呪いの魔女と忌み子

ruiboss.

第1話 出会い

ある朝、何万何億と繰り返した通り、また私は目覚めた。小さく伸びをして、カーテンと窓を開け、顔を洗う。

歯を磨いて居ると、窓から小鳥が入ってきて、ベッドのヘッドボードに止まり、私に森やそのまわりの村々の出来事を伝えた。今日はどうやら、森の隣に位置する村中総出で秋祭りが行われるらしい。もう久しく人里には降りていない。天気も良い事だし、久々に行ってみようか。…この日は、何故かそう思った。


ホコリを被った余所行き用のドレスにアイロンを掛け、先代魔女から貰ったビロード色の日傘をさし、村の前に移動した。いつの世も人は変わらないものだ。ものを知らず、愚鈍で矮小。それでいて新しいものを作り、1つの群れとして成長することに長けている。私は、人間という存在に興味をもてない。私もかつてはこれらの一部であったのだから、多少の好意はあるはずだが、これらが私にした仕打ちでその好意も打ち消される。

やはり来るべきでは無かったか。こんなことを考える羽目になるとはな。


気を取り直して、魔女は貯蓄が減っていた香辛料の類や糸、庭で育てていない野菜や珍しい肉、何冊かの本を買った。それらを全て、魔法がかかったバッグに仕舞いこみ村を後にしようとした。

すると、村の端の柵に生き物が繋がれているのを見つけた。髪は目を隠すほど伸ばされ、手足は小枝のように細く、おまけに痣だらけで服もボロボロな少年だった。人だったのだ。

同じ種族でありながら、差別し虐める余りに下劣な事象を目の当たりにし、彼女は目を細めた。

「貴方、そこにいて楽しい?」

答えはわかりきっているのに。

「…。」

黙って見上げる虚ろな双眸と出会った。

そこには、灰と血の二色が存在し、死の香りを漂わせていた。それと同時に、彼の過酷な生活がありありと想像された。

「あら、貴方忌み子なのね。」

言葉を選んで、軽く告げる。

「…。」

すぐまた目を逸らされてしまった。

私はこの存在に興味を持った。

かつての私と同じように、弱く孤独な存在。異端児であり、蔑みの対象。嫌悪と畏怖から、虐めても仕方がないで済まされるモノ。

「ねぇ貴方、私の家に来る?貴方の名前は?」

「…。」

まだ少年は言葉を発しない。仕方がないだろう。物心つく前からの暴力と希望のない生活に、彼の心は育たず言葉を知っているのかすら怪しい。

「…そう、ならこの鎖は切ってあげるから、あとは貴方の好きになさい。」

その時にはもう、私は彼を拾う気でいた。

私は彼に自由を与えるふりをして、ほぼ確定の未来を与えた。

こんな虚弱な子供が、繋がれている鎖を切られてどうしろと言うのだろう。そこで待っているという選択肢は彼にはなく、私に付いてくる以外の道もまた、彼には用意されていないのだ。

「…変な傘。」

小さい声が、恐る恐る私に向かって発せられた。それはあまりに弱々しい威嚇。なので私はこう答えた。

「…気は合いそうね。」

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呪いの魔女と忌み子 ruiboss. @yukinokojika

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