第19話 親(4)

こうして


美咲だけ一足先に退院することになった。


「なんか。 離れがたい、」


ちょっと落ち込んだが。


「おっぱい届けなくちゃならないんだから。 毎日会えるよ。」


美咲の母は慰めた。



『八神 桃』


で、めでたく出生届も出し、赤ちゃん用品もそろえて


あとは桃が退院してくるのを待つだけだった。



「おれも毎日行っちゃおうかな~。 どうせ駅までの通り道だし~。」


八神ももう桃がかわいくてかわいくて仕方がないようだった。


看護師さんに頼んで何枚も撮ってもらった写真をさっそく携帯の待ちうけにしたりして


毎日見てはニヤニヤしていた。


「でも、体重も増えてきてて。 予定より早く退院できるかもって。 あたしまだお風呂に入れる練習もしてないし。」


美咲は言った。


「風呂かあ。 あんなのどうやって入れるんだろ。 手が滑っちゃったら大変だしなあ。 ちゃんと習って来いよ、」


八神は心配した。


「あたしひとりでできるかなあ。 お母さんがいてくれるうちはいいけど。 なんか不安になってきた・・」



美咲は胸に手を充てて、


「いたたた・・」


張ってきたおっぱいが辛そうだった。


「張ってるの?」


「ウン。 ちゃんと搾らないと乳腺炎になっちゃうから気をつけてって。 まだ直接飲ませてないし。」


「いっぱい出るようになったの?」


「けっこう・・。」


すると何を思ったか、八神は


「見せて。」


と美咲のTシャツをめくろうとした。


「ちょ、ちょっと! なにっ!?」


さすがに顔を赤らめた。


「え、いいじゃん。 どんななってんの??」



慎吾のこういうとこが


ほんっと


子供っぽいんだよねえ・・。



美咲はため息をついて、仕方なくTシャツをめくった。


「えっ!!」


八神はわかりやすく驚いた。


「なによ・・」


美咲は思わず胸を隠した。


「それ・・元にもどんの?」


思わず指を指してしまった。


「失礼なっ! どういう意味よっ! でっかくなってよかったじゃん!」


美咲は大反論をした。


「でっかいけどさあ。 なんっか・・ちがうオッパイだ!」


などと言い出す彼に、美咲はため息をついて


「もう。 慎吾だけのおっぱいじゃないんだから・・」


わざと彼に抱きついた。


「ってさあ・・」


「ねえ・・子供産んでもさあ。 あたしのこと、女としてみてくれる?」


美咲は甘えるように八神に言った。


「え・・、」


ちょっと顔を赤らめて



「・・そりゃ。 ウン・・」


恥ずかしそうに頷いた。


「え~~、もー。 キスして。」


とねだる美咲に


「バカ・・おばちゃんもいるのに・・」


八神は部屋の外を気にした。


「だいじょうぶだからあ。 だって、あたしたちまだ新婚なんだよ?? 去年の今ごろはまだ慎吾がウチのお父さんにあたしと結婚したいって言ってくれて、結婚式場の予約したりしてたのに~。」



そう言われれば


ほんとにそうだ。



まさか、1年後。


人の親になっていようとは。


時間って


スゲーな・・



八神はぼーっと考えてしまった。


「もう、」


美咲は業を煮やして、自分からキスをした。


ちょっとびっくりしたが


そんな彼女を抱きしめて優しくキスをした。


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