第17話 親(2)

家の中はシンとしていた。


昨日は大騒ぎだったが、とりあえずみんな帰ったようだった。


美咲の母も彼女が退院したらもう一度来る、と言って勝沼へ戻った。


「あ~~~、ようやく静かになった・・」


八神は寝室のベッドに大の字になって寝転んだ。


この部屋もなあ


ベビーベッド、借りて用意しなくちゃ。


美咲に頼まれたし。


あと・・布団は買ってあるし。


赤ん坊が退院するまではあと2週間くらいって言われてるから・・それまでに


着る物なんかも整理して。




八神は身体を起こして、赤ん坊のものを確認し始めた。


用意した赤ちゃん用のたんすを見たら。



なんっかもう


ピンクばっかだな。


フリフリとか。



改めて思った。



元々美咲はかわいいものが大好きで


いい年こいて


自分もピンク系のかわいい服を今でも着ている。



大きくなったらおそろいの服とか着るんだ~。


とルンルンしながらベビー服を選んでいた彼女のことを思い出してふっと笑ってしまった。



ピンク・・


ももいろ。


そのとき、八神の脳裏に稲妻が走った!!





「美咲~~~!」


八神はまたも朝から病室にやって来た。


「・・なに?」


寝ていた美咲は心底迷惑そうに言った。


「名前! 考えたよ。」


八神は子供のようなワクワク顔だった。


「名前? ああ・・」


面倒くさそうに適当に頷いた。


「で? なに?」


仕方なく半身を起こした。


八神はポケットから紙を取り出して、



「これっ!!」


得意気に彼女に見せた。




そこには


『八神 桃』


と、ご丁寧に筆ペンで


決してうまいとは言えない彼の字で書いてあった。



「やがみ・・もも・・?」


美咲は思わず復唱した。


「女の子らしくって! かわいいだろ?? もう、ゆうべさあ、頭ン中に稲妻が走っちゃって!」


はしゃぐ八神に




「なんか・・AV女優みたいな名前じゃない?」




美咲は真剣にそう言い放った。



最高レベルまでいっていた八神のテンションは


あっという間に下落した。



「え・・AV女優?」


「桃かあ。 ちょっとエロっぽいっていうか。」


どんどん落ち込んだ。


がっくりとうな垂れる八神に気づき、美咲はハッとして


「あ・・でも! うん、かわいいんじゃない? あたしはいいと思うけど!」


とフォローした。


「AV女優って・・」


八神はまだ立ち直れなかった。



美咲は慌てて、


「うん、かわいいよ! あたしピンク大好きだし! ピンクじゃおかしいもんね!」


ヘンな慰めをしてしまう。


「ピンクって。 なんかも~~! そっちの方しか頭がいかなくなっちゃったじゃん!」


八神は泣きそうだった。


「慎吾が一生懸命考えた名前だもん。 モモちゃん、なんてかわいいじゃない。」


「・・モモが腿に聞こえるよな・・」


かなりネガティブになってきた。


「も~~、慎吾ってば! 稲妻が走ったんならさ、きっと神様が『桃』にしなさいって言ってくれてんだって!」


美咲は一生懸命励ました。


「最初っから、そう言って欲しかった・・」


八神は美咲のベッドに突っ伏した。


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