第15話 誕生(5)
うう・・・
さすがに
キツい。
八神は仕事にやってきたものの
昨日からの劇的な出来事と
寝不足で非常にツラかった。
「もー、帰りなよ。 半分、寝てるやん、」
南に言われて、
「あ?」
八神は疲れ切った顔で振り向いた。
「無理しないでさ。 今日は帰ってゆっくり寝なよ。」
ぽんぽんと肩を叩かれた。
その言葉に甘えて、早めに上がらせてもらい帰宅した。
美咲の母にカギを渡して、しばらく家に泊まってもらうことにしたのだが。
「あれっ・・」
家に戻って驚いた。
「あ! 慎吾! おっかえり~!」
「今、ちょうど食べようと思ってたトコだよ。 早く座って座って!」
なぜか
リビングには
美咲の両親と八神の両親。
そして、八神の長姉・涼と末姉・朋がいた。
思いっきり宴会の最中と思われた。
「な・・なに?」
思わず後ずさりしながら言った。
「もうさあ、みんなで来ちゃった! さっきねえ、赤ちゃんの顔も見れたんだよ。 保育器をガラスのトコまで看護師さんが持って来てくれて。 ちっちゃかったけど、カワイかったよね~~~。」
八神の母が嬉しそうに言った。
「やっぱ慎吾の赤ちゃんの時に似てるよね、」
涼が言った。
「そう? 美咲の生まれた時にも似てたわよ、」
美咲の母も負けずに言う。
「ほらほら、慎吾も座って! おめでとー!」
朋がグラスにビールを注いでくれた。
わけのわからないうちに
いつものように宴会に巻き込まれていた。
「ほらあ、もっと飲めよ~! めでたい席だっつーのに!」
美咲の父に無理やり飲まされた。
「ね・・眠い・・も~~~、」
勘弁してほしかった。
「ね! そういえば! 名前は?」
朋が言い出した。
「は?」
八神は彼女を見た。
「そうそう! 名前は何にするの? あの『命名』の紙、お父さん書きたいって言うから!」
八神の母も身を乗り出した。
「おれが書く! おれのが字がうまい!」
美咲の父は張り合った。
名前・・
八神は少々呆然とした。
まだ生まれるまで時間があるからって
かなり悠長に考えていた。
「まさか、まだ考えてないとか言わないよねえ?」
涼に言われて、ギクっとした。
「いっくら慎吾だって! そのくらい考えてるって! ねえ!」
朋がさらにプレッシャーをかけるように言う。
しかし
八神が固まったままだったので、
「え? ほんとに考えてないの?」
美咲の母が顔を覗き込んだ。
「だっ・・だって! まだ1ヶ月以上先の話のはずだったし・・・」
バツが悪そうに言う。
「はあ? おまえなあ。自分の子供だろ?」
さすがに父は呆れた。
「ああ、ムリムリ。 慎吾はさあ、子供のころから夏休みの宿題、ギリギリになんないとやらない子だったし、」
涼が笑い飛ばす。
「夏休みの宿題と子供の名前を一緒にすんな!」
美咲の父は怒り出した。
「ちゃ、ちゃんと考えるってば! おれだって・・いちおう父親だし、」
「あたし考えてあげよっか!」
朋が嬉しそうににじり寄ってきたので、
「おれが考えたいの。 えっと・・1週間以内に考えればいいんだろ?」
「漢字、苦手だし。 だいじょぶかしら、」
母は真剣に心配した。
ど
どーしよ。
内心八神は焦っていた。
犬や猫の名前じゃないんだからな。
名前で子供の一生が決まるんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます