第11話 準決勝


 日が登り、闘技場が一段と騒がしくなってくる。


 天気は今日も絶好調だ。


「さあ!今日、全てが決まる!龍片りゅうへんを手にするのは誰なのか?とくとご覧あれ!まずは準決勝第一試合、ミミック対ニャーナイトぉぉぉ!」


 若者が拡声石片手に声を張る。

 その声を聞いて、俺はフィールドに向かって歩き出した。


 フィールドは昨日の内に土魔法によって完璧に修復されている。そして、壁も取り払われ一騎討ち用に作り替えられていた。

 因みに龍片を手にするって言うのは「強者の称号を得る」みたいな意味の、慣用表現だ。


「今回初出場で上位者入りを果たしたこのミミックですが、彼を侮るモンスターはここにはもういないでしょう。ブロック戦ではほぼ3対1の状態から、私達の想像を遥かに超える戦いぶりを見せてくれました。今回はどのような戦いを見せてくれるのでしょうか!」


「対するニャーナイトは、前回大会で決勝まで上り詰めた言わずと知れた実力者であり、4年を経た今、彼女の実力はブロック戦で他の出場者を圧倒し、一瞬で勝利する程までになっています!超スピードから繰り出される攻撃は、一瞬たりとも目が離せません!」


 解説を聞きながら立ち位置に着く。今回、俺は背中に盾を背負っている。動き辛くなるが、あっても無くても動きについて行く事は不可能なのでそれなら背中を守った方が良いという判断だ。

 反対側から出てきたニャーナイトは、全身を鎧で包んでいるのにも関わらずそれを感じさせない軽やかな動きで立ち位置に着き、礼をした。


「宜しく頼むにゃ」


 凛として澄んだ声は周りの声援の中よく響いた


「ああ、宜しく」


「準備が整ったようです。それでは…準決勝第一試合…開始!」


 ニャーナイトが腰のレイピアを引き抜き走り出す。それを確認した俺はその場でカゲを出し、言った。


「くらえ!火炎メガファイヤ!」


 これでスピードが落ちれば良いが…


「甘いにゃ。雷歩ライフ


 放電が発生した時のような、青白い光が一瞬光った…ような気が?

 気付いた時には既に目の前、剣先を俺に向けていた。


「何っ!?」


銃電チャージショット!」


 銃声のような音と共に


「がっ!?」


 レイピアの刀身が深く体に突き刺さっていた。


「お疲れさまにゃ」


 ニャーナイトはふっと息を吐いた。



 …その時



「……おい、まだ俺は戦えるぞ?」


「まだ意識が有るにゃ?しぶとい奴にゃあ」


 俺は不敵に笑いかける


「本命はこっちだ…火炎メガファイヤ!」


 口に火の玉を浮かべるが、ニャーナイトは落ち着いて


「避けられにゃいとでも?雷歩ライフ


 レイピアを持つ腕を引き、離脱する。

 まさに雷。一瞬で間合いが変わり、火炎は無駄に………



 ならなかった。



「ああ、避けられないだろうな」


「にゃに!?」


 の俺を見てニャーナイトは初めて驚きを声にする。

 それを見た俺は口に浮かべておいた火炎を遂に放った。


「にゃああああ!」


 ニャーナイトは吹き飛んだ。土煙とともに、フィールド上をゴロゴロと転がっていく。


 ふぅ、上手く行ったか。


 そう思って俺はカゲでレイピアを引き抜き、口に仕舞った。


 俺は始まって最初にカゲを出した時、体に巻きつけられた包帯の内側にも薄く伸ばしたカゲを纏わせていた。

 そしてニャーナイトがレイピアを引き抜く瞬間魔力を流し込み、離さないようにしたのだ。

 どんなに速く動こうともレイピアについていけば常に相手の目の前に居られると言う寸法だ。

 相手がそこまで強力な技を使ってこなかった事と、上手く動揺を引き出せた事が成功に繋がった。



 土煙が晴れていく。



 俺はカゲで取り敢えず穴を塞ぎ、止血をする。当然俺自身のダメージもかなりあるが、こうまでしなければ何もさせてもらえずにやられていただろう。

 綱渡り的な作戦だったが、相手の武器を奪えたし、かなりダメージを与えられた筈だ。それだけでこの作戦を実行した価値がある。


「結構やるにゃあ。久しぶりに魔法をくらったにゃあ…でも、お前、やっぱりまだ甘いにゃあ。」


 薄黒く汚れた鎧に重い足取り。いくつかの防具は捨てたようだ。兜が無くなり、チーターのような無駄な肉の少ないスマートな顔があらわになった。


「そうかい。以後気を付けよう…」


 そう応えると、ニャーナイトは両手を地面に付けた。


「どう言うつもりだ?」


「これをすると魔獣みたいで嫌にゃんだが…見せてやるにゃあ」


 前足となった両手から、金属光沢のある爪が生えてくる。


変圧ボルトチェンジ爪銃そうじゅう!」


 ニャーナイトの体から今までとは比べ物にならないほどの電気が迸る。これだけ離れていても、電気の圧のようなものを感じる。


 これはまずい…


 ミミックの体では出ない筈の冷や汗が、体を伝う感覚がした。もっと激しく追撃するべきだったか。

 圧のせいか恐怖のせいか、カタカタと振動する体を無視し、ニャーナイトと対峙する。


「手加減は出来ないにゃあ。この姿にさせたこと、後悔するんだにゃあ。


 そう言ってニャーナイトは地面を蹴った。



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