第20話 親(5)
こうして。
なんとか体重が2500g近くになった桃は退院することになった。
この日は平日で八神はもちろん出勤なのだが
もう朝から帰りたくて帰りたくて仕方がなかった。
美咲の母が付き添ってくれているので別に心配はないのだが。
あまりに早く帰ろうとして、焦ってマンションの入口でけつまづいて転んでしまった。
「いって~~。 大人なのに転ぶとは・・」
手の擦り傷を見て情けなくなってしまった。
「ただいまっ!!」
勢いよく帰っていくと、
「そんな大きな声で。 びっくりさせないでよ・・」
美咲が迷惑そうに出てきた。
「桃は? 桃は?」
とりあえずそれだった。
「ベビーベッドだよ・・」
美咲はため息をついた。
慌てて寝室に飛び込んだ。
すると、まだまだ小さい桃はベッドになぜかタテに寝かされていた。
八神の気配を察したのか、手足をちょっと動かして顔をしかめた。
「桃~~~。」
八神はたまらずに抱き上げて思わずほお擦りをした。
すると
「・・ん・・ぎっ・・」
と声を上げて泣き出してしまった。
「あ~~、泣かせた~。 もうやっとおっぱい飲んで寝たのに~。」
美咲は口を尖らせた。
「起きてたんだよ~。 あ~~、かわい~~。」
「ウソばっか・・」
「ねえ、なんでここサークルあけっぱで、タテにねてんの? あぶないじゃん・・」
「まだ寝返りもできないのに。 この方が抱っこするのもラクなんだもん。 おしめ替えるのも。」
「いつ動くようになるかわかんないじゃん。 なあ、桃~。」
と、またしつこくほお擦りをした。
「すんごい・・イヤがってるよ。」
「え! そんなわけないじゃん! ほんっと、だんだんかわいくなるなあ。 どーみてもおれに似てるし~~。」
八神は顔が崩れっぱなしだった。
確かに。
悔しいが桃は、まだ生まれたばかりなのに八神にソックリということが誰の目にも明らかなほどであった。
掛け値なしで
新生児室の他の子より
断然かわいくて。
美咲は密かにハナが高かったりした。
「パパって言わないかな~~~、」
尚も言う彼に
「バカなこと言ってないで。 桃に触る時くらい手え洗ってよ・・」
美咲は文句を言った。
「ああ、そうそう。 桃にバイキンがついちゃったら大変だしな~~~。」
もう
『桃』命の八神であった。
「早く外に連れて行かれないかしら~。 ほんっとに桃ってカワイイし、」
美咲の母までそんなことを言っている。
「でしょ~~? おれも公園とか連れていきたいな~~~。」
八神も、もう嬉しくってたまらなかった。
しかし
楽しいことばかりではなくて。
桃は夜中に何度も何度も泣いた。
「う・・また・・」
美咲はヘロヘロになりながら起きて、おっぱいをやったりオシメを替えたりする。
なかなか泣き止まない桃を抱っこして
「桃~~。 泣かないでくれよ~。」
八神は新生児を育てる大変さを実感しつつあった。
「ま・・赤ん坊だもんな。 泣いてあたりまえだもんな・・」
愛しい愛しい我が子の頭を撫でた。
まだまだ
新米のパパとママで。
わからないことばかりで。
だけど
かけがえのない家族が増えた。
それは
喜びだった。
「あっ! 美咲! たいへん、桃がウンチしてる~~!」
「ってわかってんなら、自分でなんとかしてよ~、もう!」
にぎやかに
夜は更けてゆく。
My sweet home~恋のカタチ。6--peach blossom-- 森野日菜 @Hina-green
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます