第30話 天馬百合争奪戦
「――さあ、始まりました『
頭の中にもやがかかったようにな気分で、俺はそのアナウンスを聞いていた。
気づいたら、俺は闘技場に立っていた。
状況がわからない。天馬百合争奪戦ってなんだ?
「こちらが優勝賞品の天馬百合です!」
放送席らしいテーブルの隣に巨大な鳥かご、その中に閉じ込められた店長――天馬百合。
「コラーッ! 出せーッ! 女神をモノ扱いとは何事だーッ!」
「て、店長!?」
店長は鳥かごの
「これで優勝すれば店長さんを合法的に手に入れられるわけだ?」
「腕が鳴るぜ……」
イービルとクラウドがポキポキと手の骨を鳴らす。どう考えても合法ではないと思う。
「フフ、弟に天馬さんは渡せませんね」
「ルナールさん!? え、アンタ乙姫ちゃんは!?」
「それはそれ、私が王位についたらハーレムでも作ろうかと思いましてね」
ルナールさんの言葉に、俺は衝撃を受ける。イービルよりはマトモな吸血鬼だと思っていたのに。
「今回ばかりはうちも本気出したるで~。百合ちゃんは誰にも渡さへん」
「
「うちな、実は親友である以上に百合ちゃんが女として好きやねん……」
「嘘でしょ……」
幽子さんまで妙なことを言い出して俺は絶句する。なにこれ悪夢?
「天馬は誰にも渡さねえ……」
「百合様は私のもの……」
「ブモォ……」
俺が今まで出会ってきたあらゆる登場人物たちがみんな優勝賞品――天馬百合を狙って目を光らせている。
闘技場は大混雑であった。
「ルールは簡単! ステージの上から敵を落とすだけのバトルロイヤル! 落ちたらサメの
アナウンスはさらっと恐ろしいことを言う。
いつの間にか、闘技場のバトルステージは円形にせり上がり、ステージの周りは水で満たされ、サメがあたりを泳いでいた。
妖怪が果たしてサメ程度に
「それでは、バトルスタート!」
「先手必勝! 全員死ねェ!」
「ギャーッ!」
斬鬼以外は空を飛べる妖怪以外は大多数がボトボトと水に落ちる。
俺は飛んでいく
しかしなんだかさっきから妙な感じだ。頭にもやがかかったようにふわふわするし、思ったように身体が動かせない。
「あの混血妖怪やばいぞ! あいつから先に潰せ!」
妖怪たちが一斉に斬鬼に襲いかかる。
「捕まえましたよ~斬鬼さん~」
「チッ、
妖力を失った斬鬼は他の妖怪に突き飛ばされて綿麻ごと落下した。
そして、激闘の末。
「結局残ったのは僕たちだけみたいだね」
「いけすかねえ吸血鬼ども、駆除してやらァ!」
俺とイービル、そしてクラウドの三つ巴。正直イービルが生き残っているのは予想外だった。
「死ね蚊野郎!」
しかしクラウドが一蹴し、イービルはあっさり吹っ飛ばされた。まあ予想はしてた。
「残るはテメェだけだな、半妖野郎!」
クラウドは血気盛んな様子で俺を睨みつける。
「おっと、私達のことを忘れていないか?」
「!?」
突然、俺とクラウドは身動きが取れなくなる。
――影縛りだ。
「鈴!? なんで……」
「ごめんね、虎吉お兄ちゃん。私は百合お姉ちゃんを誰にも渡したくないの」
「鈴の願いを聞き届けるため、私も力を貸そう」
なんと、隠棲していたはずの
「さあ、このまま水に落ちて?」
「う……」
鈴に操られ、俺はステージの端まで歩かされる。クラウドはすでに黒天に落とされていた。
あと一歩でサメの餌食になる、そんなときだった。
「虎吉! しっかりしろ! これは夢だ!」
突然鳥かごの中の店長がそう叫んだ。
「夢……?」
「そうだ、お前は夢の中にいる。自分が夢を見ていることを強く自覚して、自分の好きなようにイメージしろ。夢だとさえ分かっていれば、お前は夢を操れる!」
「チッ、余計な真似を!」
放送席に座っていた見知らぬ女が鳥かごを蹴る。
「店長を蹴るんじゃねえ!」
俺は空を飛ぶイメージをする。鈴の影縛りを振り切って、俺の身体は軽くなり、自在に飛び回る。楽しい気分だった。
「――伸びろ、如意棒――!」
如意棒は長く長く伸びて、フェンシングのように見知らぬ女を突いた。
「ギャァァァァッ!」
女は影が溶けるように霧散した――。
そこで俺は目を覚ました。
どうやら、
「いい昼寝はできたかな?」
「あれ……? 俺……」
俺の傍らには、店長が座っていた。
「君は夢魔にもてあそばれていたんだよ。夢見の鏡で様子を見ていたが、随分楽しい夢を見ていたようだな?」
店長はプププと笑いをこらえている様子だった。
「店長が助けてくれたんですね」
「流石に見ていられなくてな」
「それで……アレは、結局誰が優勝したんでしょうか?」
「さあな。クラウドも落ちていたし、生き残ったのは鈴と君かな?」
「店長は鈴と付き合いたいですか?」
「バカ言うな、あんな小さな女の子に手なんか出せるか」
「……店長は、黒猫さんのこと、まだ忘れられませんか?」
「どうした? 今日はやけにグイグイ来るな……」
俺の質問攻めに、店長はわずかにたじろいだようだった。
「もしよければ、俺と――」
〈完〉
アヤカシ堂の聖なる魔女 永久保セツナ @0922
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