第13話 荒ぶる水の精

リマの操るガルーダ級の試作機はとんでもない出力で宇宙空間をぶっ飛ばしていた。

「おい、ゴウゾウ!何だこのルートは」

リマが操縦してはいるが、航行ルートはAIが導き出し指示を出していた。

「何って……このまま降下して集中砲火で撃沈がお望みかのぅ?」

「じゃあ、どこへ向かってんだい?」

船はあらぬ方向へ向かっていた。

明らかに宇宙のゴミだめ、スペースデブリ帯へ向かっているのがわかる。

「まさか……」

「その、まさかじゃよ」

「おいおい、この後に及んで寄り道だって?あいつがどうなるかかかってんのに」

当然降下するものと思っていたフィルがリイナを気遣って声を荒げる。

「ああ、それだったら大丈夫そうですよぅ。元気に走り回ってたみたいですし」

と呑気な声をあげるナイトマリア。

「え、どういう意味よマリアちゃん」

「宇宙港の警備員張り倒して逃げてるみたいなので」

「あ、そなの?」

「どうやら敵に拉致されてるわけじゃないですので大丈夫かとー」

「ならいいけど。で、デブリ帯に突っ込んでどうすんの?ドク」

「あそこには放棄された移民船団の巨大宇宙船がまだ浮いとる。そこでうまく偽装するんじゃ」

「何だって!あそこは要塞以上の宇宙の掃き溜めだぞ!賊の巣窟じゃないか!!」

とんでもない計画に大声を張り上げるリマ。

「そこんところはフィルもおるし、現役軍人の兄ちゃんもおるしな。いざとなればマリアもおるしのぅ」

「え、マリアちゃん戦力になるの?」

「なぁに、いざと言うときじゃよ」

「変な期待しないでくださいよぅ?忍者は斥候が主任務なのですから」

「ふ?ん、ま、楽しみにしとこ」

ニンマリとニヤつくフィルであった。

「しかし、こいつもやっぱりゴウゾウの機体だねぇ。扱いにくくてかなわん」

操縦席で愚痴をこぼすリマ。

「何を言うか!最高の機体性能じゃろうが」

「その出力が無駄にデカくてコントロールが大変なんだよっ!」

どうやらピーキーな特性が操縦者のストレスを生んでいるらしい。

スロットルのクリアランスがタイトで少し開けると出力が急上昇する。

リマはその挙動を必死に抑えているのである。

「敏感すぎんだよコイツ。タイトすぎ」

「ふむぅ。んじゃあそれも含めて改良が必要じゃな。デブリに突っ込むぞ」

「簡単に言いやがって!」

「スラスターのコントロールをいじってみるかのぅ」

イラつくリマをスルーしながら呑気にドクは操作パネルをいじり出す。

ゆらゆらと船体が微動するが、暫くして安定した。

「半自動で制御するように設定弄ったから少しは楽じゃろ?」

「さっきよりはマシだけどね。扱い辛いのは変わらん」

「文句言うな、仕方ないじゃろ」

二人の押し問答を他所目に先程からナイトマリアが何やらパネルを操作している。

「ところでマリアちゃんは何してんの?」

間抜けな声をあげるフィルに

「撃墜されたら困りますからねぇ。船体番号と国際コードを偽装する準備ですよぅ」

「へぇ、そんなこと出来んだぁ?」

「まぁこのくらい出来ませんと生き残れませんからねぇ」

「逞しい事で……」

このちっこい女の子が末恐ろしく感じるフィルであった。


船は暫く進んだところで減速を始める。

やがて石ころや何かの鉄屑が舞うデブリ帯へと突入していく。

時折船体に何かがぶつかり度々衝撃を受ける。

「なぁドク、この船大丈夫なのかい?さっきから結構揺れてるけど」

「なぁに、このくらいで潰れる船ではないわい」

リマは巨大な船体を絶妙に操作し、大きな物体は避けているものの、どうしても小さな障害物には当たってしまう。

ガタガタと揺れる船のシートに縛られながら耐える一行。

「見えてきたぞ!放棄された移民船だ」

その中で生活し星を渡る移民船は、遠目でも巨大なのがわかる。

人類は母なる星を旅立ってから、新たな惑星に辿り着くまでここが住処となっていた。

しかし今は星へと移り住み、不法占拠したゴロツキ供の拠点になっている。

周囲はガラクタが無数に舞うデブリ帯の真っ只中、恰好の隠れ家だ。

航行に危険を伴うので寄り付くものなど居はしない。

「周囲警戒!航行停止っ」

音声入力で周囲の状況が正面モニターに写り、出力が低下し逆噴射で船体が停止する。

動体センサーや音感、熱源、あらゆるセンサー情報がモニターに表示される。

「おお、優秀っ仕事早いね」

あっという間に欲しいデータが出てきたのに感心するフィル。

「お遊びのつもりじゃったが、試作とはいえ最新鋭のAI積んどるからの」

「へぇ?え。大したもんだ」

人間が存在しないポートが表示され、エアの供給状況や設備なども表示される。

「よし、ここからならこのB46番っていうポートが最適だね。行くよ」

リマがマップの表示を頼りに言うと、最適な出力で発進し、敵勢力と仮定される者達に悟られない様に自動でステルス航行モードに移行する。

ゆっくりとポートに近づき、ある程度の距離で出力をカットし惰性でポートに滑り込む。

「おっと、ここはおれの出番ですよっと」

フィルは船外カメラとリンクしているゴーグルをかけ、スレイブアームを装着すると、腕の動きと連動して作業アームのロックが外れ、自由に動くようになる。

フィルは映像を頼りに作業アームを動かし、開閉ハッチのドアを開ける。

「おっけ!開くよ」

ギシギシとポートのハッチが上へせり上がっていく。

「おお、器用なもんじゃの」

「アームは戦車でも使うからねー。まぁお手のもんよ」

姿勢制御用のスラスターを吹かしてゆっくりポート内に侵入して行く。

「なんとか入れたね。さ、閉じてエアを入れるよ」

引き続きアームでポート内の操作パネルを器用に叩き、ハッチを閉じさせる。

鈍重なハッチが完全に降りると内側の密閉用のシャッターが内側に降りてくる。

閉まったのを確認し、エアの供給弁のパネルをアームで操作する。

船内の中央モニターにポート内の空気成分が表示され、パーセンテージが上昇していく。

「さ、空気が満ちたら作業開始じゃ」

「作業って、具体的には?」

「わしとリマはここで再設定と最終調整、マリアは引き続き偽装の為の準備」

テキパキと指示を出すドク。

「アストリアスは船外へ出て敵襲に備えて警備!念の為ライフルが格納庫にあるので装備」

「はぁ?い」

間抜けな返事をして出て行くアストリアス。

「で、おれは?」

自分を指差して聞くフィル。

「お前さんは……格納庫行ってコイツを確認、設定しとくんじゃ。起動もさせておけ」

というとドクは青いプラスチックファイル投げてよこした。

「おっと……何だいこりゃ。ま、見てみりゃわかるか。了解っ」

フィルは早速格納庫に向かった。

割と広い格納庫にはカーキ色のシートにきっちり包み込まれた物体がベルトで固定されていた。

ラッチを外して固定を取り去っていく。

ポート内に重力は無いので外した途端にふわふわと漂う。

シートを引っぺがすと中から見た事もない兵器が姿を表す。

「何じゃこれ……装甲車?いや、戦車か」

青いファイルはこの兵器のマニュアルらしかった。

「えーっと、ここをこうか」

独り言を言いながら全面の装甲の隙間に手を突っ込むとハッチが電動スライドしパイロットシートが迫り出す。

「ほほぅ」

徐にシートに腰掛けるとシートが自動で体に合わせて沈み込む。

また電動で元にあった位置までスライドし両脇に操作パネルがぐいっと張り出す。

パネルを操作すると全面ハッチが音もなく閉じ密閉される。

次に車内灯が薄暗く付き、車内が見えてくる。

「お、おい、正面にモニターねーぞ?」

計器のわずかな光に照らされているが、どこにも外を覗く窓や、映し出すスクリーンのようなものが無い。

フィルはキョロキョロと周囲を見回すと、ヘッドレストからバイザーのようなものが付いていた。

フィルはそのバイザーをぐいっと引き寄せ、自分の頭が被る位置にする。

次の瞬間、網膜投影で外界の映像が写り、自分の首や目の動きをトレースして見回す事が出来た。

「うぉっ、すげぇ」

フィルは思わず感嘆した。

投影されてても下を向くと操作パネルは認識できる。

そして両脇から張り出してきた部分に手を掛けると、操縦桿が両脇にあるのが確認できた。

フィルはその操縦桿を手前に引いてみると車体が立ち上がり上昇しているのがわかる。

「うお、ヤベェ。ロックが外れちまう」

構造的には車体には脚がサイドに2本ずつ配置されており、その先に駆動装置であるキャタピラが付いている感じである。

起動とともに車体を脚が持ち上げ、ある程度の車高を維持する様になっている。

今は無重力状態で、格納庫にフックで引っ掛けられているが立ち上がろうとしている。

固定用フックは戦車の脚力に耐えきれず破損防止の為ロックが解除された。

戦車はその反動で宙に浮きフワフワしている。

「ヤベェ!やっちまった」

フィルはパネルを操作し、車体が天井にぶち当たる前に方法を探した。

運よく先に出たアストリアスが格納庫のハッチを開け放していた。

フィルは咄嗟に登坂用アンカーを外に向けて発射する。

火薬の破裂音がし、アンカーが飛び出す。

アンカーに付けられた図太いワイヤーが引っ張られて伸びる。

ハッチの外のポートの床面に突き刺さるアンカー。

また操作し、ワイヤーを巻き取っていく。

「わぁ!何だ何だ???」

突然船内からアンカーが飛び出てきた事に警備していたアストリアス大袈裟に驚く。

フィルは何とかポート内に戦車を着陸する事に成功した。

「ふぃー、あぶねーあぶねー」

アンカーで固定したままマニュアルをペラペラとめくり各部を確認し始めた。

「えーっと、無重力下だと……、ああ、これか」

パネルを操作して操縦桿を動かすとスラスターに火が入り、自由にとはいかないが移動する事が出来そうだ。

「うしっ!アンカー巻き取ってスラスターオン!」

戦車は微速で前進し始めた。

「まぁそりゃそうよね。空飛ぶ様にはできてる訳ないか」

ノロノロと姿勢制御をしながら格納庫へと戻った。

固定が済むまで動かないように砲塔脇に装備されるアームを伸ばし、格納庫にしがみつく。

そのまま車外へ出てフィルは固定フックを手繰り寄せ、何とか縛り付ける。

自身も無重力でフワフワしながら格闘しドッと疲労が増した。

「ふぅ、何やってんだか。くそ」

フィルは車内に戻りパネルを操作し、設定の確認や各部のチェックを行う。

一旦外に出て上部後方から入り直すとガンナーシートが現れる。

パイロットシートと同様、ヘッドレストからバイザーが出ていて、外界が見える。

周囲には火器管制用のパネルが並ぶ。

正面にはビームの主砲、両サイドにホーミングのミサイルポッド。

上部には実弾のマシンガンが装備されている。

各部のチェックと装備の確認を終えるとサスペンド状態で待機させる。

車外へ出ると再設定を終えたドクが格納庫へやってきた。

「そいつは使えそうかの?」

「ああ、さっき危うくもろとも宇宙のガラクタになりかけたけどね」

「終わったんなら食料確保じゃ。何も食っとらんじゃろ」

「あー、確かに。全員分ね」

「降下してもすぐさま食事にありつける保証無いからの。数日分な」

「え、おれ一人?」

「お前さんは荷物持ちじゃ。メインはマリアに頼んである」

「あ、そゆことね」

ハハハと空笑いしながら念の為武装を確認するフィル。

暫くしてマリアが現れ、後に付いてポートから扉を通って内部に入った。


移民船の内部は埃こそあるものの、それほど荒れてはおらず静かだった。

マリアは勝手が判っているかの如くズンズン前へ進む。

念の為敵に察知されないように黙って後を追うフィル。

暫く進むと重力の効いたエリアへ入ってくる。

「ここからは慎重に進みます。確実に誰かは居るはずなんで」

ヒソヒソとマリアが耳打ちしてくる。

ベイリスに手をかけ、フィルは頷くだけで答えた。

要塞とは違ってやや無機質感は否めない内観。

照明は対応年数内を過ぎているのだろう、ぼんやりと暗く鈍い色だ。

マリアは懐から小型端末を取り出し、MAPを表示させ何かを調べる。

ある経路が表示されると無言でフィルに見せ、頷くフィル。

マリアを先頭に二人は物陰を伝ってこっそりと移動を再開した。

マリアはたどり着いたとある扉をゴニョゴニョすると、あっという間に開いた。

重いスライドドアを開け中に入る。

そこには緊急用の保存食料が備蓄されていた。

フィルは箱を確認すると、まだ賞味期限を残しているのが確認できた。

備蓄品が入っているバックパックを逆さにしてぶちまけ、そこに保食パックを詰め込んだ。

フィルはぱんぱんに詰め込んだパックを背負い、その場を後にしようとドアへと進む。

外を見張っていたマリアは手を上げ止める。

「ん?」

「囲まれてます」

「何だって?」

二人はヒソヒソと会話する。

どうやら勘付かれて賊連中が集まって来ているようだ。

「どうすんの?」

「私だけなら気付かれずに脱出できるかもですが……仕方ないですねぇ」

マリアが顎に指を当て考えている。

「やっぱり強行突破?」

「ですねぇ」

「んじゃそゆことで」

マリアは何処からともなく丸い球体を取り出すと、ヒョイっと外に投げ込む。

「耳塞いで」

短く言うとマリアは人差し指を両耳に突っ込んだ。

慌ててフィルも耳を塞いだ。

すると次の瞬間、眩い閃光と爆音、そしてモクモクと煙を上げ始めた。

「GO!」

マリアとフィルは同時に走り出し今まで来た道を戻る。

周辺にうずくまる汚い格好をした賊共を次々蹴散らしダッシュする。

「くそー待てぐぉらー!!」

「うぉー!!!」

「きぇーーーぃ!!」

声にならない奇声を上げながら視界がおぼつかないまま二人を追いかけてくる賊。

フィルはポロポロ出くわす賊に鉛弾をお見舞いして先に進んだ。

途中ドアを閉めてロックし追っ手を振り切った。

しかし、何処からともなく賊は現れる。

「くー、しつこいねぇ」

「仕方ないですよぅ、こちらが強奪してますしぃ。ま、彼らの物でもないですけど」

「最初から勘付かれてたんかな?」

「そうかもですねぇ。早く船に戻らないとマズイかも」

2人は走る速度を下げずに進む。

時折追いかけて来る賊にベイリスで応戦する。

賊共が飛び道具を持ってないのが幸いだ。

「次のブロック超えれば無重力エリアに入ります!」

「あいよっと」

と次の瞬間、少し開けた場所で、偉そうに腕組みして賊が待ち伏せしていた。

「このやろう!賊の住処に泥棒たぁ、いい度胸じゃねーかっ!」

周りの取り巻き十数人が手に刃物を構えてニヤニヤしている。

「何を偉そうに、お前らだって不法占拠じゃねーかっ」

フィルが吐き捨てる。

「うるっせぃ!身ぐるみ剥いで宇宙のゴミにしてやる!」

そう言い放つと取り巻きがウォーっと歓声をあげ向かってくる。

フィルは銃で撃ち倒すがお構いなしに向かってくる。

マリアは懐からツバのないナイフを数本投げると1投で2~3人がバタバタと倒れる。

「うほーマリアちゃんやるぅ」

フィルが歓喜を上げる。

だが次の瞬間、隠れていた賊がボウガンでマリアに向け矢を放った。

不意打ちをくらい、よろけながらギリギリで避けた。

が、頭の上で結んでいた髪留めを弾き、マリアの髪がバサッと降りた。

「……」

咄嗟にフィルはボウガン男を銃で倒したが、マリアは沈黙してしまった。

「おいマリアちゃん?大丈夫か?」

明らかに様子がおかしい。

「へっへっへっ、もう終わりかい?観念しろやぁ」

ニヤつきながら取り巻きが2人を囲む。

流石に1人では同時に襲われたら、銃でも間に合わない。

「くそー……、へっ?」

フィルは賊共を睨みつけていたが、沈黙していたマリアから強烈な殺気を感じた。

いつの間にか手に忍者刀と呼ばれる1メートルほどの直刀が握られていた。

いつも存在を感じさせないマリアが殺気を立ち上らせている事に恐怖した。

次の瞬間、賊の首がまとめて3人分宙を舞った。

「ヒィっ」

思わず隣の賊が声を出す。

いつの間にかマリアは賊をすり抜け、後方にいた。


「秘剣、影燕っ!」


静かにマリアが言い放つ。

「マリアちゃん……すげぇ」

フィルが感心して呆けてしまった。

また賊の首が飛ぶ。

慌ててフィルも銃で賊を倒す。

「こ、このやろう!怯むなー!」

賊のボスが喚く。

その次の瞬間、ボスの首がコロンと落ちた。


「秘剣奥義、闇鴉っ!!」


さっきからマリアの動きが早過ぎて目で追えない。

怯んだ賊をすり抜けて無重力エリアに突入するフィル。

大荷物も重力が無いお陰で楽に運べてスピードが上がる。

適当なところでマリアも無重力エリアに逃げた。

流石に無重力エリアでは刀技は使えない。

懐から新たな髪留めを出して髪をくるくるとまとめてお団子にした。

フィルと合流し急いで船に戻る。

フィルは携帯端末で連絡し、追いかけられている旨を伝える。

「ああ、ドクかい?追いかけられちゃって大変!すぐ出られる様にしといて」

ボスがヤられて一旦は呆けていた賊共も我に帰って追いかけてくる。

逆上して賊も躍起だ。

「ほんっと、しつこいなー全く」

設置されている手すり等を使ってスピードを早めるもワラワラと湧いて出る賊。

やっとの思いでB46ポートに転げ込む。

「ウォー!!!」

「グォー!!!」

もうただ雄叫びを上げ2人を追って来る賊。

急いて銃で反撃するも無重力でフラフラして当たらない。

パン!パン!

あたりに火薬の発する乾いた音が響き、賊が血を吹く。

船の後部格納庫からスナイパーライフルで寝そべりながら狙撃するアストリアス。

さすがは現役軍人、面目躍如というところか。

「なかなかやるじゃないのー」

と呑気な声をあげ後部格納庫へ滑り込むフィルとマリア。

「何とか無事な様じゃの?」

格納庫にはドクも控えていた。

「まー何とかねー。すごかったよーマリアちゃん」

マリアは聞かないフリしてすっとコックピットへ入っていった。

「まぁ、あやつは剣の腕も師範級じゃからの」

ドクは船内インカムでリマに伝える。

「よし出発じゃ!」

「あいよっ」

短くリマから返答がある。

ドクは後部ハッチを閉めるパネルを操作した。

ポート内にはまだワラワラと賊が入ってこようとする。

アストリアスはギリギリまで狙撃を行い寄せ付けないように努めるが数が多すぎる。

「くそー間に合わない」

「お、そうだ!良いのあんじゃん」

咄嗟に戦車に入れておいたエレメンターを引き摺り出しカートリッジを弄る。

「ちょっ、やめんかこらっ」


焦ってドクは止める。

「今使わずして、いつ使いますかっての」

適当に掴んだのは水色のシェル、ウンディーネだ。

フィルはさっとシェルを突っ込みレバーを引いて構える。

「あっ、ばか」

ドクが止めるのは間に合わなかった。

「行け!ウンディーネっ!!」

カチン

ハンマーが落ちると同時に後部ハッチが閉じる。

大量の賊のまん真ん中に青い水のようなエフェクトが発生する。

すると賊を飲み込みやがてグルグルと渦を巻き始める。

「リマ!回避!!」

船のアームを動かしていたマリアがポートのシャッターを開け始めていた。

ギリギリ通れる隙間しか無かったが、ドクの一声で急発進させるリマ。

フィルは格納庫横の外部モニターを覗き込む。


「うわーーーー」

「ぎゃーーーー」


大量の賊たちはグルグルと、ズズズズーとご丁寧に音声付きで渦に巻かれてゆく。

「あらー、大変」

フィルは他人事のように呑気に言う。

「フィル、お前さん……」

「何だい?ドク」

「お前さん、水洗便所を思い浮かべたじゃろ」

「あははーバレました?水ってパッと思いついたのがトイレだったもんで」

「まったく、我らまで飲み込まれたらどうするつもりじゃったんじゃ!」

「いやー、面目ない。こんなに凄いとは。はは」

グルグルと巻いた渦は中央に収束し消えていった。

移民船のポート周辺を巻き込んで。

「なぁ、ドク」

「何じゃ?」

「どこに流れていったんだと、思う?」

「知るか」

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