第10話 大島オーナーの計らい

○メイド居酒屋ファムルーム・午後八時

   ビールのジョッキを傾けあう安藤と周子。

安藤&周子「かんぱーい!」

   ビールを飲み、談笑を始める二人。

   隣で“パンパン”とクラッカーがなる。

   誕生日ケーキに三十本も蝋燭の火がともる。

メイドA「今夜は大島オーナーの誕生日でーす!」

   大島オーナー、マイクを持ち一説ぶつ(途中からボリュームアウト)

大島「みなさん、同人誌は今、クリエイティビリティーの面で危機に瀕しています。

 盗用を平然と行い、クリエイターとしての倫理が語られる以前に販売攻勢をかけてしまおうとする売り逃げのような行為が平然と行われています……

 ビジネス的に見れば、決して悪いことではありません。

 しかしそれでは、同人誌の本質である楽しさや感動、心が置き去りにされてしまう…。

 今こそ同人誌の在り方を問いたださなければならない時です。

大島製作所の想いは一つ。

 時代が変わり、技術が進み、文化形態が変わっても、

 人々の心に残りつづける同人誌を創りたい。いい同人誌は世の中を動かし、景気を回復させ、人の命さえも救うのです。

 だから僕らは、いい同人誌が売れる時代を取り戻さなければなりません。

 僕らと一緒に、世界を変えていける力を持つ同人誌を創りませんか」

   大島の演説中に安藤、自分の誕生日を思い出す。

安藤「そういえば、ボクも今日が誕生日だった」

周子「ええっ! マジで」

   安藤、オドバシ社員手帳を見せる。

   社員手帳を見る周子。

周子「七月十三日……ホント……、けど免許証のほうが証明になりやすいわよ」

安藤「ごめん。免許持ってない」

周子「まあ、いずれ貴方は教習所に通うことになるわよ。それよりも、メイドさーん!」

  周子、安藤の社員手帳を持ってメイドさんを呼んで何事かを耳打ちする。

  メイドA、あわててマイクを持つ。

メイドA「今夜は大島オーナーの他に、なんとなんと、安藤ナオヤご主人様の誕生日でーす!」

客一同「なんだってー!」

メイドA「では、ナオヤご主人様、一説どうぞ」

  立ち上がらせられ、マイクを渡され、とまどう安藤。やがて酒に任せて思いのたけをつのる。

安藤「……そうだ!

 どうせ聞こえるなら、聞かせてやるさ!

 周子!

 好きだァー! 周子! 愛しているんだ! 周子ぉー!

 好きなんてもんじゃない!

 周子の事はもっと知りたいんだ!

 周子の事はみんな、ぜーんぶ知っておきたい!

 周子を抱き締めたいんだァ!

 潰しちゃうくらい抱き締めたーい!

 心の声は心の叫びでかき消してやる! 周子! 好きだ!

 周子ーーーっ! 愛しているんだよ!

 ぼくのこの心のうちの叫びを

 きいてくれー! 周子さーん!

 キミとオドバシアキバの四階でぶつかって、周子を知ってから、僕は君の虜になってしまったんだ!

 愛してるってこと! 好きだってこと! ぼくに振り向いて!

 周子が僕に振り向いてくれれば、ぼくはこんなに苦しまなくってすむんです。

 優しい君なら、ぼくの心のうちを知ってくれて、ぼくに応えてくれるでしょう。

 ぼくは君をぼくのものにしたいんだ! その美しい心と美しいすべてを!

 誰が邪魔をしようとも奪ってみせる!

 恋敵がいるなら、今すぐ出てこい! 相手になってやる!

 でも周子さんがぼくの愛に応えてくれれば戦いません。

 ぼくは周子を抱きしめるだけです! 君の心の奥底にまでキスをします!

 力一杯のキスをどこにもここにもしてみせます!

 キスだけじゃない! 心から君に尽くします! それが僕の喜びなんだから

 喜びを分かち合えるのなら、もっとふかいキスを、どこまでも、どこまでも、させてもらいます!

 チカコ! 君が歩行者天国の中に素っ裸で出ろというのなら、やってもみせる!」

  店内の一同、あっけにとられたが、やがて拍手喝采となる。

客たち「いいぞぉー」

  大島、マイクを持って安藤たちに近づく。

大島「今一度、安藤君と彼女の周子さんに拍手を!」

  店内、再度の拍手喝采。

大島「そして、安藤君と彼女の周子さん。ここで誓いのキスを」

安藤「ええっ!」

  周子、いきなり立ち上がって安藤にキス。店内が沸く。

客たち「おおー」

   大島、メイドにマイクを渡して、安藤と周子を座らせ、ささやく。

大島「安藤君、キミの演説に感動した。気に入ったぞ、キミこそ真のクリエイターだ。閉店までキミたちの今夜の払いは私が持とう。存分に飲んでくれたまえ」

  『ハッピーバースデイ』を歌うメイドたち。にぎやかな時が過ぎていく。

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オドバシ男 ヤクバハイル @yakuba

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