第16話 親(1)
その夜は
みんな飲んで雑魚寝してしまった。
八神も一気に寝込んでしまったが、なんとか朝早く起きてまず病院に行ってから会社に行こうと思い家を出た。
「・・慎吾?」
美咲はのそっと目を開けた。
「おはよ。 どう?」
4人部屋なので小さな声で話した。
「もー・・体中痛くて大変。 看護師さんに言ったら、分娩の時力入れすぎたからよって笑われて・・」
「ハハ、筋肉痛?」
「それに・・」
美咲は八神の手を取っていきなり自分の胸に押し当てた。
「な、なにっ・・?」
驚くほど
がっちがちに張っていた。
「もう・・おっぱいが張っちゃって、痛くて痛くて。」
「す・・すごい、」
これには驚いた。
「Fカップになって喜んでたら。 もうそれどこじゃないよ。 赤ちゃんは保育器だから吸えないし。 看護師さんがおっぱいマッサージしてくれるんだけど、これがもう・・陣痛くらい痛いんだから、」
半べそをかいて言った。
「んで、ちょっとずつ搾乳して持っていってもらってるんだけど。 これがまた痛くて・・」
「いくらおっぱいでも・・これは引くな。」
八神は顔をひきつらせた。
少し美咲と話をして、新生児室へ行った。
「あ、八神さん。 赤ちゃん、見て行きますか?」
「え、ええ。」
「あ、これ着てください。 お父さんなら中まで入れますから。」
と、滅菌服を手渡された。
「え? いいんですか?」
「どうぞ。 今、目を開けていましたよ。」
看護師さんがニッコリと笑った。
ほどなくして娘は箱ごと連れてこられた。
「ミルクを飲む量も増えて。 今のところ黄疸もないし。元気ですよ。 ここから手を入れて触ってあげてください、」
「え、」
またもとまどいながら消毒した手を穴から入れた。
そおっと触った瞬間、赤ん坊はビクっと身体を動かしうっすらと目を開けて手を口にもっていく仕草をした。
わ・・。
その暖かさに
感動した。
そして
息をするたびに小さなおなかが動いて。
心臓がドクドクといっているのが手を伝わってわかって。
おれの子どもなんだァ。
昨日まで美咲のおなかのなかにいて。
ちっちゃくも頑張って息吸って。
一生懸命、生きてる。
目はまだまだ見えないんだろうが、ジッと自分を見ている気がした。
ちょこっと開けた目は
真っ黒なビー玉みたいだった。
かわいいなァ。
もうそれしか言いようがなかった。
そして
じわじわと『父性』が湧き上がってきた。
おれが守ってやるからな。
人生初めてそう思える存在だった。
「もうね。 ほんっと頼りないくらいちっこいんですけど。 おれのことジッと見て。 すんげー、かわいいんですよお、」
八神は出社して娘がどれだけかわいいかと言うことをみんなに説明をした。
「わかった、わかった。 もー。 かわいくない赤ん坊はいない、」
志藤は面倒くさそうに言った。
「だけど~。 名前、考えてなくって。」
八神は現実に戻ってため息をついた。
「ああ、そうか。 名前ね。」
南が思い出したように言う。
「志藤さんちはどうやって名前つけたんですか?」
とりあえず子だくさんに聞いてみた。
「ウチ? そやなあ。 女の子はおれで男の子はゆうこが考えるってことにして。 女の子はやっぱりカワイイ名前がいいかなって。 ひなたの時にひらがなにしようって。 ゆうこもひらがなだし。 女の子らしくてあったかい名前がいいなあって、」
「昔の女の名前とかつけたんちゃうのん、」
南は笑った。
「アホ。」
彼女に突っ込んだ。
「でも、『こころ』はな、ひなたとななみが考えて決めてん。 名前考えたーいって言ってきかなかったから。」
志藤は笑った。
「そんな適当な・・」
八神はさらに悩んでしまった。
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