第18話 親(3)

「え? 桃ちゃん? ・・めっちゃかわいいやん!」


いちおう出社して南たちに相談した。


「・・ほんとですかあ?」


八神はもう猜疑心いっぱいだった。


「かわいい、かわいい! なあ、」


志藤に同意を求めた。


「うん。 ありそうでなさそうな名前やしな。 ええんちゃう?」


彼もニッコリ笑った。


「なんかおいしそうだし~~。」


夏希も笑った。


「うん。 八神らしいっていうか。 字画とか見るの? だいじょぶだったらええんちゃう?」



南の言葉に


「まあ、いちお・本買って調べましたけど、良さそうだったんで。」


ちょっと気分が元に戻りそうだった。


「ほんっとかわいいって。 もうこれにするっきゃないよ!」


南があまりにテンションが高いのが気にはなったが。



実は。



あの後、美咲は慌てて南に電話をして



『決してこれを聞いても、AV女優みたいだとかは言わないでやってください! 一生懸命持ち上げて、落ち込ませないでください、』



と手を回していたのだ。


南は素早く事業部のみんなにもそれを告知し、この名前に賛成してやるように手を打った。


「そうかあ。 やっぱりかわいいかなあ、」


八神はまたニヤつき始めた。


南は志藤と目を合わせて、ホッとした。



八神がいなくなったあと、


「んとにもう、なんでこんなに持ち上げないとなんねえんだ。」


志藤はため息をついた。


「まあまあ。 美咲ちゃんの思いやりやから。」


「しっかし・・ほんまAV女優みたいな名前やな、」


志藤は思わず吹き出してしまった。


「こらこら。 それは言わないの。」


「世話が焼けますねえ、」


夏希にも言われる始末だった。




その夜。


「美咲ちゃーん。 おめでと!」


南と萌香と夏希がお見舞いにやって来た。


「あ・・。 来てくれたんですか~?」


美咲は嬉しそうに身体を起こした。


「そろそろ落ち着いたかな~って。 ハイ、」


南は美咲にかわいい花束を手渡した。


「あ、ありがとうございます。」


「赤ちゃん、見たいんですけど~。 見れるんですか?」


夏希が言った。




「ガラス越しの保育器越しならね。 あたしも一緒に行くから。」


美咲はよっこらしょと立ち上がった。


「あれ」


美咲は新生児室のガラス窓の前の方に保育器が移動しているのに気づいた。


「ほら、ダンナさん毎日来るでしょ? ここまでならうごかしていいって先生が言うんで、」


新生児担当の看護師が笑った。


「はあ~~? もう、慎吾ってば恥ずかしいなあ・・」


美咲は顔を赤らめた。


「八神、ほんっまにかわいくってしゃあないんやろなあ、」


南は言って、保育器を覗き込む。


「わー! かわいいっ!」


夏希は思わず大きな声を出してしまった。


「ちいさくって。 まだオシメもぶかぶかなんだけど、」


美咲は笑った。


「え~~、ほんとかわいいですう・・」


そして、南を見やると


「う~~~ん、」


とうなっている。


「なんですか?」


「あたし志藤ちゃんちの子とか真尋の子たちも生まれたて見てるけど。 なんか目もぱっちりしちゃって。 新生児なのに顔整ってるし。 めっちゃかわいくない?」


南は大真面目に言った。


「え~~? そうですかあ?」


美咲は照れて頭をかいた。


「なんか・・八神さんに似てますね。」


萌香も微笑んだ。


「そうなの! 昨日来た友達もね、慎吾にそっくりとか言っちゃって! 産んだのあたしなのに!」


「うん、八神に似てるなあ。 目がクリクリなとことか・・口元とか。」


「え! じゃあ、八神さんがかわいいってことですかあ?」


夏希の驚きにみんな吹き出してしまった。


「八神はカワイイやん。 わりと女の子顔やし。」


南はそう言って彼を庇った。


「でも・・ほんと。 かわいい。」


萌香がポツリと言った。



その目は


何とも言えずに優しく。


南はふっと笑って、


「萌ちゃんたちも。 きっともうすぐ赤ちゃんが来てくれるって。」


彼女の肩に手をやった。


「え・・」


彼女の顔がぽっと赤らんだ。


「斯波さんと栗栖さんの赤ちゃんだったら。 ぜったいカワイイですもんね、」


夏希も笑った。


「ってやっぱウチのモモちゃんでしょう。」


美咲はウンウンと満足そうに頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る