All for one ~すべては彼女のために~

水龍園白夜

最悪な敵と運命の再会

第1話 普段とは違う依頼

「それで今回の依頼の内容は」


 玖条慎也は横長のソファーに座り机を挟んで向かい合うように置いてあるソファーに座っている黒髪長髪で赤い瞳をした黒を基調とした着物を着ている美少女竜宮寺竜華に話しかけた。


「この写真の子の護衛が今回のあなたの仕事よ」


 竜華は机の上に少女の写った写真が貼られている紙を慎也が取れるように置いた。慎也は紙を受け取り内容に目を通した。


「なんで、この依頼を俺よこしたんだ」


 慎也が問いかけると竜華は左手に持っていた黒い扇子で口元を隠しながら答えた。


「私とあなた以外で見た目が高校生に見える人、うちの組織にいないからよ」

「なら、お前が行けばいいんじゃないか」

「私はこの組織の隊長よ。事務仕事とかいろんな仕事が多くて大変なの」

「はあ、分かったよ。俺が行けばいいんだろ」

「分かればいいのよ」


 竜華は口元を隠しているので表情は慎也からは分からなかったが、笑っていることだけは慎也にも分かった。


 慎也は竜華のその反応を見てため息をついた。


「それで学園に通いながら護衛ってことだが、編入試験や制服はどうすればいいんだ」

「大丈夫よ。そこの学園は桔梗が運営している学園だから試験は必要ないわ」

「桔梗って言うとうちの隊員の西条桔梗か」

「そうよ」

「あいつ理事長なんてやってたんだな」


 慎也は竜華の答えに少し驚いたような顔をした後もう一つの質問を再び聞いた。


「それで制服は桔梗が用意してくれるのか?」

「その学園にそもそも制服はないわ。だからあなたのその服でも大丈夫よ」


 竜華は慎也の黒を基調とした和風の半袖長ズボンに同じく黒を基調とした着物に

袖を通して羽織ている服装を指さしながら返した。


「こんな服で通っていいのかよ」


 竜華に言われて自分の服装を見ながら聞き返したが、竜華は何でもないように返した。


「あなたが生まれた五千年前とは違って最近は能力に合っている服を着るのが当たり前だからよ。学園も能力を使うのに邪魔になるような制服を強要はしないのよ」

「人類が全員が能力者になると結構変わるものだな」


 慎也は部屋の窓から外を眺めながら呟いた。


「私からしたら能力を使えない人がいないだけじゃなく、エルフや吸血鬼のような存在がいなかった時代の方が嘘のようだわ」


 竜華は呆れた顔を扇子で隠しながら言った。


「他の人族が生まれ始めたのは三千年前、お前はまだ生まれていなかったな」

「旧人類が滅んだのが四千年前だから他の人族はその後に生まれたのね」

「はあ、そんな話はどうでもいいだろ。それより、俺はいつから学園に通って護衛をすればいいんだ」


 竜華の呟きに慎也は呆れた顔をしてため息をついた後、依頼の内容について問いかけた。

 竜華は話を依頼に戻されたことで少し不満そうな顔で慎也の質問に答えた。


「明日から通ってもらうわ。すでに桔梗には話を通してあるから後は明日学園の職員室に行けば教室まで案内してくれるわ」

「なるほど、最初から断ることは出来なかったということだな」


 竜華の答えに慎也は不機嫌そうな顔で竜華の目を見て呟いた。

「その通りよ」

「はあ、それにしてもなんで俺たちの組織に護衛の依頼なんて来たんだ?」


 慎也は首を傾げながら竜華に問いかけた。


「彼女は特殊なのよ」

「なにが特殊なんだ?」

「彼女はSSランクの能力者なのよ。そんな彼女が数日前に襲撃されたの」

「SSランクが襲撃された!?襲撃者は彼女が撃退したのか?」

「いいえ、たまたま近くにいた桔梗が撃退したわ」

「それで次はもっと戦力を整えてくるかもしれないから俺を護衛につけると」

「そういうこと」


 竜華の言葉に慎也は納得したような顔をした。


「話は分かった。じゃあ、俺はもう帰るぞ」


 そういうと慎也はソファから立ち上がった。


「じゃあ、依頼頑張ってね」

「はあ」


 扇子を閉じて笑顔で言う竜華に慎也は再度ため息をついた。






 次の日、慎也は桔梗の運営する学園の一年の教室にいた。

 慎也は教室の黒板の前に立ち他の生徒の視線を集めていた。


「えーと、玖条慎也です。よろしくお願いします」


 慎也は適当な自己紹介をした後、教師が指定した護衛対象の隣の席に座った。

 席に座った慎也は周りの席の生徒に軽く挨拶をし、少し経った後始まった授業を聞き流しながら生徒たちの観察をした。


(竜華の言っていた通り変わった服の連中が多いな)


 教室には和服や洋服だけでなくゴスロリなどさまざまな服を着た生徒たちが同じ形の勉強机に座って教師の話を聞いて言る。

 生徒たちの観察を一通りした後、隣の席に座っている護衛対象の紀藤沙由里に視線を移した。

 外見は金髪長髪で赤い瞳の美少女。服装は白いワンピースを着て、その上に黒を基調とした着物を着て帯で結び肩の部分をはだけさせている。


(こいつが紀藤沙由里、生まれながらのSSランクか)


 護衛対象の沙由里を少し観察した後、慎也は授業に意識を向けた。


(今やってるのは歴史の授業か)


「四千年前、旧人類は一人の能力者『all for one』によって滅ぼされた。彼によって能力を持たない者は皆殺され、能力者も大量に殺された。彼は残された一万人程度の能力者の全魔力を借りた英雄との戦いで引き分けて止まった。英雄はその時に追った傷で亡くなったが、『all for one』がどうなったのか謎のままだ」


 教師の教科書を読んでいるだけのような授業を聞いて慎也は少し目を細めた後、机に突っ伏した。


(つまらなく感じるのは俺が知っているからなのか、それとも授業がつまらないだけなのか)


 そんなくだらないことを考えながら慎也は眠りについた。






 薄暗い空間に人の形をした何かが大きな剣に貫かれて死んでいる。


 その近くに血まみれ状態の女を抱えた男がしゃがんでいた。


 女は胸元を何かで貫かれたような大きな怪我をしており、そこから血が止めどなく流れきれいな服と長い銀色の髪を赤く染めていった。


 男は女を抱きかかえているせいで手と服を女の血で汚し、腕の中で弱っていく彼女をただ見つめていた。


「どうして……なんで俺なんかをかばったんだよ、アヴローラ」


 男が呟くとアヴローラと呼ばれた女は自分の血で赤く染まった手を男の頬へと伸ばした。その手に力はほとんど入っておらず弱弱しいながらも男の頬に届いた。


「慎也が……きず……つくところ……見たくなかった……だけ」


 アヴローラは胸を貫く痛みを押し殺しながらぎこちなく笑って途切れ途切れながらも慎也の問いに答えた。


「だからって、アヴローラが死んだら何の意味もないだろ!」

「かもね……」


 その答えに怒っているのか悲しんでいるのか分からない慎也の怒鳴り声にまたぎこちなく微笑みながら返した。


「慎也……愛してる……ずっと……ずっとあい……してた」


 アヴローラが言い終わると同時に慎也の頬に触れていた手ゆっくりと落ちた。


「なんで……今そんなこと言うんだよ」


 慎也は糸が切れた人形のように動かなくなり、少しずつ冷たくなっていくアヴローラの体を服が血で汚れることも気にせずに力強く抱きしめた。


「今までいくらでもいう機会はあっただろうが、なのになんで死ぬ前に初めて言うんだよ」


 慎也の声は震えていて目からは涙が零れ落ちた。


「俺は、まだお前に思いを伝えてないって言うのに、なんで一人で勝手に死んでんだよ」


 慎也はもう息をしていないアヴローラの体を力強く抱きしめながら、彼女に思いを伝えられなかったことへの後悔と彼女を死なせてしまったことへの絶望で一人誰もいない空間で泣き叫んだ。






 慎也は目を覚まし体を起こして周りを見ると、まだ最初の歴史の授業の途中で時間を確認してみるともう少しで終わるくらいだった。


(ああ、夢か。久しぶりにあの夢を見たな)


 慎也は左手を額に当てて先ほど見た夢について少し考えた。

 先ほど見た夢が未だに頭に残っているため寝ることは無理だし、時間もないことから授業を聞き流しながら窓の外を眺めることにした。

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