第3話 『究極の一』の力
慎也は一歩を踏み出し、沙由里たち三人に近づいた。
慎也が踏み出した瞬間、沙由里たちは一斉に攻撃を始めた。しかし、攻撃を放った直後に慎也の姿が三人の目の前から消えた。
「な!?」
「どこに行った?」
三人は周りを警戒しながら慎也を探し始めてすぐに裕也が見つけて声を出した。
「紀藤さん後ろ!」
「!?」
慎也は沙由里の後ろに回り込み右手で手刀を沙由里の首に撃ち込もうとしていた。
沙由里は肩越しに背後を見て慎也が攻撃してくるのを確認すると、体を光で包み球状にし防御態勢に入った。
慎也は防御態勢に入った沙由里に手刀を打ち込むと光の球体は吹き飛んでいき壁にぶつかった。
「思った以上に頑丈だな。防御を砕くつもりだったのに」
慎也が呟くように言うと、球体が光の粒なり霧散していき中で沙由里がつらそうに立っていた。
「なんて馬鹿力してんのよ。ガードの上からこの威力ってどうなの」
「それよりいいのか、早く動かないと追撃するぞ」
慎也がまた一歩踏み出そうとした時、目の前に炎の壁が現れ、背後からくないが飛んで来た。
背後から飛んで来たくないを振り返りながら右手で打ち落として背後にいる裕也と焔に向き直った。
「そっちこそ、俺たち二人を無視して紀藤を一人を狙ってると不意打ちでやられるぞ」
「紀藤さん、一人を狙っていると僕たちが勝ちますよ」
「へー、それは面白い。なら、ぜひともやってもらおうか」
慎也が二人の言葉に微笑みながら返し距離を詰めようとして違和感に気づき動きを止めて回りを確認した。
慎也の何かに気づいた様子を見て裕也は作戦が上手くいったことに微笑んだ。
「気づきましたか。けど、もう遅いですよ」
「これは、ワイヤーか?」
慎也の体の周りには目を凝らしてよく見ないと見えない細い糸が地面から天井に向かって複数本伸びていた。
「ええ、魔力で強化した特殊なワイヤーです。一本で数十トン程度の物をつるせる強度を誇っています」
慎也がワイヤーがどこから伸びているのか探すと、先ほど叩き落としたくないからいつの間にか天井に刺さっているくないに伸びていた。そして天井に刺さっているくないから裕也の手にすべてのワイヤーが伸びている。
「それでこのワイヤーで何がしたいんだ?」
「もちろん、あなたの動きを封じるんですよ」
「……はあ、まあいいか」
慎也は裕也の言葉を聞いた後少し何か言いたげな顔をしたが、ため息をついて小さく呟いた。
慎也の行動を不思議に思った裕也が警戒しながら問いかけた。
「どうかしたんですか?」
「いや、何でもない。続けようか」
裕也の問いを適当に流した慎也は動き出そうとした。
「な!?下手に動いたら体がワイヤーで体がズタズタに切り裂かれますよ!」
慎也の行動に裕也があわてて大声で忠告した。しかし、慎也は止まることはなくワイヤーに体が触れても前に進もうと少し力を入れた。
「ワイヤーは頑丈かもしれないが、固定しているのはただのくないだ。力を込めれば簡単に抜ける」
慎也は説明しながらさらに力を込めて踏み出したことで天井と床に刺さっていたくないは抜けワイヤーは慎也の体に数本かかり残りは地面に落ちた。
その光景を見て裕也は作戦が上手くいき微笑んだ。
「でしょうね」
「ん?」
慎也は裕也の言葉が分からず首を傾げて問いかけようとした時、慎也の体にかかっている数本のワイヤーが突如動き出し体に巻き付き始めた。ワイヤーは慎也の二の腕の付け根から手首辺りまでを胴体に固定するように巻き付いた。そして地面に落ちていた残りのワイヤーも慎也の両足に足首から膝上あたりまで巻き付き身動きを完全に封じた。
「これは!?」
「言いましたよね。あなたの身動きを封じると、ワイヤーで脅す気なんて最初からありませんでしたよ」
慎也は裕也の言葉に目を見開いて驚いた顔をした。
「俺が油断していることも計算済みか。思っていた以上に頭は回るようだ」
「あなたが油断しすぎなんですよ。おかげてこうも簡単に作戦が成功しました」
「確かに、格下とは言え馬鹿ではないんだったな」
「どうしますか?降参しますか?」
慎也は裕也の質問に目を瞑って考え始めた。
裕也の近くに焔が近づいてきた。
「やるじゃねえか、裕也」
「焔や紀藤さんみたいに玖条君に正面から挑むのは無理なので」
「よく言うぜ。俺とやりあえるくせによ」
「焔と戦う時いつも必死に作戦を練って戦ってるんですよ」
焔に肩を竦めて言った後、焔が慎也の方に視線を向けた。
「あいつ、まだ考えてるのか」
「そのようだね」
「今のうちに最大火力の技用意しておくか」
焔はそういうと右手を前に出して掌を上に向け、野球ボール程度の火球を作り出した。その火球に魔力を注いで熱量を上げて始めた。
「しかし、彼は何を考えているんでしょうか?」
「さあな」
焔が力を溜めながら裕也に答えた少し後に慎也が目を開けた。
慎也は力を溜め続けている焔を気にせずに、裕也たちに話しかけた。
「待たせて悪かったな」
「いえ、大丈夫です。それでどうしますか?」
「降参してもいいんだが、もう少し戦うことにした」
「そうですか、なら……」
裕也は慎也の言葉を聞くと握っているワイヤーに自身の能力である電気を流した。
慎也はワイヤーに流された電気をもろに食らったが、特に表情も変えずに立っていた。
「やっぱり、僕の攻撃もまるで効きませんか」
「安心しろ、裕也。ちょうど、溜め終わった」
焔の手の上には先ほどよりも強い光を放つ火球があった。
火球は焔の隣に立っているとはいえ、少し離れている裕也でさえあまりの熱量に少し後ずさった。
「これでもくたばりやがれ」
焔は慎也に高速で接近し、火球を慎也の胸のあたりに叩きつけた。
火球は慎也に叩きつけられると爆発的に大きくなり、慎也を飲み込みながら壁まで飛んで行った。
「流石に少しはダメージが入っただろ」
焔は少し肩で息をしながら慎也が飛んで行った方を見た。
「いやー、助かった」
焔の放った炎の中から慎也の声が聞こえてすぐに最初の炎の柱を吹き飛ばした時と同じように右腕で薙ぎ払っていた。
炎の中から出てきた慎也は、最初の時と同じように火傷も服の焦げ跡も無く裕也のワイヤーも無くなっていた。
「熱でワイヤーが溶けてくれたおかげて力を入れずに抜け出せた」
慎也の言葉にワイヤーのことを考えていなかった焔は頬を指で掻きながら裕也の方に申し訳なさそうな顔を向けた。
「悪い」
「はあ、やってしまった以上仕方ないでしょう。それに玖条君の言い分だと自力で脱出出来たようですしね」
「……そうだな。けど、流石にもう勝てる気がしないぞ」
「僕もです。降参しますか?」
先ほど慎也に言っていた言葉を焔に問いかけた。
焔は何も言わずに黙ったまま、考え始めた。
二人が降参するか考えている間、慎也は何も言わずに見守っていたが、二人とは違う方向から沙由里が叫んだ。
「私がいること忘れないでくれる」
二人と慎也が声がした方を向くと、両手を挙げて先ほどよりも大きな直径二メートル程度の光の球を支えていた。
「二人とも少しで良いから、そいつの動きを止めて」
「!?わ、わかった」
「了解です」
二人は突然の沙由里の言葉に少し戸惑ったが、すぐに慎也に向き直り各々攻撃を始めた。
慎也は沙由里の溜めた光の球を見て、警戒しながら焔と裕也の二人を相手にし始めた。
「あいつの攻撃を当てようにも、俺の動きをお前ら二人で止められるのか?」
「知るかそんなこと」
「勝てなくても動きを止めるくらいなら出来るかも知れませんしね」
慎也が二人の攻撃をいなしながら少しの間戦っていると、ずっと黙って見ていた九重の大きな声が聞こえた。
「紀藤、流石にそれはやりすぎだ!」
慎也は九重の声を聴いて、沙由里の方を確認すると光の球は先ほどよりもさらに大きくなり強い光を放ち始めていた。
「九重先生、こちら来ないと危ないですよ」
桔梗の九重を呼ぶ声を聴いて慎也はそちらに視線をやると桔梗の方に向けると、桔梗は生徒たちを集めて結界を張っていた。
「しかし、理事長!。紀藤の攻撃が直撃したら流石にまずいですよ!」
「慎也なら大丈夫ですから、それより九重先生の方が流れ弾が来た場合危険ですよ」
「しかし……」
「本当に慎也は大丈夫ですから、早く来てください」
「……分かりました」
九重は桔梗に説得されしぶしぶ桔梗に近づき結界の中に入った。
(これで大丈夫なら、本気でやっても大丈夫そうね)
沙由里は桔梗の言葉を聞いて何か安心したような顔をしてさらに力を溜め始めた。
(桔梗の奴、勝手なこと言いやがって、能力を使わないでやってるんだから流石に痛いんだぞ)
桔梗の勝手な言葉に慎也は少し面倒くさそうな顔をして沙由里の大きくなり続けている光の球を睨んだ。
(放たれる前に潰すか)
慎也は焔と裕也の二人の視界から一瞬で消えると沙由里の目の前に移動した。
「悪いが、その攻撃を撃たれるのは面倒だから潰させてもらうぞ」
慎也が沙由里に右手を伸ばして触れる少し前に沙由里の口角が少し上がった。
それを見た慎也は嵌められたことに気づいた。
先ほどまでとは違い予備動作無しで沙由里の上にあった光の球がいきなり慎也に光線を放ってきた。
慎也は光線を避けようと後ろに跳ぼうとしたが、接近した直後で回避が間に合わないと悟った慎也は右腕で顔を庇うのが精いっぱいだった。
光の球から放たれた光線は慎也を巻き込み訓練場の床を抉り、沙由里の正面の壁を突き破って訓練場の外に慎也を吹き飛ばした。
今までどんな攻撃でもちょっとした傷しかつかなかった訓練場が派手に壊れたことで生徒たちは慎也の心配をしながら見守った。
壁を突き破った辺りで光線は徐々に細くなり、光の球と一緒に消えていった。
光線が消えると沙由里は肩で息をしながら壁の穴から外を無言で睨んでいた。
焔や裕也、そして他の生徒たちも無言で壁の穴から外を見ていると、桔梗が手を叩いて皆の視線を集めた。
「はい、これで模擬戦は終了です。皆は少しの間休んでいてね」
「けど、玖条君がまだ帰って来てませんが。というか玖条君無事なんですか?」
「大丈夫だから、ゆっくり休んでなさい。すぐに帰って来るから」
桔梗がそういうと壁の穴から慎也が服についた土ぼこりを払いながら入って来た。
「まったく、訓練場の外まで飛ばさなくてもいいだろ」
慎也は相変わらず面倒くさそうな顔でそういうが、他の生徒たちはあり得ないものを見たかのように目を見開いて驚いていた。
慎也の体は傷一つなく土ぼこりが少しついているが、先ほどから掃っているためほとんど落ちている。慎也の服は着物の右腕の袖部分が肘から先が無くなっている以外は破れていることが目立つ場所はない。
「どうしたんだ?皆してぼーっとして」
「慎也が規格外過ぎて皆どう反応したらいいかわからないよの」
「普通に反応すればいいんじゃないか?」
「慎也はもう少し常識を勉強しなさい。普通はあの威力の攻撃を受けて無傷なんてありえないわよ」
当たり前のように言う慎也に桔梗は呆れて手で頭を抑えながら説明した。しかし、慎也は納得していないように顔をしかめて首を傾げた。
慎也が首を傾げていると、沙由里が慎也に近づいて来た。
「大丈夫そうね」
「ん?ああ、頑丈だから気にしなくても大丈夫だぞ」
「けど、服はボロボロにしちゃったわね。ごめんなさい」
沙由里は慎也の来ている土ぼこりで汚れた着物を見て頭を下げた。
「ああ、大丈夫だから頭を上げろ」
「けど……」
「こんなのこうすれば直るから」
慎也は無くなった右腕の袖部分に左手を当て肘のあたりから手首のあたりまでゆっくり移動させると、消えて無くなった着物が元通りに戻っていた。
沙由里は元通りになった着物を見て驚いたが、すぐに普段通りの顔に戻った。
「その着物、魔力を編んで作った物だったのね」
「ああ、魔力で編んだ服の方が破れにくいしな」
「けど、維持するのが大変なんじゃないの?」
「能力の関係で魔力で作った物は俺が消さないと消えないから、維持は問題ない」
「何そのチート」
慎也の能力に関する話に沙由里はジト目で慎也のことを見つめた。しかし、慎也は肩を軽く竦めて首を横に振った。
「作った物を維持しなくていいのはただの副産物でしかない」
「ますますチートじゃない」
「そうはいうが作れるのは俺が構造を理解している物だけだぞ」
「つまり、どういうこと?」
「食べ物を作ろうとしても砂糖や塩のバランスが分かってないと甘すぎたり塩辛かったりするわけだ。後、生き物はどうしても作れない」
「確かに、そこまで構造をよく理解してないといけないとなると大変かも」
「そういうことだ。だから、服と武器以外はまず作らない」
「そうなんだ」
沙由里は慎也の話を無表情のまま聞いていると、焔と裕也の二人も近づいて来た。
「おつかれ」
「お疲れ様です。何を話しているんですか?」
「沙由里がやり過ぎたって話だ」
「誰がいつそんな話したのよ」
慎也の適当な言葉に沙由里はジト目で慎也を睨んだ。
「着物ボロボロにして悪かったって言ったじゃないか」
「そうだけど……」
沙由里は何を言えばいいのか分からず何も言えなかった。
そんな沙由里は焔と裕也にとっては珍しいのか少し驚いた顔をして見ていた。
「お前たちいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
「ん?別にそんなに仲良くないが?」
「特に仲良くはないわよ」
焔の問いに二人は何を言っているのか分からず首を傾げながら返した。
似たような行動をする二人に焔と裕也は苦笑した。
「僕たちから見ると結構仲良さそうだよ」
「傍から見るとそう見えるのか」
慎也は裕也の言葉に顎に手を当てて考える素振りをして軽く頷いた。
焔と裕也を入れた四人で少しの間話していると、九重が集合の合図を出した。
九重の合図にしたがって生徒たちは最初の時と同じように並び九重と桔梗が軽く話して授業は終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます