第2話

秋田市内での仕事を終え、太田と二人で飲食をしていた。

 「佐野くんは、そう言えば秋田出身だったよね。」先代のオーナーの仲間であった太田は言う。

 「そうなんですよ。でも、いろいろあって、大学入学で埼玉に越して来て以来、一度も帰ってきたことがなくて。」

 「奥さんは確か岩手だったけ?」

 「そうです。新幹線が通過していった北上出身です。今年も、命日が近づいてきたなあと。」

 「あんなに素敵な奥さん早く亡くして、大変だったろうなあ。先代オーナーもベタ惚れだったもんなあ。もちろん、仕事上だけど。」少し意味深な言い方を太田はした。

 そんな思い出話に浸っていたその時、満の携帯電話がなった。長女の久美からだった。

 「お父さん、いまどこにいるの?」

 「太田さんと仕事で秋田市内だよ。明日帰る予定だよ。」

 「そうなんだぁ。ちょうど良かった。連休を利用していま彼の実家に来てるんだあ。同じ秋田県だから、来れるなら寄ってよ。」

 「秋田のどこなんだ?」

 「県北だけど、大館って所よ。お父さん、知ってる?」

 「あ、ああ。」

 満の出身地、それも訳あってずっと行っていない場所。満は複雑な心境だった。

 「ねぇ、お父さん聞いてるの?ねぇ、来てくれるのぉ?来てよ〜!彼のお父さん、お母さんも是非会いたいって言ってるよ!」

 太田にこのことを話をし、「わかったよ。明日の秋田から青森に行く特急電車に乗って行くよ。」

 「大館駅まで迎えに行くから、時間が決まったら、ラインしてね。絶対だよ‼︎」

 「わかったよ。久美のためなら、仕方ないな。」


 翌日、太田と別れ、満は秋田発青森行き特急「つがる」に乗った。懐かしい車窓。鉄道唱歌のオルゴールで始まる車内放送ではなく、仕事で常磐線の特急電車に乗った時と同じメロディーが流れ、懐かしさの中に、長い年月が流れたのだなあと、ビール片手に思っていた。

 いよいよ大館が近づいてきた。自分を育ててくれた故郷。胸がいっぱいだった。

 大館駅のホームに降りる。高校時代のことが思い出される。仲良し三人組。あとの二人はいったい、いまどこで、どのような人生を歩んでいるのだろうか?どことなくセンチメンタルな発車メロディー。上りホームのメロディーもまた満の心を揺さぶる。

 「何かが起こるんじゃないか」そんな思いが強くなった。


 「あっ、お父さん!こっち、こっち!」かわいい娘、久美が嬉しそうな声で呼んでいる。

 「よお、久美!おっ、たかしくん、久しぶりだなぁ!」

 次の瞬間、満は自分の目を疑った。「えっ、まさか。」

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つぐない 沢尻秋斗 @sawajiri

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