第14話 誕生(4)

美咲は徹夜で陣痛に耐えていたので


出産の後は


懇々と眠り続けた。



そして、どのくらい眠ったのか、ふっと目を開けると


八神がベッドの脇の椅子に座って微笑んでいるのがぼんやりと見えた。



「・・慎吾、」


「爆睡してたな、」


ふっと笑った。


「今、何時・・・」


「昼の12時。」


「そっか・・もう・・生まれてから4時間くらい経ったんだ、」


「うん。」


「ほんとに生まれたんだよね、」


「うん、」


美咲はおなかに手をやった。


「信じられない・・。」



「しばらく保育器に入るって。 体重が2010gだったんだって。」


「そんなに、ちいさかったの?」


「うん。 でも、元気ですよって。 先生が。」


「そっかあ・・。」


美咲はため息をついた。



八神はそんな彼女の手を握って


「・・美咲。 ほんっと・・ありがと。」


と言った。


「え、」


「赤ん坊の顔、見たとたん。 こいつも美咲も頑張ったんだなあって。 おれはほんとに見てるしかできなかったけどさ、」


優しく言う彼に


「・・もー。 急に優しくなると気持ち悪いって、」


照れ隠しにそう言って笑った。


「ほんっとね。 ちびっちゃくって。 こんなのおれたちがこれから育てるのかなーって・・ちょっと心配になっちゃったけど。 でも、おれたちしかいないんだあって。」


そんなことを言われて


美咲はまた涙ぐんでしまった。


八神は美咲の頭を撫でて


「ばあちゃんに。 抱っこしてもらいたかったな~、」


小さな声で言った。


「もー。 泣かさないでよ・・ 体力つかっちゃったんだから、」


美咲はタオルを顔に押しあてた。



そして


午後になり。


「す、すんません。 遅くなって、」


八神はヘロヘロになりながら出勤した。


「あれ? 来たの?」


玉田はちょっと驚いて言った。


「来たのって。 とりあえず、生まれたんで。 おれ、必要なくなったし・・」


気が抜けた。


「あ! 八神さーん! おめでとーございまーす!!」


夏希が飛んできて八神の両手を取ってジャンプをしながら喜んだ。


「あ・・ありがと、」


「八神! もう、休んでもよかったのに、」


南もやって来た。


「はあ・・まあ、徹夜でキツいですけどやんなくちゃなんないことあったし、」


「おう、」


志藤もやって来て、やや呆然とする八神とハイタッチをした。


「よかったな。 無事に生まれて。」


「いろいろご迷惑をかけて。 ありがとうございました・・」


「めっちゃ・・スゴかったやろ?」


志藤はニヤっと笑った。


「・・はあ。 志藤さんの言った意味が、よくわかりました・・」


八神は疲れ切った顔で言った。


「なんかね・・もう、人間の顔じゃなかったですよ。 怖くなっちゃって。 おれのが気持ち悪くなって吐きそうでした、」


と言う彼にみんなウケて大笑いした後、


「そら・・人ひとり生まれるんだからさ。」


南は彼の背中を叩いた。


「出てくる瞬間も見たんですけど。 とっても赤ん坊だなんて思えなくて、」


「え! おまえ、その瞬間、見たの!?」


志藤は驚いた。


「え・・見ましたよ。 頭が見えてきたっていうから。 回りこんで、」


「すっげー。 おれ、さすがにそれはできへんかったなあ。 夫婦とはいえさあ、そんなグロいトコみちゃったら、今後の夫婦生活に影響するやん!」


志藤は大きな声でそう言って笑った。


「はあ? なんスか、それ、」


「いっぺんに冷めるって、ソレ!」


志藤はひとり大ウケしていた。


「も~~~。 志藤ちゃんてば。 下品やなあ。 ええやんか、なあ。 どこ見ようが、」


南は八神を庇って、彼の頭を撫でた。


「そんなに、スゴかったんですかあ?」


夏希はおそるおそる聞いてみた。


「・・うん・・スゴい。 あれはショーゲキだったなあ・・」


八神はひとり悦に入って頷いた。


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