第10話 次の日
次の日。大会二日目。
俺はいつもより広く感じる押入れで目を覚ました。
昨日は色んなことがあった。
親を助けようとして、助けられなくて。
暴走して、止められて。
結局自分が助けられて。
昨夜、穴が空くほど読んだ手紙と母さんのリボンをしまう。
龍脈で見ている両親の為にも、俺を気にかけてくれる人の為にも、全力で生きる。
「取り敢えず、やってみるよ。父さん、母さん。」
俺が弱いことなんて自分で良く分かってる。
だからといって何もしない訳には行かないっていう、簡単な話。
俺が強いなんて大層なことを言ってくれるモンスターもいる訳だし、もう少し頑張ってみようかな。
体を伸ばす。変かも知れないが、ミミックの体は意外としなやかで、ちょっとは伸ばせる。
体の調子は結構良い。なんなら昨日より良いかもしれない。
かなりの傷を負った筈だが…今の俺はミミックゾンビなので包帯の内側がどうなっているのか全然分からない。
トントントン…
「ミミさーん!おはよーございまーす。起きてますかー」
ティアさんがノックしているようだ。
「ふわぁ〜あ」
欠伸をして、戸を開く。
「やっぱりミミちゃんて読んだ方が良いですかー?ミミちーゃん!起きてー!って、あ、おはよーございます!ミミちゃん!」
体を大きく見せたいのだろうか。整った顔立ちに笑顔を浮かべ、全力で手を振ってくる。
栗色の髪が日の光に当てられて輝いている。それを見ると、ほっこりした気分になる。
「あのねぇ…俺は、男なの!ちゃんは違うでしょ?しかもこんな朝から声でけぇよ!」
「ふふふ…」
「?」
「元気になったみたいですね!よかったです!さぁ!今日も一日頑張りましょー!おー!ほら、ミミちゃんも、一緒に、せーのっ」
グーを上に突き出して、底抜けな明るさを振り撒いてくれる。
こんな笑顔見せられるのは親以外で初めてだ。この笑顔に俺は助けられた。
こそばゆいものを感じつつ、俺は影の手で人差し指を出し…前に突き出して言った。
「おー…って言うとでも思ったか!お前がちゃんと俺のことを呼ぶまで、お前の話には、乗らないっ!」
「そ、そんな…」
決まっ
「朝から喧しい。火山に突き落とせば良かったか。」
店主の声が聞こえてきた。店主、その話は冗談でも言わないで下さい。あと、いいタイミングで割り込まないで下さい。
「「すっ、すいません!」」
謝罪の声がティアさんと被った。このとき俺は、なんだか親近感のようなものを覚えたのだった。
***
「ミミさん。私のことはティアと呼び捨てにして下さい。さん付けは呼ばれ慣れてなくて…」
「そっか。そういうことなら呼び捨てにさせてもらうよ。ティア。」
「はい!」
ティアと少し話していると、店主がおもむろに読んでいた本から顔を上げて俺を見た。
「そろそろ大会に行ったらどうだ?出場者なんだから事前に何かあるだろう」
「そうですね。じゃあ、もう行きます。ティアはどうする?」
「あ、私も闘技場で仕事があるので一緒に行きましょう!」
店を出て、大通りに出る。この大通りから、村の中心にある闘技場まで一本道だ。出店もいくつかあって、今は開店の準備をしていた。働くモンスターを横目に、ふと思いついたことをティアに聞いてみた。
「今回はティアの親が大会に出てるのか?」
ティアが治療室で働いているということは、ティア自身は大会に出ていないと思われる。そうなるとティアの家族が大会に出場することになるはずで、俺なんかよりも家族についていた方がいいのでは?と思ったのだ。
するとティアは少し眉を落として、
「いないんです。」
と言った。
「それは…」
それは、ティアの両親がもうこの世にいないということだろうか。ティアは、俺が思っているよりももっと大変な思いをしてきたのかもしれない。
「…じゃあ、俺と一緒だな。」
俺は、ティアに目を向けていった。色々な思いが混ざって、上手く言葉にできなかった。
それでもティアは、俺の目線に気付いて小さく笑ってくれた。
「はい、一緒ですね。」
そうこうしているうちに闘技場の前に着いた。
「ではミミさん、頑張ってください!応援してますからね!」
そう言ってティアは治療室に向かっていく。その背中を眺めながら、俺は今日も勝つという決意を固めた。
上位者4人は、くじ引きで選ばれた相手とトーナメント戦をする。今日一気に準決勝と決勝をやる為、準決勝の相手はとても重要だ。
そして俺の対戦相手は…
「ニャーナイトか…」
思わず声に出してしまう。ニャーナイトはブロック戦を一瞬で勝利した強者である。前回の大会では決勝まで行っていて、優勝候補筆頭だ。
この村一のスピードから繰り出されるレイピアは、まず目で見ることは叶わないらしい。
速い動きを苦手とする俺にとって、天敵と言える。
うん。やばい。
他のメンツもこの村じゃ有名な人達だから、誰と当たっても大変な事は変わりないけど。
「それじゃあ作戦を考えるとしますか」
俺は闘技場の隅の物置で目を閉じた。生まれのせいかちょっと狭い所が落ち着く。
昨日はあんな事があったので、あまり作戦を練っていなかった。そして今回、相手が相手だから試合中に作戦を立てるのは厳しいと思われる。
少なくともあのスピードをどうにかして対応出来るようにしないと勝ち目は無さそうだ。
「やっぱり影の手か…」
いちいち影の手って言うの面倒だからカゲと呼ぶことにするが、俺はカゲの汎用性の高さを高く評価している。
自由に形を変えられるし、魔力を込めれば消費は激しいが一時的に強度を上げる事ができ、さらに
魔法のレパートリーが多くない俺にとって、カゲの使い方が俺の強さを決めると言っても過言では無い筈だ。
「薄く広げるか…?トラップみたいに使えないかな…」
数分後
「これで上手くいくといいけど…ま、頑張りますか。」
目を開く。
作戦をイメージしながら、俺は物置を後にした。
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