愁いを知らぬ鳥のうた
彩 ともや
愁いを知らぬ鳥のうたー白い鳥のいくところー
1羽の鳥がありました。
純白の眩しい羽の鳥。
灰色の雲の中を
俯く人々のはるか頭上を
純白の鳥は飛んでいきます。
ある日、ある町、ある時に
1人の少女がおりました。
「ねぇねぇ母様、鶴を折ってよ」
しかし、母親は答えません。
「ねぇねぇ母様、指笛吹いてよ」
しかし、母親は答えません。
「ねぇねぇ母様、あの鳥の名前は?」
しかし、母親は答えません。
母親は路地の壁に寄りかかったまま
一言も喋らず
まぶたを閉じたまま
三角座りでおりました。
「ねぇねぇ母様、人はいつか鳥になるのね」
少女は赤い空を仰ぎました。
「お隣のね、お爺さん、亡くなったんだって。それでね、その時、白い鳥が空に飛んでいったの。きっとあれはお爺さんよ。
絶対、お爺さんなんだわ」
少女はすくっと立ち上がり、母親の胸に耳を当てました。
「母様、母様、母様、母様、母様」
名を呼び、柔らかな乳房に顔を埋めます。
「母様、きっと私鳥になるわ。私、空を飛びたいの。地べたの泥水なんて知らないところに。人の靴の味なんて分からないところに。私、そこにいきたいの」
そしたら、と少女は言います。
「そしたら、あなたを迎えに来るわ。眠ったままじゃ退屈でしょう。だから少し待っててね。私が戻るまで待っていてね」
少女は走り出しました。
どこということもなく、ただただ真っ直ぐに走り出しました。
白いワンピースがひらひらと翻って、空をきります
「可哀想に。足を滑らせたなんて」
「まあまあ。まだこんなにも幼いのにね」
「この子の母親も亡くなっているんだろう」
「そうなの。可哀想に」
海の青。
遠ざかる草の緑。
断崖絶壁。
意外と良いところなのね。
ああ、なんて。
なんて心地が良いのだろう。
待っててね。
待っていてね。
きっと
きっともうすぐ、そちらへ行けるわ
愁いを知らぬ鳥のうた 彩 ともや @cocomonaca
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