第2話 話し合いと模擬戦

 最初の授業が終わり次の授業との間の十分程度の休み時間が始まると一年の大半の生徒が慎也の机の周りに集まってきた。


「どうしたんだ?」


 慎也が集まってきた生徒に首を傾げて問いかけた。


「玖条君ってどこから転校してきたの?」

「玖条君はどんな能力を使うの?」

「慎也君は何ランク?」


 慎也は様々な質問を同時にものすごい勢いで複数の生徒からされたことで驚き固まった。

 慎也が固まって質問に答えないことも構わずに生徒たちは次々と質問をしてきた。


「そこまでにしたら」


 そんな質問攻めにしている生徒たちに隣の席に座っていた沙由里が生徒たちを止めた。


「そんなに質問攻めにしたら答えられるものも答えられないわよ」


 沙由里の言葉に生徒たちは少し落ち着いたのか、お互いに顔を見合った後順番に一人一人質問してきた。


「玖条君ってどこから転校してきたの?」

「俺は転校してきたわけじゃないんだ。学校に通う理由が最近出来たからこんな時期に編入してきたんだ」

「そうだったんだ」

「玖条君はどんな能力を使うの?」

「それは教えられないな」

「えー、教えてくれてもいいじゃん」

「悪いが事情があって教えられないんだ」

「そうなんだ」

「じゃあ、次は……」


 それから生徒たちは二時間目の授業の教師が教室に入って来るまで順番に質問を続けた。教師が教室に入って来ると生徒たちは席に着き授業の準備を始めた。

 最初の授業と同じく慎也は授業を聞き流しながら窓の外を眺めていると、授業が終わりまた生徒たちに質問攻めにされた。

 教師による授業と生徒からの質問攻めが交互に続き昼休みになった。午前最後の授業が終わり教師が教室から出て行くと授業の片付けを終えた生徒たちが弁当箱を持って近づいて来ようとしたが、慎也の隣の席に座っていた沙由里が席を立ち慎也

に話しかけてきた。


「お昼一緒に食べない。少し聞きたいことがあるの」

「構わないが、どこで食べるんだ?」

「屋上よ」

「わかった」


 慎也は沙由里の後について行き教室を出る時に他の生徒たちを軽く見ると、何人かの生徒は沙由里と同じように慎也を誘おうとしていたようで先を越されたと話していた。

 慎也と沙由里が廊下を少し歩き階段を上ると一つの扉の前に着いた。

 沙由里は扉を開けて屋上に出た。それに続いて慎也も屋上に出て辺りを軽く見渡した。

 屋上は周りにフェンスがあり、フェンスから少し離れた位置にベンチがいくつかおかれていた。それ以外では特に目立った物は何も無かった。

 沙由里は入口から一番近くにあるベンチに移動して座り、慎也に向かって手招きした。

 それを見て慎也は沙由里の座っているベンチの空いているスペースに座り、沙由里に話しかけた。


「それで聞きたいことっていうのは何なんだ?」

「別に大したことじゃないわ」

「なら、教室で質問してた他の奴らに交じって一緒に質問すればよかっただろ」

「他の人に聞かれたらまずいかなっと思って気を使ったのよ」


 何でもないかのように無表情で言う沙由里に慎也は横目で見ながら持ってきた弁当箱を開けた。


「その弁当、あんたが作ったの?」


 慎也が弁当を開けると、沙由里が弁当箱をのぞき込むように見ながら聞いてきた。


「ああ、何か変なところでもあるか?」

「いや、とても美味しそうだから、誰か作ってくれる人がいるのかなって」

「残念ながら弁当を作ってくれる親切な人は俺の周りに居なくてね」


 慎也の答えを聞いて沙由里は慎也の顔を見つめてしばらく何も言わなくなった。

「どうしだんだよ」

「あんた、何者?」

「どういう意味だ?」


 沙由里の質問に慎也は目を細めて聞き返した。


「言葉通りの意味よ。あんた一般人じゃないでしょ」

「……」


 沙由里の言葉に慎也は黙って考え始めた。

 慎也は少しの間考えると話し始めた。


「確かに俺は一般人じゃない」

「やっぱり」

「その前にお前は俺のことをどう見てるんだ?」

「……先日、私を襲った人たちの仲間……っていうのは流石にないか。私を護衛するために理事長に雇われた能力者かな」

「よくわかってるじゃないか。その通りだ」

「じゃあ、あんた理事長と同じSSSランクなの?」

「まあな。けど、あいつらは俺と一緒にされるのは嫌がるがな」

「どういうこと?」

「こっちの話だ、気にするな」


 慎也の呟きに沙由里が首を傾げて聞いてきたが、慎也はそれに適当に答えて話を戻した。


「それよりも、俺はお前を護衛しないといけなくなったわけだ」

「それで?」

「まあ、護衛なんて面倒くさいわけだ」

「それで?」

「襲撃してきた奴に何か心当たりはあるか?」

「特にないけど、どうして?」

「決まってるだろ、一人残らず根絶やしにしてくるんだよ」


 凶暴な笑みを浮かべて何でもないように言う慎也に沙由里は呆れた顔をした。


「襲う相手がいなければ護衛の必要がないってこと?」

「そういうことだ」

「……流石に無理だと思うわよ」

「なんでだ?」


 慎也は凶悪な笑みを消し、いつも通りの顔で聞き返した。


「あの理事長が一人を相手に苦戦してたのよ。周りへの被害を気にして戦ってたみたいだけど」

「あいつは一対一の戦闘が得意じゃないからな」

「けど、あの敵の強さは異常だった」

「まあいいや、今の情報で襲撃犯について少し分かった」

「え!?」


 慎也の言葉に沙由里は驚き目を見開いて慎也の方を向いた。


「まあ、そんなことより早く弁当食べないと次の授業に間に合わないぞ」


 慎也に言われて沙由里は時間を確認し、先ほどよりも食べるペースを上げた。


「それと言っておくが、俺が護衛についた以上お前が危険にさらされることはほとんどない」

「ほとんどって……」

「大丈夫だ。俺が予想できない状況が無い限り守れるから」

「私に今日初めて会ったあんたのことを信じろと」

「それはこの後の模擬戦を見て判断したらどうだ」

「……それもそうね」


 沙由里はそれから何も言わずに弁当を先ほどよりもさらに速いペースで食べ始めた。

 慎也は沙由里が黙って弁当を食べるのを見て同じく黙って弁当を食べた。

 沙由里が弁当を食べ終わり慎也が弁当を食べ終わっていることを確認すると、話しかけてきた。


「それであんたは何者なのか質問に答えてくれる」

「ああ、答えてなかったな」


 慎也は弁当を持って立ち上がり、沙由里の方を向いて答えた。


「俺は『究極の一アルティメット・ワン』の一人だ」


 慎也の答えに沙由里は驚き目を見開いた。


「『究極の一アルティメット・ワン』って人類最強の十二人を集めた組織よね」

「まあ、そうなんだが、実際はSSSランク認定された能力者が加入する組織だな」

「どういうこと?」

「能力診断でSSSランク認定された能力者が強制で加入させられる組織」

「それって人権的に大丈夫なの?」

「まあ、やりたくないなら緊急時以外の依頼は断れるし、依頼をしなくても生活に困らないだけの金は貰えるからいいんじゃないか」

「緊急時っていうのは?」

「邪神や上位悪魔が攻めて来た時だな」

「悪魔はともかく邪神が攻めてくることなんてあるの?」

「旧人類が滅んでから四千年の間に二回だけあった。まあ、世間には広まってないだけで意外とやばい事件は起きてるもんだぞ」

「そうなんだ」


 次々に質問してくる沙由里に淡々と答えていた慎也は時計を見て時間を確認すると時計を指さしながら沙由里に時間があまりないことを伝えた。


「そろそろ教室に戻って模擬戦の準備をしないと間に合わないんじゃないか」


 沙由里も慎也に言われて時間を確認してベンチから立ち上がった。

「そうね。教室に戻りましょうか」

「もう質問はいいのか?」

「ええ、聞きたいことも一通り聞けたからしばらくはいいかな」

「そうか」


 慎也と沙由里は屋上に来た時と同じ道を同じように何も話さずに黙って教室に帰った。






 慎也と沙由里が教室に帰って来てから少し後、一年生全員が模擬戦をする訓練場に集まっていた。

 一年生全員とは言ってもこの学園はBランク以上の能力者の中で優秀なもの以外入学出来ないため、各学年は一クラスしかなく四十人程度しかいない。

 訓練場に教師が来ると、準備運動を軽くして今日することを話し始めた。


「それじゃあ、今日は四人一組の班を作って一対三の訓練をする。この間やった総

当たり戦の順位の上位から四人ずつ組んでくれ」


 教師の言葉に慎也は手を上げて質問した


「先生、俺は今日転校してきたんですが、どうしたらいいですか?」

「そうか、確か玖条を入れて四十人ちょうどだから、取り合えず今日は一番下の班に入ってくれ」

「はーい」


 教師と慎也の会話に沙由里は一番下の班のメンバーに同情した。


「それじゃあ、班ごとに分かれて――」

「待ってください」


 教師の声に被せるように後ろから女性の声がした。

 訓練場にいた慎也以外の全員が声のした方に振り向き驚いた顔をし、慎也は何かを感じ取ったのか面倒くさそうな顔でため息をついた。


「り、理事長!?どうしてここに!?」

「慎也に模擬戦の授業をやらせるとなると心配で、すこし様子を見に来たのよ」

「手加減くらい出来るわ」


 教師に理事長と呼ばれた白いワンピースに魔法使いが着ていそうなローブを着た金髪美女の桔梗は、慎也をからかうような目で見ながら言う言葉に慎也は呆れながら適当に文句を言った。


「本当かしら?」

「なんだその疑いの目は」

「まあいいわ。九重先生、彼は一番上の班に入れてください」

「え!?しかし、一番上の班は紀藤もそうですが、他の二人もかなりの実力ですよ。それこそ、五位以下の生徒と一線を画すほど」

「大丈夫ですよ。慎也は紀藤さんより強いですから」

「え!?」

「それじゃあ、私は一応隅で見学してますね」

「は、はい」


 桔梗の一言に九重は驚いていた声を上げ、生徒たちも声には出していないが驚いた顔をしていた。

 それを全く気にせずに桔梗は見学すると言うと訓練場の隅に移動して腕を組んだ。


「ああ、それじゃあ、全部で十班あるから下から三班ずつ他の班の邪魔にならないようにやってくれ、最後の一番上の班の模擬戦はためになるだろうからみんなよく見とくんだぞ」


 生徒たちは九重の指示に返事をして訓練場の生徒から少し離れて生徒たちの様子を見始めた。

 生徒たちは先生に言われたように三班ずつ一対三の模擬戦を始め、他の生徒は訓練場の壁際で三班の模擬戦を見ていた。

 生徒たちは壁際にいるが、沙由里以外の生徒は桔梗の近くに近寄らなかった。

 沙由里は桔梗の近くに行くと慎也のことを質問しだした。


「慎也のことについて少し聞きたいことがあるんだけどいい?」

「別に構わないけど、慎也本人に聞けばいいんじゃない?」

「慎也から聞きたいことは大体聞いたわ」

「なら、私が話すことはなくない?」

「私が聞きたいのは慎也の他人から評価、初めて会った人に俺は強いって言われても信用できませんから」

「それもそうね」

「それに慎也と同じSSSランクの理事長先生も『究極の一アルティメット・ワン』の一人なんですよね」

「あら、慎也そんなことまで話したのね」

「はい、SSSランクになると強制で加入させられるって聞きました」

「そうよ。『究極の一アルティメット・ワン』は強制」

「そんな理事長先生から見た慎也がどういう存在なのか教えてください」


 沙由里は真剣な顔で桔梗を見ているが、桔梗は離れたところで一人模擬戦を見ている慎也を横目で見て考えた後沙由里に視線を戻した。


「慎也は一言で言うと理不尽の権化よ」

「理不尽?」


 真剣な顔で言う桔梗の言葉に沙由里は意味がよくわからず首を傾げた。


「慎也は、私たち『究極の一アルティメット・ワン』の中でもずば抜けて強く、ずっと昔から生きているらしいわ」

「らしい?仲間じゃないんですか?」

「仲間よ。けど、他のメンバーについて詳しくしているわけじゃないわ」

「そういうものなんですか?」

「ええ、私たちは全員特殊だからあまり関わらない相手もいるのよ。特に慎也はずば抜けて特殊で慎也と深く関わる人はほんの少しだけよ」

「そうなんだ」

「そして私たち『究極の一アルティメット・ワン』には全員異名があるの」

「異名ですか」

「私が魔術と呼ばれるように、権化としてあげられるようなものが異名として呼ばれる」

「じゃあ、慎也は……」

「『究極の一アルティメット・ワン』理不尽の慎也」

「……」


 桔梗の真剣な言葉に沙由里は何も言えずに黙ってしまった。

 桔梗は沙由里が何も言わないのも気にせず慎也について続きを話し始めた。


「私は慎也の戦うところ数回しか見たことがない。けど、それだけで十分なほど彼が理不尽と呼ばれる理由が分かったわ」

「彼はそこまで圧倒的なのですか?」

「ええ、敵のどんな攻撃も受けても涼しい顔で全く効いていないかのようで、どんな敵にもそれこそ液体や霧のような存在さえ傷つけ殺す」


 桔梗は横目で慎也の姿を見て、慎也の戦いを思い出しながら話しているようだ。


「あらゆる攻撃が効かない体、あらゆる防御も砕く攻撃をする存在を理不尽以外なんて呼べばいいんでしょうね」


 桔梗は言い終えると呆れた顔をして沙由里に視線を戻した。


「……」


 沙由里は慎也の評価が予想以上だったのか、何も言えずに黙っていた。


「私が話せるのはこれくらいだけど、まだ何か聞きたい?」

「いえ、もう十分です。ありがとうございました」

「気にしなくていいわ。けど、『究極の一アルティメット・ワン』のことは他の人には言わないでくれる」

「構いませんが、どうしてですか?」

「『究極の一アルティメット・ワン』は存在以外は国家機密が多いのよ。慎也があなたに話したのは多分、数年後にあなたが『究極の一アルティメット・ワン』に入る可能性があるからだと思うわよ」

「分かりました。他の人には喋らないようにします」

「ありがとう。あ、ちょうど二組目の模擬戦が終わったわね。次の次があなたの番でしょ、慎也を相手にするんだから今のうちに休んでおきなさい」

「分かりました」


 沙由里は桔梗に言われたように休みながら三組目の三つの班の模擬戦を見て自分の番が来るのを待った。

 三組目の模擬戦も終わり、沙由里たちの出番になると訓練場の真ん中に移動した。

 四人は一年の上位三人と理事長が認める強い生徒ということもあって他の模擬戦を終えた生徒たちの視線が集中した。


「ここまであからさまにみられると少しやりずらいですね」


 周りを見て袴を着て眼鏡をかけた黒髪の男子生徒がそんな同意を求めるように話しかけてきた。


「いや、別にあまり気にならないが。それより俺はお前らのこと知らないから軽く自己紹介してくれないか」

「そういえば、まだ名乗ってませんでしたね。私は上条裕也です。これからよろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


 裕也は右手を差し出し握手を求めて来たので、慎也はその手を取り握手した。

 慎也と裕也が手を離すともう一人の黒い長ズボンに赤いTシャツ、その上に黒い半袖の丈が膝辺りまであるコートの前を開けて着ている赤髪の男子生徒が裕也と同じように右手を差し出しながら話しかけてきた。


「俺は遠庭焔だ。よろしくな」

「ああ、よろしく」


 焔の自己紹介に沙由里が首を傾げながら焔に話しかけた。


「炎帝?炎の神の?」


 沙由里の言葉に焔は怒っているのか呆れているのかよくわからない態度で返した。


「違う、炎の帝じゃなくて遠い庭で遠庭だ」

「そうなんだ。ごめんなさい」


 沙由里は焔の訂正に素直に応じて頭を下げた。


「いや、よく間違われるから気にしなくていい」


 焔は頭を下げた沙由里に頭を上げるように言った。

 慎也は沙由里と焔のやり取りを見て目を軽く逸らした。


(炎帝じゃないんだ……)


「それじゃあ、そろそろ模擬戦を始めましょうか」

「そうだな。それで一人の方は誰がやるんだ?」

「慎也でいいんじゃない。理事長が一番強いって言ってたから」

「慎也君はそれで大丈夫ですか」


 沙由里の提案を聞いた裕也が慎也に確認してきたので慎也は何も言わずに頷いて返した。


「それじゃあ、慎也対俺たち三人で模擬戦を始めるぞ」

「ああ、俺は準備出来てるからいつでもかかってこい」


 慎也たちがある程度距離を取った後、焔が最後に一つ質問してきた。


「武器は無くてもいいのか」

「ああ、大丈夫だ」

「そうか」


 焔は沙由里と裕也に目線を送ると、二人は準備できているのか無言で頷いて返した。


「じゃあ、開始の合図を出してくれないか。俺たちは三人だからお前が始めたいタイミングで始めてくれて構わない」

「そうか。じゃあ、このコインが地面に落ちたら開始ってことでいいか?」

「ああ、それで構わない」

「なら、投げるぞ」


 慎也がどこからか取り出したコインを親指で打ち上げた。

 慎也が打ち上げたコインが床に着くと同時に沙由里が白い光の球を数個慎也に放った。光の球は音速の十倍以上の速度で慎也に襲い掛かった。

 高速で迫る光の球を慎也が最小限の動きだけで躱すと、裕也がくないを弾幕のように慎也の周りに十本投げた。

 慎也は当たるくないをだけを叩き落とした。

 慎也がくないを叩き落とすのと同時に焔は炎を放ち慎也を包むように炎のドームを作った。


「その炎のドームに触れない方がいいぞ。二千度近い高温の炎だからな」

「相変わらずの高温ですね」

「まあな、さてどうする降参するか?」


 焔の問いかけに炎の中からかすかに笑い声が聞こえた。

 焔はそれを聞くと炎のドームの中にいる慎也を睨みながら問いかけた。


「何がおかしい」

「この程度で攻撃の手を止めるとはな。そんなんじゃあ、俺を傷つけるなんていつまで経っても出来ないぞ」

「そうかよ。なら、燃え尽きろ」


 焔は慎也の挑発に乗り炎のドームに右手を開いた状態で向けて何かを握るように閉じた。

 その焔の行動に合わせてドームの炎が急激に大きくなり訓練場の天井に届きそうな炎の柱になった。

 沙由里はドームが炎の柱になったのを確認すると、自分の周りに光の球を数十個浮かせて様子を見ている。

 裕也も沙由里と同じようにくないを両手に持てるだけ持ち様子を見ている。

 そんな二人の様子に焔もいつでも動けるように警戒した状態で二人と同じようんい様子を見始めた。


「はあ、だからそんな様子見ばかりだと俺には勝てないぞ」


 慎也は三人に忠告をすると、右手を振って炎を吹き飛ばした。

 炎の柱の中にいたはずなのに火傷した痕どころか服に焦げ跡さえ見つからなかった。


「服に焦げ跡すらないですね」

「焔、まるで使えないわね」

「……お前らも傷つけられてないだろ」


 攻めるような目で見てくる二人に呆れたような目を向けて言うと二人は視線を慎也に戻した。

 その姿を見た焔は呆れたようにため息をついた。


「随分と余裕そうだな」

「それはこっちのセリフだ」

「それはどういう意味だ?」

「さっきから上から目線で忠告ばかりして、一切動こうとしない。本当に俺たちと戦う気があるのか?」


 焔の言葉に慎也は驚いた顔をした。

 それから俯いて少し何か考えた後、慎也は軽く頷いて顔を上げた。


「そうだな。なら、少し真面目に戦ってやろう」


 慎也は微笑み一歩踏み出した。

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