ヒメマルカツオブシムシ

香枝ゆき

第1話

手足をばたつかせてもがいている。

皮膚がちぎれながらも逃れようとしている。

海老ぞりにのけぞらせて、拘束からうんよく離れられたとしても。

待っているのは同じことだ。

真っ白な世界はとじられる。


青く塗った爪を乾かすついでに、床に寝転がった。

ゴミ箱には、除光液を染み込ませたティッシュやその他のごみが少したまっていた。

ベッドのしたはほこりにまみれ、部屋のすみはほこりがつもっている。

間違いなく、毎日寝起きしている場所なのに、掃除機をかけなくなったのはいつからだったか。

うすぐらい場所に、それらがいることに気がついたのは何ヵ月か前だ。

ごみかとおもった。

事実、指でつまむとされるがままになっていた。

まれに、すごい勢いで逃れようとするものがいて、生きている虫だと知った。

群れることをせず、一匹狼で薄暗いすみっこを好む。

今まででそうやって生きてきて、これからもそうやっていきていくんだという思いを、唐突に折られ。

家の外は演技をする舞台になった。

だからわたしは、一人になれる場所で、孤高の存在を見つけると、粘着テープでとらえることにした。


帰ったら、殺せる。

帰ったら、どのようにあがくのかをみることができる。


もうこの一ヶ月は、毎日のように観察し続けている。


なんのために生きているの。

どうせ死ぬのに。

十センチにもみたないテープでとらえられて、もがいて、閉じられてゴミ箱に捨てられる。


わたしだって。

歯車の一部で、同じような部品はほかにもたくさんいる。

突出した唯一にも、かといってコモデティに甘んじることもできない。

だから、この時間だけは、わたしは神様になる。

自分の生殺与奪は中途半端になってしまうから。他者の、他種族の、生殺与奪を手にしている。


虫も殺せなかったのにって、家族は泣いて。

かけることばは決まってる。


わたしは殺していない。

ただつかまえただけ。


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ヒメマルカツオブシムシ 香枝ゆき @yukan-yuki

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