第21話 世界一幸せな死
「死にたい」
ふと、二人きりで居た時、友達がそう言った。
放課後の教室の、左後ろの席で、向かい合って座っていた。
「え」
私は反応に困ってしまった。
こういう時って、なんて言うのが正解なの?変に否定したりしたら更に病んじゃいそうだし。
そう思って咄嗟に出てきた言葉は、
「じゃあさ、死ぬ時は私と一緒に死のうよ」
自分でも何言ってんのって思った。
こんなこと言って、ほんとに友達が死のうとしたらどうすんのよ。
そう思ったけど。
「あはは。」
友達は心底おかしそうに笑った。
そして、
「ごめん、今の忘れて」
そう言って、机の上のカバンを持って立ち上がった。
「帰ろう」
私達は教室を出た。
それから数ヶ月後。
私の両親が離婚した。
それから母は私に暴力を振るうようになった。
毎日増えていく心身の傷。
ボロボロになった傷を何度も何度も抉り毟り取られて、もう一生治らなくなってしまった。
よし。死のう。
私は深夜に家を飛び出して、マンションの最上階へ向かった。
階段から身を乗り出す。流石にここから落ちれば死ねるよね。
「……」
少しだけ怖かった。
手足がガクガクと震える。
……やっぱり怖いな。
でも、家に戻るのはもっと怖い。
私は何度も深呼吸をした。
「……おまたせ」
背後から声がした。
私は驚いて振り返った。
そこには、あの友達が立っていた。
「約束。死ぬ時は一緒に死ぬって約束、したでしょ。」
友達は一歩ずつ私に近付いてくる。
「忘れてないでしょ。」
涙が溢れてきた。
友達が、私を抱き締めた。
「辛かったよね。気付けなくてごめん」
私は子供みたいにわんわん泣いた。
「私、このまま死にたい」
そう言うと、友達は無言で頷いた。
「じゃあいくよ。せーの」
私達は抱き締め合ったまま、地上に身を投げた。
世界一幸せな気持ちで、私は死んだ。
箱に蔓延る蔦 しーな @nostalgicGIRL
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