そして、出立へ
「それはさせられないな」
その時、背後の壁が打ち砕かれ、何者かが侵入して言い放つ。
その余波で、若い男の方は壁に打ち付けられて気絶してしまった。
「お前は何者じゃ」
「山中深明……と名乗っても、聞き覚えはないようだな。雷人の間ではそこそこ名が売れているようなのだが。」
怨寺博士は、怪訝な顔をしていたものの、すぐに笑みを浮かべる
「まあよい、サンプルが一つ増えるだけの事じゃ。妻と息子を殺したお前ら雷人ども、その体を調べて、仇を討つための材料としてやろう。」
怨寺博士が、鎧の化け物に命令を下そうとしたまさにその時
「すまないが、我々をひとくくりにされても困る。その恨みは、貴方の妻と息子を殺した当人にぶつけてくれ。」
自らの頭上で山中の声が聞こえたかと思うと、鎧の化け物二匹が、糸の切れた操り人形のように倒れる。
「まま、まさか、球電砲を二発同時じゃと!?馬鹿な、あの二体は準備に時間がかかっておったはず!!」
そう、深明は怨寺博士の肩を足場にして高さを稼ぎ、瞬時に球電砲を二つ作り出してガラス部分にぶつけて、鎧の化け物二体を瞬殺したのだ。
「あの二人とは年季が違う、という事だ。」
それだけ言うと、深明は怨寺博士の頭に右手を置いて、電気を流す事で気絶させた。
「先生!?」
二人が、研究所内部に走り込んできた。
「こっそり見ていたんだが、まだ二人には荷が重いと思って介入させて貰ったんだ。このまま立ち去る予定だったんだがね。」
「それじゃあ、試験は……」
権が、残念そうに落ち込む中、深明は宣言する。
「いや、合格だ。今回は、相手が悪かったし、なにより二人にはまだ経験が足りてない、その中でこれだけの戦果を挙げられたなら上々だよ。」
そういって、深明は二人の頭を撫でる
「実際の所、知識面と技術面で二人に教えられることはもうない、と思ってるんだ。後は経験さえ身につけば、二人はどんな困難だって打ち破れるさ。・・・・・・・今回みたいな無茶をするのは、これっきりにしてほしいがね。」
正一の応急手当てを素早く済ませると、倒れている怨寺と若い男を肩に乗せて、背中を向ける。
「その傷が治ったなら、いつでも出発しなさい。その旅が、良い終わりを迎えられる事を、私は祈っているよ。」
そういって、自分が開けた穴から飛び出していく深明
二人は、自分達が来た道を引き返す。
「なあ、あの鎧より強い奴らと出会うと思うか?」
「当然いると思うよ、だって、あの二匹だって倒したのは先生じゃん?先生レベルの人だって、他にもいるだろうしね。」
正一が、そう返す。
「だったらさ、もっと強くならないとな。正ちゃんに今日みたいな無茶をさせなくても済む様に。」
「それは、こっちの台詞だよ。俺がもっと強ければ、権ちゃんの負担を減らせたんだから」
彼らは、各々決意を胸に、新たな道を辿り始める。
権の、両親と自分の本当の名前を探し求める旅は、ここからこうして始まったのだ……
nameless hero 牛☆大権現 @gyustar1997
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