第5話 襲撃

 慎也が学園に編入して数日が経った。

 ここ数日、慎也は初日に模擬戦をした三人とよく一緒に行動するようになっていた。

 慎也と沙由里は特に一緒に行動しようとしてないが、裕也と焔の二人に昼食に誘われたり、休み時間に話しかけられたりと積極的に話しかけてきた。


「慎也、沙由里、昼食べに行こうぜ」


 焔は裕也と一緒に慎也と沙由里の席に近づいて来た。

 焔の声を聞いて沙由里は、明らかに面倒そうな顔をしていた。


「そんなあからさまな顔するなよ」

「いえ、たまには一人で落ち着いて食べたいなと思ってね」


 沙由里の顔にジト目で話しかけた慎也に、ため息をついて答えた。


「そんなこと言っていつも一緒に食べてるじゃないか」

「別に一緒に食べるのが嫌ってわけじゃないからね。ただ、教室で大声で誘われるのがちょっとね」

「それはわかる」


 沙由里の言葉に慎也も同意して頷いていると、大声で誘った焔が文句を言いたげな顔で近づいて来た。


「それは俺が悪いって言いたいのか」

「そうよ」

「そうだ」

「おい!」


 同時に賛同する二人に焔は大きな声で怒鳴った。


「焔君、からかわれているだけだと思いますよ」

「そうなのか?」

「当たり前じゃない」

「当たり前だろ」

「お前ら俺を何だと思ってるんだ?」

「いじりやすい人」

「いじりやすい奴」

「ふざけるな!」


 また、同時に答える二人に焔は教室中に響く大きさで怒鳴った。

 そんな焔の隣で裕也は「仲いいですね」と言いながら呆れていた。


「じゃあ、移動するか」

「そうね」

「そうですね」


 席から立ちながら言う慎也の言葉に沙由里と裕也は賛同して移動を始めた。

 三人に置いて行かれ怒鳴りながら付いて来る焔に三人は「うるさい」と言いながら、屋上に向かった。

 そんな四人を見て教室にいた生徒たちは、焔に憐みの視線を送った。

 四人は教室を出て屋上に移動し、屋上に置いてあるベンチに慎也と沙由里、焔と裕也の二人に分かれて二つのベンチに座った。


「焔は相変わらず、パンだけなんだな」

「まあ、弁当作るの手間だしな」

「少しは作れるようにならないと、後々苦労するぞ」

「そうですよ。たまには料理してみたらどうですか」

「俺もお前らみたいに料理出来たらいいんだがな」


 焔は慎也と裕也の弁当を見ながら、感心したように言った。


「これくらい普通だろ」

「いえ、慎也君の料理スキルはすごいと思いますよ」

「そうか?」

「ええ、僕のように簡単な料理しか作れないわけじゃなさそうですし」

「難しい料理ってなんだ」

「高級レストランの料理とかじゃない」


 先ほどまで黙って食べていた沙由里が突然話に入って来た。


「珍しいな。お前が自分から話に入って来るなんて」

「まあね。慎也の料理がうまいのは私も言いたいことがあったから」

「というと?」

「男子にこんな料理作られたら女子の立つ瀬がないのよ」

「……そうか?」

「そうよ」


 沙由里の言葉に慎也が首を傾げて問いかけると、断言するように沙由里が強めの声で返した。


「けど、俺より美味い料理作れる女子いるぞ」

「多分、その人が特別なだけだよ」

「裕也の言う通りよ」

「慎也ってそんなに料理上手いのか?」


 裕也と沙由里の言葉に焔は首を傾げて問いかけた。


「慎也の料理を一口貰えばわかりますよ」

「貰っていいか?」

「ああ、いいぞ」


 焔の問いかけに慎也は弁当を持った手を焔の方に伸ばした。

 焔は弁当に入った卵焼きを一つ手で掴み食べた。

 卵焼きを食べた瞬間に、目を見開いて驚いた。


「なんだよこれ、滅茶苦茶美味いぞ」

「だから言ったでしょう」

「てか、お前ら慎也の料理食べたことないのに何で美味いってわかったんだ?」

「見た目からして明らかに美味しそうですから」

「さっきの卵焼きも黄色一色でものすごく綺麗だったでしょ。あんな綺麗に焼くの難しいのよ」

「そうなのか。というか卵焼きってここまで美味しくなるものなのか?」

「卵焼き一つで大げさな」


 三人の卵焼き一つを大げさに語る態度に呆れた顔で慎也が言うと焔は大きな声で語り始めた。


「いや、これはまじですごいって。こんな卵焼き今まで食べたことないぞ」

「分かったが、お前いちいち声大きいんだよ。もう少し小さくしゃべれないのか?」

「俺、そんなに声大きいか?」

「はい」

「ええ」


 慎也以外の二人に問いかけた焔に頷いて二人は返した。


「そんなにか?」

「大きいですよ。もう少し小さくてもいいのにと思うくらいには」

「もう少しどころかもっと小さくていいわ」

「だな」

「……分かった。これから出来るだけ気を付ける」


 三人の言葉に少し小さめな声で焔は答えた。


「それくらいの声でこれから話してくれ」

「そうね。それくらいがいいわ」

「分かった」


 慎也と沙由里の言葉に焔が頷いて返している横で裕也が慎也と沙由里に話しかけた。


「先ほども思いましたが、慎也君と紀藤さん仲とてもいいですよね」

「そうか。そうでもないと思うが」

「私もそんなに仲いいとは思わないけど」

「私たちから見ると二人ともとても息合っていて仲良さそうですよ」

「確かに、教室でも全く同じタイミングで同じようなこと言ってたしな」

「そうか?」

「そう?」


 慎也と沙由里は同時に首を傾げたことで、裕也と焔は呆れた顔をした。


「そういうところだよ」


 焔の言葉にお互いに向かいあって首を傾げあう姿に焔たちはため息をついた。

 いつも通り雑談をしながら昼食を食べた慎也たちが教室に戻り午後の授業を受けて放課後になった。

 放課後になると、また焔と裕也が慎也と沙由里の机の近くに近づいて来た。


「二人はこれから何か用事あるか?」

「特にないが」

「なら、少し寄り道して帰りませんか?」


 慎也は沙由里の方を見て答えるのを待った。


「私は別にいいわよ」

「俺もいいぞ」

「じゃあ、行くか」


 四人は雑談しながら校門に向かって歩いていると、校舎の出口と校門の間を歩いている時、沙由里の目の前にいきなり槍が現れた。

 槍はあと少しで沙由里に刺さるほど至近距離に現れた。

 裕也と焔は顔だけ沙由里たちの方を向けていたので槍が現れたことにすぐに気づいたが、動くことが出来なかった。

 沙由里は槍を認識したが、対処できないことを悟り死を覚悟したが、槍は現れた位置からまるで動かなかった。

 槍を掴んで目を見開き固まっている慎也を見たことで、三人は慎也が槍を止めたのだと理解したが、慎也が驚いている理由が分からなかった。


「慎也君、どうかしましたか?」

「この、槍は……」


 裕也の問いに答えず、槍を見て小さく呟く慎也に三人は驚いていた。


「慎也がここまで驚くなんて」

「あの槍何か特別なものなのか?」


 普段全くあまり驚かない慎也が驚いて動きを止めていることに三人は小さな声で相談を始めたが、上から女性の綺麗な声が聞こえて四人とも顔を上げた。


「久しぶりね、慎也」


 上を向いた慎也は、声をかけた女性を見て先ほどよりさらに驚いた顔をした。

 女性は外見的な年齢は慎也や沙由里達と同じくらいで、膝裏辺りまである長く絹のような銀髪、宝石のようにきれいな碧い瞳、異様なまでに整った美しさに可愛らしさも共存した顔、そして透き通る雪のように白い肌の老若男女問わずすべての人が見惚れる美少女がゆっくり地面に降りてきた。

 慎也以外の三人は美少女を警戒して睨みながら様子をうかがった。


「あいつ、どっかの学園の生徒か?」

「分かりません」

「私が知る限り、あんな制服の学園はないわ」


 美少女の服装は白いシャツを着て黒い肘の少し辺りまでの短いマントを羽織り、黒いチェックの入った白いスカートを穿いて、黒いブーツを履いている。

 その服装は知らない人が見れば、四千年前の制服のように見える変わった服装だ。


「慎也、久しぶりに会ったのに何も言うことないの?」

「どうして……お前が……」

「ん~いろいろあったのよ」


 驚きながらも問いかけた慎也に、美少女は顎に右手の人差し指を当ててはぐらかすように答えた。

 そんな仕草さえも可愛く見える美少女の態度に慎也は、怒鳴るように大きな声で問いかけた。


「真面目に答えろ、アヴローラ!なぜ、お前が生きている!」

「ゆっくり話したいけど、今はその子を攫わないといけないから、また今度ね」


 顎に当てていた人差し指を沙由里に向けて、悪戯っぽく笑うアヴローラに慎也はさらに怒鳴る。


「ふざけるな!沙由里を攫う理由はどうでもいい。俺は、アヴローラが生きている理由が知りたいんだ!」

「慎也の気持ちは嬉しいけど、ごめん。少しの間、拘束させてもらうわ」


 アヴローラが指を鳴らすと、慎也が持っている先ほど沙由里の目の前に現れた槍が突然光の粒子になり、爆発的に増えた光の粒子が慎也の体を包みこみ慎也と一緒に消えた。

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All for one ~すべては彼女のために~ 水龍園白夜 @byakuya132

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