時間が迫ってらぁ。本題の方が短くなっちまったぜ。やべえ、やべえ。


 秋を詠んだ句も数多あまたあるが、中でも有名なのが、


 【柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺】(正岡子規)


 【菊の香や奈良には古き仏達】(松尾芭蕉)


 【秋深き隣は何をする人ぞ】(松尾芭蕉)


 なんてな。なかなか味わい深いだろ?


 えー? 俳句はちんぷんかんぷんで興味ねぇって?


 ま、若いうちから俳句に親しんでたら逆にキモいやな。


 若いうちはポエムでいいさ。もうちっと大人になったら、十七文字のポエムにも興味を持つようになるさ。


 人を好きになったり、失恋したり、突然、季節の草花を愛でたくなったり、ぼーっと空を見上げるようになったら、自然と詠むようになるもんよ。


 ここで一つ、おいらの句を披露すっか。


 【木洩れ日こもれびしおりにしたる秋の午後】


 どうだ、いいだろ? え? いまいちピンと来ねぇって? じゃ、恋をするまでの宿題だ。


 家ん中でケータイ読書ばっかしてねぇで、小さな秋を見つけに散歩でもしたらどうだい。


 公園のベンチで読書してたら、もしかして恋が生まれて、十七文字のポエムが閃くかも知れねぇぜ。


 え? “落語風”なら、最後にオチがあるだろうって?


 オチは言わねぇでも、季節柄、落ち葉の舞い散る頃じゃねぇか。もう、オチてるよ。


 幕もそろそろ、オチるぜ。



※語り:秋風亭流暢しゅうふうていりゅうちょう(架空の落語家)






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 ■■■■幕■■■■

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