第12話 第二ラウンド



 ニャーナイトが4本の足を使って走り出す。


 速っ!魔力使わずにこれか…!


 その速さは二足歩行だった時とは比べ物にならない。

 俺はすぐにカゲで両腕を作り、背中の盾を前に構えた。


「シャッ!」


 銀に輝く爪で襲い掛かってくる。

 盾に攻撃が当たる。

 俺はカゲに魔力を込めた。



 が……



「重い…ぐっ!」


 受け止めきれず盾ごと吹き飛ばされる。盾を捨て、カゲで地面を掴み、必死に勢いを殺す。


雷歩ライフ…」


 今までの雷歩ライフよりも重い音が鳴り、ニャーナイトは目の前で両手の爪を俺に向けて言った。


散弾銃電チャージショットガン!」


 ニャーナイトの爪がまるで散弾のように飛び散り、その全てが俺の体に突き刺さった。


「がぁっ…!!」


 爪が打ち出されると、瞬時に光沢のある爪が装填された。

 ニャーナイトは打ち出した衝撃で背後にある両手を前に振り出す勢いのまま、Xの字に切り裂いた。


摩擦爪スクラッチ


「か…!!!」


 最後に蹴り飛ばされる。


 されるがまま。最早声も出ない。

 気づけばフィールド端。

 箱の外殻には無数の穴が開き、内側の黒い肉から血が噴き出す。

 視界は点滅し色を失っている。


「4年前決勝で見せたあの姿での怒涛の攻撃!これは決まったか!」


 ワァーーァァーーーァー…

 音が小さくなる…


 ああ、これはやばい。身体中が熱い。

 父さんと母さんは今の俺を見てるかな…

 ピクシーに嫌われるかな…


 朦朧とする意識の中、俺はそんな他愛もない事を考えていた。


 やっぱりブロック戦で勝てたのはラッキーだっただけだ。

 俺は…弱い。

 相手の攻撃を受けて、不意打ちをしないと攻撃を当てる事すら出来ない。

 母さんは弱くても良いって言ってくれたけど、それじゃあ運命を受け入れる事しか出来ないと思うんだ。


 この世界は弱肉強食。

 運命を変えるには力がいる。

 俺はもうあんな運命を受け入れるのは嫌だ。


 昨日の記憶が蘇る。


 誰もいない押入れ。

 手紙にリボン。

 いやに晴れた青空…


 ………強くなりたいなぁ。

 ………負けたく無いなぁ。


 感覚が曖昧になっていく。

 時間の感覚さえ掴めない。

 結果は覆せない。


 ……でも、


 俺は、おもむろにレイピアを取り出した。

 最後の悪あがき。


 …返してやるよ…


 残った魔力でレイピアを投げつけ、俺は意識を失った。



 ——————




「4年前決勝で見せたあの姿での怒涛の攻撃!これは決まったか!」


 若者の声を聞いて、ワタシは我に帰った。



 …ちょっとやり過ぎたかにゃあ。



 フィールド端でうずくまるボロボロのミミックを見て思う。


 あの状態になるとモンスターの本能に争い難くなり、相手を殺しかねない。



 でも…あのミミックはこの姿を見せるに値する強さだったにゃ



 どんな相手であろうと強いものには敬意を払う。騎士の心を持つニャーナイトは、この事をモンスターの中でも特に意識していた。



 前回の敗戦から4年…もう誰にも負けにゃいと思っていたけど、レイピアにひっついていた時は本当にヒヤッとしたにゃあ。



 最初の火炎から計算された作戦立案、それを実際の戦闘で行う行動力。


 相手の攻撃を見極めガードせずに受け止める選択をする決断力。


 悪あがきに見せかけて確実に当てられるように念を押す慎重さ。



 それらは彼を強者として認めるのに十分な能力だった。


 素の身体能力が上がってくれば、もっと強くなる事は自明だ。



 なにはともあれ今回はワタシの勝ちにゃ。そのレイピアはくれてやるにゃあ…


「にゃ!?」



 思わず声が出る。





 ミミックが手にレイピアをのだ。


 さっきからずっと見ていたのにも関わらず、そんな素振りを見せる事なくまるで雑にコマ送りしたように瞬きをした瞬間レイピアを握っていた。



 寒気がする。


 一瞬で気を引き締める。


 ミミックに意識を集中させる。




 …ガッ…




「は…?」




 背後から何かが刺さる音。


 ミミックは既に沈黙していた。そしてその手には、何も持っていなかった。


 頬に違和感を感じ、手で触れる。


 その手には…自分の血がついていた。


 寒気が震えに変わる。




 恐る恐る後ろを振り返ると…




 フィールドを過ぎた先、煉瓦造りの観客席。


 そこに深く刺さるレイピアがあった。





「これはミミック、意識を失っています!よって、勝者、ニャーナイトォォ!」


 ウォォオオオー!!





 一瞬の出来事。


 遠目からでは分からないだろう。



「お、お前は、一体なんなのにゃ…?」



 しかし、その一瞬、ニャーナイトは明確な恐怖を感じたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

名もなき箱の龍の魂(ドラゴンソウル) 成谷 @Naruya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ