第4話 放課後の理事長室
模擬戦の授業が終わり、教室に帰って少しすると担任の教師が来てホームルームをして慎也の学校生活一日目が終わった。
慎也はホームルームが終わり放課後になると、荷物を持って教室をすぐに出て理事長室に向かって移動を始めた。
理事長室に向かっている途中の廊下で後ろから沙由里が走って追いかけてきた。
「どうしたんだ?」
「少し話したいことがあったから」
「昼休みに全部話したんじゃないのか?」
「そうだけど、襲撃犯の能力とか話してなかったから」
「それなら別に問題ない。これから桔梗と話に行くところだ」
「そうなんだ。じゃあ、私も一応行こうかな」
「構わないが、機密に関わること話す時はちゃんと帰れよ」
「はーい」
沙由里は慎也の言葉に適当は返事を返して慎也の前を歩いて理事長室に向かい始めた。
そんな沙由里の後ろ姿を見ながら慎也はため息をついて同じように理事長室に向かって再び歩き始めた。
理事長室に着くと沙由里はノックをしようとしたが、慎也が勝ってに扉を開けて中に入った。
「話を聞きに来たぞ」
「ノックくらいしなさいよ」
桔梗はノックもせずに入って来た慎也に呆れながら文句を言った。しかし、慎也は全く気にした様子もなく部屋に設置されているソファーに座った。
「失礼します」
沙由里は慎也が開けた入口で一礼してから中に入った。そして慎也の座っているソファーまで来ると桔梗にもう一度一礼して慎也の隣に座った。
「慎也も沙由里ちゃんを見習いなさいよ。このくらい礼儀正しく出来ないの?」
「礼儀正しくしてきたことが無いんでな」
「はあ、それで聞きたいことっていうのは?」
慎也の適当な言葉に呆れてため息をつき頭を抑えながら質問をした。
「沙由里を襲った相手についてだ」
「そういえば、詳しくは話してなかったわね」
桔梗は慎也と沙由里が座っているソファーと向かい合うように置かれていいるソファーに移動して座った。
「それで、慎也は今どこまでわかっているの?」
「今回の犯人が邪神や悪魔崇拝組織の中にいる可能性がある人くらいだな」
「どうしてそう思うの?」
桔梗は慎也の言葉に目を少し細めて聞き返した。
桔梗の反応を無視して慎也は何でもないように返した。
「お前が沙由里や周りを気にして戦ったとはいえ苦戦したって聞いたかな。いくら周りを気にしているとはいえ、SSSランクとSSランクの二人を相手に五分五分の戦いが出来るとなると考えられる相手は限られる」
慎也の考えを聞いて桔梗は目を閉じて少し考えた後、目を開けて慎也の考えを否定した。
「残念ながら、それは無いわ」
「?どうしてだ?」
慎也が首を傾げて聞き返すと、桔梗は説明し始めた。
「確かに、邪神や悪魔と契約すれば私たちレベルの力を得ることも可能だけど、契約をした人間は代償を払っているから身体的異常が必ずあるはずだから」
「襲撃犯にはそれが無かったのか?見えないところにあるって可能性はないのか?」
「それは無いわね。あれだけの力を得ていて代償が見えないなんて考えられないわ」
桔梗の言葉に慎也は顎に手を当てて考えながら桔梗に問いかけた。
「そんなに強い相手だったのか?」
「ええ、彼女は相当強かったわ。あの時は様子見だったのか、私と沙由里ちゃん相手に遊んでるみたいだったから」
「!?」
桔梗の言葉に慎也は目を見開いて驚き、沙由里は何も言わずに黙って俯いてしまった。
慎也は顎から手を放してソファーに縋り、深く息を吐いてから桔梗の目を見て説明を求めた。
「詳しく話してくれ」
「その前にお茶を入れてくるわ」
「別に要らないんだが……」
「私がいるのよ。あんたの分はついでよ」
「あっそ」
桔梗はソファーから立ち上がり、壁際に置いてあるポットに近づいてお茶を入れ始めた。
桔梗はお茶を入れたコップを二つのソファーの間に置いてある机の上に三人分置いた。
「それじゃあ、話しましょうか」
「さきほど、彼女と言っていたが、襲撃者は女だったのか?」
「ええ、おそらくね。フードを被っていたから顔は見てないけど、声と去り際にフードを外した時に綺麗な長い銀髪が見えたから」
「それだけで、女と判断したのか?」
「後は立ち振る舞いから見た結論かしら」
「理事長、あの戦いの途中でそんなこと考えてたんですか?」
理事長の言葉に尊敬の目を向けたが、慎也は呆れたような顔をした。
「はあ、くだらない。立ち振る舞いと外見と声を変えるなんて出来る奴はいくらでもいる。それで女と判断するのはどうなんだ」
「あくまでおそらくね。別に確定しているわけじゃないわ」
「そうか。能力に関して何かわかったことはあるか?」
慎也の問いに桔梗は戦っていた時のことを思い出して少し考えて話し始めた。
「能力に関しては何の確証も無いけど、大丈夫かしら?」
「構わない。どうしてそう考えたか説明してくれれば後は自分で考える」
「あんた知識は多いけど、あんまり頭はよくないでしょ」
「うるさい。お前たちみたいな天才とは違うんだ。あんまり根拠がないくせに答えを導き出すお前たちとはな」
慎也は呆れた目で桔梗を見て、声を徐々に小さくしながら呟いた。
「それじゃあ、私の考えを話すわね」
「早くしろ」
「はいはい、彼女の能力は空間に干渉する系の能力だと思うわ」
「空間干渉か、根拠は?」
慎也はまた顎に手を当てて考えながら、桔梗に聞き返した。
「私の魔術で物理的な攻撃が効いてなかったのよ。けど、空間系の座標を固定した攻撃は全部避けてたのよ」
「それを竜華に話したのか?」
「ええ、竜華には全部話したわ」
「なるほど、だから俺が呼ばれたわけか」
「普通の物理攻撃が通じないからね。けど、竜華に異名も調べてもらってるんだけど、全く成果が無いらしいわ」
「異名?」
慎也は初めて聞く情報に首を傾げて問いかけた。
「襲撃犯が去る前に名乗ってたのよ。【虚無の魔導士】ってね」
「!?」
襲撃犯の異名を聞いた途端に目を見開いて驚き立ち上がった。
「どうした、慎也!?もしかして、襲撃犯に心当たりがあるのか?」
「いや、そんなはずはないから気にしなくていい」
慎也の反応に驚いて聞き返した桔梗に慎也は左手で頭を抑えてソファーに座り直した。
「何か知っているなら話してくれない」
「すでに死んだ人間の話だから、気にするな」
「その人が生き返る可能性はないの?」
桔梗の質問に慎也は桔梗を睨みつけて返した。
「それはない。絶対にな」
「け、けど、邪神契約で生き返った人間はいるはずよ」
「あれは死体が動いているだけだ、だから時間が経てば体が腐るから維持も大変だ」
「つまり、死体でも動くなら可能性はあるんじゃ」
「あいつの死体は俺の能力『原初の闇』で作った棺桶に傷を治して入れた。時間や空間、あらゆる物から隔離されている棺桶だ。破壊も出来ないし、死体を取り出すことも不可能だ」
「あんたがそこまでするって何者なの?」
「気にするなって言ってるだろ」
桔梗はしばらく慎也の目を見つめたが、慎也は睨むだけで何も言わなかった。
桔梗は見つめあって慎也がどうしても喋らない思ったため、諦めてため息をついて話しを変えた。
「まあいいわ。それより、襲撃犯は魔術も使っていたわ」
「魔術か、武器は何か使っていなかったか?」
「何も使ってなかったわ。とういうより、遊んでいたから使ってなかっただけかもしれないわ」
「そんなに一方的だったのか?」
「ええ、向こうは試すようにいろんな攻撃をしてきたけど、私の攻撃はまるで効果がありませんでした」
慎也の問いに答えたのは、今まで黙っていた沙由里だった。
沙由里はとても悔しそうに膝の上で手を強く握り占めていた。
「能力の相性を考えろ、お前の能力は物理的には強いが、空間に干渉して物理攻撃を一切受け付けない相手にまともに戦って勝てるわけないだろ」
「けど、私のせいで理事長はかなり苦戦して……」
「そんなわけないだろ。桔梗が苦戦したのは、お前を守っているとかじゃなくて単純に相手の力が強かっただけだ」
「そうなんですか?」
沙由里は不安そうな目で桔梗を見ると、桔梗は泣いている子供を慰める母親のような優しい顔で頷いた。
「慎也の言う通りよ。あなたのせいで苦戦したわけじゃないわ」
「だから、お前は気にしなくていい」
「ありがとうございます」
沙由里はソファーから立ち上がり、慎也と桔梗に頭を下げた。
慎也は沙由里を横目で見て、桔梗に視線を戻して話し始めた。
その慎也の態度に、桔梗は呆れた顔を慎也に話した。
「あんた、もう少し沙由里ちゃんのこと気にかけてあげたら」
「俺にそんなことを求めるなよ」
「はあ、外見は悪くないのに、他人に興味を持たないからモテないのよね」
慎也の言葉に桔梗はため息をついて頬に手を当てながら呟いた。
「恋愛なんて興味がないから別に問題ない」
「はあ、あんたもいい歳なんだからそういうことに少しは興味持ったら?」
「五千歳を超えてる俺に言うか?」
「五千を超えてるからこそ、恋人の一人くらい作ったらって言ってるの」
「はあ、恋人ね。どうでもいいが、話それてるぞ」
「相変わらずね。まあ、話を戻しましょうか」
桔梗は慎也の言葉に小さく呟いて襲撃犯についての話に戻した。
「襲撃犯についてだけど、実際の戦闘は今日のあんたの模擬戦と似たような内容よ」
「というと?」
「向こうは試すような攻撃だけで、こっちの攻撃は一切効かないって状況よ」
「なるほど、分かった。遭遇したら本気で戦った方がいいな」
「本気はいいけど、被害は最小限にね」
「後処理は竜華たちがやるだろ」
「はあ、少しは後処理手伝いなさいよね」
「気が向いたらな」
ため息をついて言う桔梗に慎也は適当に返した。その慎也の返事に桔梗はまたため息をついた。
「他に聞きたいことは何かある?」
桔梗の質問に慎也は考えて首を横に振った。
「もうない。能力のこともある程度わかったからな」
「そう」
慎也の言葉を聞いて桔梗が終わりだと思い立ち上がろうとした時、慎也が口を開いた。
「ただ、聞いた話から異名がイメージ出来ないのが問題だな」
「!?そういえばそうね」
「魔導士と言うからには魔術と能力を合わせた魔法を使うのだろうが、さっきの話だと使っているとは思えないし、虚無と何の関係があるか分からない」
「確かに、じゃあ、本来の戦闘スタイルじゃなかったってこと?」
「かもな。もしくは俺たちの推測が間違っているかのどちらかだな」
「どちらにしろ大丈夫なの?」
「俺の能力の詳細を知ってる奴はいない。詳細を知っていても時間稼ぎが出来ればいいくらいだろうがな」
そういって慎也は立ち上がり、理事長室の出入り口に向かって歩き始めた。
「あんたのことは信頼してるけど、油断していると足元をすくわれるわよ」
「分かっている。遊びで手を抜いても、仕事で手を抜くことはない」
「なら、いいわ」
慎也は桔梗の言葉の途中で扉を開けて理事長室を出て行った。
「あの、理事長。今日の模擬戦、慎也は遊んでいたんですか?」
「間違いなくそうだろうね。慎也が本気なら能力を使うまでもなく三人とも瞬殺されている」
「!?確かに攻撃が効いた様子はなかったけど、そんなに強いんですか?」
「SSランクの力を持って生まれた君にとって自分より強い存在が珍しいのは分かるが、上には上がいるそれが常識だ。だから、気にしなくていい」
「それは、慎也にも当てはまる話ですか?」
「さあね」
桔梗は沙由里の言葉にはぐらかすように笑って返した。
「気が済んだなら、あなたも帰りなさい」
「分かりました」
沙由里は桔梗に言われた通りソファーから立ち上がり、出入り口の扉まで近づき一礼して退室した。
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